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氷の処刑人は1ミリも触れさせない!  作者: 水色蛍
調査・炎獄の古炉
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第54話:星の炉の重圧

 星の模様が刻まれた、重厚な『コアの隔壁』。

 オスヴァルドが戦斧を構えたその時、私の胸の奥にある古代システムが、ドクンッと大きく脈打った。


 ゴゴゴゴゴ……!


 私が手を近づけたわけでもないのに、まるで主の帰還を歓迎するかのように、巨大な大扉が自動で左右にスライドしていく。


「……マジか。お前のスキルに反応して開きやがったのか」


 オスヴァルドが驚きの声を上げる中、私たちはついに『炎獄の古炉』の最深部――星の炉心へと足を踏み入れた。


 そこは、ドーム状の広大な空間だった。


 部屋の中央には、太陽のように青白く脈打つ巨大な魔力の球体――古代の『コア』が浮遊している。


 そして、その周囲の制御台座には、『星詠みの教団』の姿があった。


「間に合ったか……!」


 オスヴァルドが戦斧を構える。

 教団兵たちは不気味な呪符や黒い金属片を台座にびっしりと貼り付け、無理やり魔力回路を繋いで、コアの術式を強引に書き換えようとしている最中だった。


 ◇ ◇ ◇


「おお……来たか。歩く『星の防衛機構』よ」


 台座の前に立っていたリーダー格の男が、振り返って両手を広げた。


「我らは星の理を書き換え、この腐敗した世界を浄化し、新たな神話の時代を創る。さあ、イレギュラーよ。お前のその特異なシステムを我らに委ね、共に新世界を迎えようではないか!」


 宇宙の真理すら手中に収めんとする、狂信者たちの壮大な演説。

 それがどれほど恐ろしい野望なのか、私には完全に理解することはできない。


 けれど、私の譲れない「目的」だけは、はっきりと決まっている。


「……新世界とか、そういう難しいことは分からないよ」


 私はステッキを握り締め、彼らを真っ直ぐに見据えた。


「でもね。私はただ……素手でおにぎりを握って、みんなと一緒に温かいお弁当を食べたい。大切な人と、ちゃんと手を繋ぎたいだけなの」


「……は?」


「だから! 私の『システム』を、あなたたちの勝手な野望に使わせるわけにはいかない!」


 ただの普通の女の子に戻るため。

 そのささやかで、けれど私にとっては宇宙の何よりも切実な願いのスケールに、教団のリーダーは唖然とした後、仮面の奥で怒りを露わにした。


「……神の奇跡を宿しながら、なんと俗悪な願いしか持たぬ愚鈍な器だ。やはり、お前はここで消去する。その中身だけ奪ってやる」


「出来るのか?そんなこと」


「殺した後に考えればよい」


 ◇ ◇ ◇


 リーダーが制御台座の呪符に魔力を流し込む。

 彼らは書き換えかけているコアの防衛システムを一部利用し、部屋全体の「環境」そのものを操作した。


「ぐおっ……!?」

『……くっ!』


 突如として、何十倍もの重力が部屋中を押し潰すような「空間の重圧」が発生した。

 巨漢のオスヴァルドが膝をつき、通信の向こうの小さな悲鳴。

 上部のダクトから狙撃姿勢をとっていたアリアちゃんまでもが、たまらず床へと引きずり落とされようとしていたようだ。


「オスヴァルド! アリアちゃん!」


 私はオスヴァルドに元へ駆け寄ろうとした。

 その瞬間。


「あれ……体が重い?」


 一瞬だけものすごい重みを感じたが、すぐに足の裏からふわりと押し上げられるような感覚が全身を包み込んだ。


 バリアが異常な重力を察知し、足元からの「反発力」を自動的に強めて、私にかかる重圧を1ミリ手前で完全に相殺してくれたのだ。


 《《けれど、私だけが無事でも意味がない。》》


 苦しげに顔を歪めるオスヴァルドと通信の向こうのアリアちゃん。

 私の胸の奥で、冷たい怒りのようなものが燃え上がった。


「……みんなをいじめないで!」


 私は、腰から『星図盤の撞球杖』をシャキッと伸ばし、両手でしっかりと構えた。


 ◇ ◇ ◇


 ドクンッ、ドクンッ……!


 私の心臓の鼓動と、部屋の中央にある巨大なコアの明滅が、完全にシンクロして激しく共鳴する。


 それに呼応するように、手元のステッキの星図盤がかつてないほどの青白い輝きを放ち始めた。


「な、なんだ……!? コアの魔力流動が乱れている!?」


 教団のリーダーが慌てて台座を操作しようとする。

 私はバリア越しに、空間の魔力の流れをじっと見つめた。


 コアから教団の呪符に向かって、強引に引き出されている莫大な魔力の奔流。

 その「流れのベクトル」が、私にはビリヤードの球の軌道のように、はっきりと可視化されて見えた。


(この魔力の流れ……そのまま、そっちに返すよ!)


 私はステッキの星図盤で完璧な反射角を割り出し、教団が張り付けた魔力回路の基点に向けて、空間を『コンッ』と力強く突いた。


 ピィィィィィンッ!!


 空間そのものを弾くような、澄んだ絶対の拒絶音。

 ただ敵の攻撃を待つだけじゃない。

 コアのシステムと共鳴した私のバリアが、敵が強引に引き出そうとしていた魔力のベクトルを理不尽にねじ曲げ、教団のデバイスそのものへの「反射カウンター」として跳ね返そうとしていた。


「オスヴァルド! アリアちゃん! 今だよ!」


 私の叫びと共に、重圧から解放される一瞬の隙を突いて、二人の頼もしい仲間が反撃の牙を剥く。

 狂信者たちとの、決戦の火蓋が、いよいよ切って落とされた。

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