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氷の処刑人は1ミリも触れさせない!  作者: 水色蛍
調査・炎獄の古炉
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第50話:マグマの滝と3クッションボール

 王都のシーカーズ本部が慌ただしく動き出していることなどつゆ知らず。

 私たち三人は、『炎獄の古炉』のさらに深い階層――第四セクターへと足を踏み入れていた。


「ふぅ……さすがに、底に近づくと熱気が跳ね上がりやがるな」


 周囲を流れるマグマの川はさらにその幅を広げ、空気は目に見えて陽炎のように歪んでいる。

 異常な熱耐性を持つオスヴァルドでさえ、額に浮かんだ汗を乱暴に拭っていた。


「オスヴァルド、お水飲む? あっ、直接手渡しできないから、そこの岩に置くね」


 私はリュックからクロエ特製の金属製水筒を取り出し、ひょいっと手近な黒い岩の上に置いた。

 私のバリアの中は『超冷却コート』のおかげでずっと涼しいので、相変わらず汗一つかいていない。


「おっ、助かる。……って、おいセレン。水、沸騰してんじゃねえか」


 オスヴァルドが水筒の蓋を開けると、ボコボコと音を立てて熱湯の蒸気が噴き出した。

 外の空気に触れた瞬間、一瞬で沸点に達してしまったらしい。


「あ、ほんとだ。カップラーメンが作れそうだね!」


「呑気なこと言ってんじゃねえよ。まあ、俺のスキルなら熱湯でも美味く飲めるがな」


 オスヴァルドは苦笑いしながら、熱湯を一気に喉に流し込んだ。


「えええ、本当に飲んだ……」

「何引いてやがんだ」


『……セレン、オスヴァルド。前方、開けた場所に何かある』


 上空の通気パイプを移動しているアリアちゃんから、通信が入る。

 私たちが警戒しながら進むと、そこにはナハトローゼ家の私兵団のものとは違う、不気味な野営の跡があった。


 ◇ ◇ ◇


 焼け焦げた魔物の骨のそばに、見慣れない「異端な呪符」や、複雑な幾何学模様が刻まれた「黒い金属片」が落ちている。

 私はバリア越しに魔導カメラを構え、パシャリとシャッターを切った。


「クロエ、データ送るね。これ、さっきの兵士さんが言ってた『別の連中』の落とし物かな?」


 数秒後、右耳のイヤーカフから、ひときわ真剣なクロエの声が響いた。


『データ受信したわ。……セレン、気をつけて。いま第零開発区のアクネス先輩に金属片の画像を見せたら、その加工技術は「神話時代の技術を模倣している」って』


「神話時代……?」


『ええ。それに、呪符の紋章を見たカノープス先生と局長が言ってたわ。……そいつら、星のシステムそのものを神と崇める狂信的カルト、『星詠みの教団』の残党よ』


 クロエの背後で、局長たちが慌ただしく資料をひっくり返している気配が伝わってくる。


『奴らの目的は遺跡の調査じゃないわ。システムの「破壊」か「簒奪」よ。絶対に、鍵のある最深部へ行かせてはダメ!』


「狂信者だと……? 厄介な連中が入り込んでやがる」


 オスヴァルドが戦斧を構え直し、鋭い視線を奥へと向けた。

 その時だった。


 ゴゴゴゴゴゴッ……!!


 突如として遺跡全体が大きく揺れ、私たちの行く手を阻むように、巨大な防衛ギミックが作動した。

 頭上の巨大な岩盤が開き、そこから文字通り「マグマの滝」が、道を塞ぐようにドバァァァッと流れ落ちてきたのだ。


 ◇ ◇ ◇


「チッ、教団の奴ら、後続を絶つために遺跡のトラップを暴走させていきやがったな!」


 道は細く、マグマの滝を迂回することはできない。

 オスヴァルドが前に出て、戦斧に自身の固有スキル『紅星の爆炎』を纏わせた。


「吹き飛べぇっ!!」


 あらゆるものを一瞬で灰に還す、超高温の爆炎による一撃。

 滝の一部がジュワァッと蒸発し、確かにマグマは一瞬だけ掻き消えた。

 しかし、上から絶え間なく降り注ぐ大質量の液体は、蒸発した空間をすぐに埋め尽くし、再び強固な熱の壁を作ってしまう。


「くそっ! 俺の爆炎は触れたものを燃やし尽くすが、相手が延々と降り注ぐ液体の岩じゃあ、相性が悪すぎる!」


『……狙撃も無意味。滝の奥の動力部まで、弾が届かない』


 上空のアリアちゃんも、スコープ越しに静かに首を振った。


 絶体絶命の地形トラップ。

 だが、私のイヤーカフの奥から、クロエの頼もしい声が響いた。


『セレン! マッパー班が、送られてきた地形データと古代の設計図を照合して、突破口を計算してくれたわ!』


「ええ、お仕事はやっ!!! ど、どこを狙えば??」


『アンタの右斜め上、三〇度の角度! そこに崩れかけた古代の柱があるはずよ。そこを起点にしてバリアで滝を弾けば、滝の勢いを利用して奥の動力部をぶち壊せるわ!』


 私は言われた通りに視線を上げ、マグマの滝の奥にある崩れかけた柱を見つけた。

 腰から『星図盤の撞球杖』をシャキッと伸ばし、手元の星図盤で角度をピタリと三十度に合わせる。


「りょうかい! クロエも、リゲル先輩たちも、ありがとう!」


 私は杖の先で、何もない空間を『コンッ』と突いた。


 ピィィィィィンッ!!


 その瞬間、滝のように降り注ぐ数千トンのマグマが、バリアに激突した。

 ビリヤードのクッションボールのように、完璧な反射角を与えられたマグマの濁流は、威力をまったく殺すことなく、右斜め上の柱へと激突。


 ズガァァァァァンッ!!


 跳ね返った大質量のマグマが柱をへし折り、その倒壊した残骸が、滝を流し落としていた奥の巨大なバルブ(動力部)を完全に破壊した。

 ピタリ、とマグマの供給が止まり、塞がれていた道に安全な空間がポッカリと開く。


「ふふーん! 王都のみんなのナビゲートのおかげだよ!」

 

 私はステッキを肩に担いで、えっへんと胸を張った。


「……だが、感心してる暇はねえみたいだ」


 オスヴァルドは崩れた罠の奥、さらに赤く脈打つ迷宮の底を睨みつけた。


「急ぐぞ。お前の大事な『星のシステム』を、イカれた狂信者どもにいじらせるわけにはいかねえからな」


 私たちは力強く頷き合い、第三勢力の影が色濃く残る、灼熱の深淵へとさらに歩みを速めた。

「幕間(おまけ話)」


◇カペラ・アンドレアン:

シーカーズの局長。すらりとした長身に白衣を羽織る美女だが、古代文明の神秘に目がなく、ロマンにどっぷり浸かっている変態学者(褒め言葉)。


◆スキル: 『幻星の追憶:ファントム・レコード』

触れた古代遺物アーティファクトが「過去に存在した当時の光景」を、ほんの数秒間だけホログラムのように空間に映し出すことができるスキル 。人によってはハズレスキル。


外の世界の学者からは喉から手が出るほど欲しがられる能力だが、本人は「ほんの一瞬しか見えなくて謎が深まるから逆に夜も眠れなくなる!」と憤慨しており、結界内で泥臭く推理する方を選んでいる 。

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