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(10) 殺人犯B

私と部下は応接室ではなく、直接犯人のいる場所へ向かった。


ノックをして、声がしてから部屋に入った。


「どうも。お声かけいただければわざわざここまで来ていただかなくても応接室に行きましたのに」


「あまり時間がないもので」


部下は早口で相手に言った。


「今日はどんなご用件で? 話すことは前に話しましたし、他の警察の方にも話しました」


白々しい演技に私は腹が立っていた。


「単刀直入に訊きます。あなたが殺人を犯した動機はなんでしょうか」


部下の言葉に犯人は眉一つ動かさなかった。


「ちょっと言っている意味がわかりません。私が犯人だと?」


「あなたは事件当日、恐らくは呼び出されてあの現場に向かったのでしょう。しかし、家族が寝静まるまで待つ必要があったあなたは予定より遅れて現場に到着した。そこで見たのは、死体と人を殺めた女子生徒が一人」


「それで?」


「あなたは教師として、人として本来ならすぐに通報すべきでした。しかし、あなたはそれをしなかったどころか、そこにいた女子生徒を殺害しています」


「中々面白い話なので横槍は入れずに聴きますね」


犯人は座っていられなくなったのか、立ってふらふらと歩きだした。


「現場にあった凶器は一つで二人の殺害に使われたことがわかっています。そして争った形跡はなく、後ろから頸動脈を一掻きです。亡くなった女子生徒はあなたに殺害を頼んだか、それともわざと(・・・)大きな隙を作ったのかのどちらかです」


「わざと…………?」


そこで犯人は立ち止まった。


「例えばあなたが憤りのあまり自分を殺してくるようなことを敢えて言う。自分も死ぬために」


犯人はその考えに至っていなかったようで動揺の色が見えた。


「横山久留美さんは生きていますよ?」


「は?」


部下のその言葉に犯人はもう自分を隠すことはできていなかった。


「嘘だ……だって、いや間違いなく彼女は死んでいた。間違いない。俺が見間違えるはずがない」


部下はそこで写真を2枚(・・)取り出した。


「あなたがよく知るのはこちらの横山久留美さん。そして、今回あなたの目の前で亡くなっていたのは双子の妹(・・・・)である横山(よこやま)姫美(ひめみ)さんです」


「ふた、ご……?」


「あなたはこの高校に来てまだ日が浅い。生徒全員の名前を覚えられていなくて仕方がないでしょう。しかもこの双子はどちらも学校に来ておらず、まとめて問題児扱いされていました。よく見ると、妹の姫美さんの方は口元にほくろがあります」


知っている者なら写真で判断できるだろうが、知らなければこの双子を見間違えても不思議はない。


犯人は必死に情報を整理しているように見えた。


「初めてお話を聴いたとき、あなたは横山久留美さんの写真を見て、見たことはあるがよく知らないと答えた。しかしそれはあり得ないんです。この二人はこの半年間一度も学校に来ていません」


犯人は言い返す言葉もなく唇を噛んでいた。


「私たちは初めから疑っていました。間もなく逮捕状を持った警察官たちがやってくるでょう。あなたが家にいない間、奥さんに最近気になる行動はなかったかを聞きました。あなたは普段やらない庭の草むしりを突然始めたそうですね? 調べた結果、血まみれの衣服が庭の土の中から出てきましたよ」


犯人は追い詰められ、頭を抱えて泣きながら、身勝手な主張を大声で張り上げた。


「あいつが…………あいつが久留美を殺したって言うから! あいつは久留美を侮辱した! あいつの家庭環境も学校に来ないことも、心から優しい子なのに学校では媚を売っているだらしない女だって言いやがった! 俺はそれがどうしても許せなかった! 久留美のことをなにも知らないくせに! 例え久留美を殺していなくてもそれは許せない!」


犯人は肩を上下させていた。


私は犯人に亡くなった女子生徒と横山久留美との関係を話した。


とても仲が良かったこと、亡くなった女子生徒は横山久留美を恋愛対象とまで見ていたこと、そんな関係性の二人がお互いを侮辱することなどないと。


私が女子生徒を殺害したことについて問いただすと、犯人はうなだれて話した。


「久留美は、あの子はとても辛い境遇にあった。なのにそれを周囲に見せることなく、健気に笑っていた。それはこの世のどんなものより美しかった。学校の外でたまたま会ったとき、俺が赴任した高校の生徒だと知って驚いた。初めは辞めさせようと思った。でも話を聞いて、そんな気は消え失せた。俺がこの子を支えてやらないと、この子の力になりたいと心から思った。俺はたまに彼女が働く店に行って、少しでもとお金を渡そうとしたが、彼女は決して受け取らなかった。そんなところも彼女の魅力だった」


どうしてこうなった、と悔しげな声を漏らす犯人のもとへ、数名の警察官が到着した。





犯人が連行され、私と部下の二人だけが残った。


「先輩、あいつは横山久留美と交際していたわけではないんですよね?」


仮にそうだった場合、横山の口からその関係を言われていてもおかしくない。更には犯人に妹の話をしていると考えるのが妥当だ。


つまりは一方的な感情だろう。


「なんか、気分悪いですね」


私は部下に同意した。


親友、そして妹を同時に失った横山久留美の心情を察すると胸が痛くなった。

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