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第13話:巨大スライムのお掃除

「ーーッ!?」


突如、塔の最深部に無機質な警告音が鳴り響いた。


足元の石畳が透明になり、まるで宇宙空間に放り出されたような星空の幻影が広がる。


無数の光の輪が私たちの体を個別に囲い込んだ。

神話時代の防衛システム『強制隔離』だ。


「なっ、空間が分断されるぞ!」


オスヴァルドの叫びも虚しく、星の瞬きと共に私たちの視界は真っ白に染まった。


◇ ◇ ◇


『セレン、無事!? 空間が四つの隔離ブロックに分断されたわ!』


イヤーカフから、クロエの切羽詰まった声が響く。


「うん、私は平気だよ。みんなは?」

『……それぞれに強大な生体反応が出現してる。でも、心配する必要はなさそうね』


クロエがふっと息をつく。


彼女の言う通りだった。


別の空間に隔離されたオスヴァルドの前には、巨大な鋼鉄のゴーレムが立ち塞がっていた。


「寝不足でイライラしてんだよ、さっさとスクラップになりやがれッ!」


彼は苛立ち交じりに『紅星の爆炎(プロミネンス・フレア)』を放ち 、分厚い装甲ごと一瞬でドロドロの鉄くずへと変えてしまう。


フェリクさんの空間では、高速で残像を描く暗殺型の魔獣が襲いかかっていた。


しかし彼は表情一つ変えない。

冷徹なまでの無表情でスッと腕を伸ばし、『凶星の崩蝕(エクリプス・ベイン)』で空間ごと魔獣の弱点を殴り砕いた 。


そこにいつもの穏やかな青年の姿はなく、まさに無慈悲な殲滅者だ。


そしてアリアちゃんは、遥か上空を旋回する飛行型の魔物を前に、小さなため息をついた。


無表情のまま巨大な狙撃銃を構え、『極星の穿光(ポラリス・スナイプ)』で心臓を正確に撃ち抜く 。


「……早く終わらせて、セレンのところに戻る」


結界の外で「泣く子も黙る」と恐れられるシーカーズのエリートたち。

その本職の殲滅力は、古代の守護者だろうと一切の遅れをとらない。


◇ ◇ ◇


一方、私の方はというと。


「うわぁ……おっきい」


目の前に現れたのは、塔の魔力の残滓が集まってできたような、巨大なゲル状の魔物だった。

ドロドロとした半透明の巨体が、私をすっぽり飲み込もうと波打ちながら迫ってくる。


「ま、いっか。いつものように跳ね返しちゃお」


私は両手を前に突き出し、迫る巨体にバリアの反発力をぶつけた 。


「はい、そのままお返しドーン!」


ぽよんっ。


「……あれ?」


手応えが全くない。

ゲル状の魔物は私の『孤星の絶対距離』にぶつかっても、その衝撃を柔らかい体で吸収し、ぐにゃりと変形しただけだった。


ダメージを受けるどころか、そのまま私を包み込むようにのしかかってくる。


「うそっ、反射が効かない!? 」


私の体は1ミリのバリアで守られているから、直接溶かされたり潰されたりすることはない。


でも、このままスライムの中に閉じ込められたら、息はできても身動きが取れなくなる。お家に帰ってクロエの温かいご飯が食べられなくなってしまう!


『セレン、物理反射が効かない相手よ! 何か別の方法を……!』

「うーん……そうだ!」


私は隔離部屋の奥に目を向けた。


そこには、この塔が「巨大な空気清浄機」である証拠拠――星のゴミを砕いて処理するための、巨大な廃棄ダクトと粉砕歯車がゆっくりと回っている 。


直接倒せないなら、環境を利用してお掃除してしまえばいい。

私は意を決して、巨大こんにゃくに向かって自分から走り出した。


「こっちだよー!」


獲物が向かってきたとばかりに、魔物が大きくうねりを上げて私に覆い被さってくる。


私の頭上に巨大な質量が落ちてきた、その瞬間。


「バリアの表面、超ツルツルにするね!」


私はバリアの反発力を斜め後ろへ向け、滑り台のように摩擦を完全になくした。


ドゥルンッ!!私を押し潰そうとした魔物は、行き場を失った勢いそのままに、私のドーム状のバリアの上を勢いよく滑り抜けた。


さらに足元の床の魔力圧力も利用してツルツルに滑らせる。

ブレーキの利かなくなった巨大ゲルは、まるで氷の上を滑る石のように、一直線に部屋の奥へと滑っていく。


「はい、お掃除完了!」

ズギュルルルルッ!!


魔物は見事に廃棄ダクトへと吸い込まれ、粉砕歯車に巻き込まれて光の粒子となって消滅した。


◇ ◇ ◇


「ふぅ……」


その直後、空間を隔てていた星空の幻影がスッと消え去り、元の広いターミナルへと景色が戻った。

隔離が解除され、4人が再び合流する。


「セレン、大丈夫か!?」


オスヴァルドが駆け寄ってくる。

彼ら3人は、敵の返り血一つ浴びておらず、息すら乱していない。


私は少しだけ息を切らしながら(走って誘導したからだ)、額の汗を拭った。


「へへ、危なかった。やっぱり、私一人じゃこんなもんだね」


私はただのポンコツな女の子で、工夫がないとスライム一匹にも手間取ってしまう。


前衛で戦ってくれるみんながいて、耳元でクロエがナビゲートしてくれるから、こうして外の世界でも生き残れるのだ 。


「……ふっ、何言ってやがる。お前は本当に、底が知れねえな」


オスヴァルドは呆れたように笑った。


「……セレン、無事」


アリアちゃんがトコトコと歩いてきて、無表情のまま私の腰のあたり(の1ミリ手前の空気)にギュッと抱きつく。


フェリクさんも、いつもの穏やかな微笑みを取り戻して頷いていた。

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