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氷の処刑人は1ミリも触れさせない!  作者: 水色蛍
調査・炎獄の古炉
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第51話:幻影の教団兵

 マグマの滝のトラップを抜け、私たちはいよいよ『炎獄の古炉』のさらに深い深淵、第五セクター付近へと足を踏み入れた。


 周囲は完全に密閉された地下空間となり、逃げ場を失った熱気がさらに重くのしかかってくる。

 クロエの『超冷却コート』を着ている私でも、景色がぐにゃぐにゃと歪んで見えるほどだ。


『……ごめん。これ以上は、無理』


 右耳のイヤーカフから、アリアちゃんの悔しそうな声が響いた。

 上空を走っていた古代の通気パイプが途絶え、彼女も熱溜まりのすぐ上まで降りざるを得なくなっていたのだ。


「アリアちゃん、大丈夫!? 暑い?」


『暑さもだけど……陽炎が酷い。光が曲がって、スコープの視界がぐにゃぐにゃ。これじゃ、誤射する』


 絶対の精度を誇るアリアちゃんの狙撃が、この異常な環境熱による「陽炎」のせいで完全に封じられてしまったのだ。


「仕方ねえ。アリア、お前は少し上の階層に戻って待機しろ。退路の確保だけ頼む」


『……ん。二人とも、死なないで』


 通信が切れ、オスヴァルドは自身の戦斧をぎゅっと握り直した。

 ここから先は、前衛のオスヴァルドと、防御しかできない私の二人だけで進まなければならない。


 ◇ ◇ ◇


 ドロドロに煮え滾るマグマの海に、一本の巨大な黒曜石の大橋が架かっていた。

 その橋の中央で、私たちの行く手を阻むように「彼ら」は立っていた。


「……狂信者って聞いてたから、ボロボロのローブとか着てるのかと思ったけど」


 私が思わず呟いた通り、彼らの姿は想像と全く違っていた。


『星詠みの教団』の精鋭部隊。

 

 彼らは宇宙の星空を思わせる、美しく流線型の漆黒の装甲(耐熱スーツ)に身を包んでいた。


 一切の無駄口を叩かず、まるで舞踏手ダンサーのように無音で、滑るように陣形を展開する。


 リーダー格の男が、歪む陽炎の向こうから私を真っ直ぐに見た。


「……お前か。星の理を弾き返す、忌まわしき『到達拒否』のイレギュラー。ここで消去する」


「チッ、!!」


 オスヴァルドが前に飛び出し、戦斧に強力な炎のスキル『紅星の爆炎』を纏わせた。


「まとめて灰になりやがれぇっ!!」


 ドガァァァンッ!


 触れたものを一瞬で灰にする超高温の爆炎が、橋の上を薙ぎ払う。

 しかし。


「なっ……!?」


 炎が直撃したはずの教団兵たちの姿が、ぐにゃりと歪んでふき消えた。

 彼らは特殊な鏡の魔導具を使って陽炎の屈折を増幅させ、自分たちの「幻影」をあちこちに作り出していたのだ。


「どこ見てるんだ、デカブツ」


 頭上から響いた無機質な声。

 教団兵たちは手首から射出した特殊なワイヤーを天井の岩盤に引っ掛け、重力を無視したようなワイヤーアクションで空中を飛び交っていた。


 シュガァッ!


 空中から放たれた攻撃は、鞭のようにしならせて軌道を変える『特殊な剣』だった。

 力任せの大振りな攻撃が幻影に吸い込まれるオスヴァルドに対し、教団の流れるような波状攻撃が、彼の巨体を確実に削りにかかる。


 ◇ ◇ ◇


「オスヴァルド!」


 私が助けに入ろうとしたその時、私の死角にあたる背後から、無音で二人の教団兵が襲い掛かってきた。


 シュルルルッ!


 彼らが放ったのは、ブーメランのように不規則に曲がりながら飛んでくる鋭い刃。さらに、ワイヤーの先端についた鉤爪が、四方八方から私を絡め取ろうと迫る。


「うわっ、曲がってきた!」


 私は驚きながらも、慌てることなく腰から『星図盤の撞球杖』を引き抜き、手元の星図盤をチラッと見た。


(えーっと、えーと。多分……ここっ!)


 私はステッキの先で、何もない空間を『コンッ』と小さく突いた。


 ピィィィィィンッ!!


 その瞬間、予測不能な軌道で飛んできた曲がる刃も、絡みつこうとしたワイヤーも、バリアに激突。

 どれだけスタイリッシュで複雑な軌道の攻撃も、私の「見えない壁」の前ではただの物理法則でしかない。


 ズガァァァンッ!


 私がステッキで指定した「鋭角な反射角」によって、凄まじい勢いのまま跳ね返された刃やワイヤーは、ワイヤーアクションで飛んでいた教団兵の仲間同士を空中で激突させたり、勢い余ってマグマの海へとダイブさせたりしていく。


 カンッ、カキンッ!


「ひゃっ」


 さらに、幻影に紛れて投げられた別の教団兵のナイフや手裏剣のような投擲武器が、たまたま私の頭の一ミリ手前でカンカンッと弾かれて床に落ちた。

 完全に私の死角からの攻撃で、私自身はまったく気付いていなかった。


『セレン! もっと周りをよく見なさい! バリアのスキルが無かったら、今頃アンタ死んでたよ!!!』


 イヤーカフから、王都の通信席にいるクロエの心臓が止まりそうなほどの怒鳴り声が響いた。


「あわわ、ごめんクロエ! でも、勝手に弾いてくれるから平気だよ!」

『そういう問題じゃ――』


 私は周囲で勝手に自滅して転がっている教団兵たちを見て、首を傾げた。


「どんなにカッコよく動いても、壁にぶつかったらそのまま跳ね返っちゃうんだよ?」


 教団の波状攻撃が私のデタラメな防御(と反射)によって崩れ、動きが止まったその一瞬。


「幻影が解けたぜ、星のオタクども。……これで終わりだ!!」


 ドガァァァァンッ!!


 オスヴァルドの渾身の爆炎が、今度こそ教団兵たちの実体を的確に捉え、黒曜石の橋の上に紅蓮の華を咲かせた。

 アリアちゃんの狙撃がなくても、私とオスヴァルドの「理不尽な防御と剛腕」のコンビネーションは、星の狂信者たちを確実に打ち砕いていた。

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