(9) 問題児
私と部下は吉祥寺のとある喫茶店で、榊原に呼んでもらったある人物を待っていた。
入口が開く音がして、写真通りの金髪で快活そうな女子高生が入ってきた。
私は彼女を呼び寄せて席に座らせ、飲み物を頼ませた。
「横山久留美さんですね、大変なときに呼び出してごめんね」
「いえ」
横山が部下に返す言葉には、話に聞く普段の明るさはもうどこにもなかった。
私は亡くなった女子生徒と何があったのかを単刀直入に聞いた。
横山はどこから話しましょうか、と落ち着いて、いや、様々な出来事が重なりすぎて疲れはてている様子だった。
「あの子と仲良くなったのは吉祥寺でばったり会ったときです。もう知ってるかもしれませんが、私はろくに学校に行っていません。うちは貧乏なので昼も夜も働いています。警察の人にこんなこと言ったら本当はダメなんでしょうけど」
昼間に高校生を働かせる業者は問題だが、嘘のつき方はいくらでもあるし、そんなことが世の中にないとは警察として恥ずかしながら言えない。
「私の働くお店を知った彼女はそれからたまに部活の後に来てくれるようになりました。そこで私は家のことを話して、彼女も自分の家のことを話してくれて、悩んでいることも話してくれました」
私は亡くなった女子生徒が悩んでいたことについて詳しく聞かせてくれるよう頼んだ。
「彼女の家はシングルマザーで、でもお母さんはバリバリ働いているらしくお金に困っていることはないそうです。ただ、たまに離婚した家族と会うことがあったみたいで」
ここで青木、近藤の話と中村の話が食い違った理由が判明した。
恐らく亡くなった女子生徒は中村に離婚した家族の話はしていなかったのだ。
「その離れた家族とうまくいっていなかったとか?」
「いえ、家族として仲は悪くないと言っていました。別れた理由もすれ違いのようなものだったそうで、親も交えて会うそうです。問題なのは向こうの子供、四つ上のお兄さんです」
私と部下は束の間、少し安心していた。
「体裁上、彼女はそのお兄さんと仲良く振る舞うようにしていました。でも、本当はそのお兄さんに…………乱暴されていたそうです」
私は数秒前の自分の愚かさを恥じた。
「そんな…………」
部下も返す言葉を失っていた。
「私はその話を聞いた時、怒って、泣いて、心がぐちゃぐちゃになりました。それもあったんでしょうか。彼女は私に何でも話してくれるようになりました。私も彼女には何でも話して、親友ってこういう感じなのかなって、私はすごく嬉しかったんです。そう思っていたのは私だけだったのですが」
横山の言い方は自分だけが親友だと思っていたというように聞こえた。 しかしそうではなかった。
「彼女に告白されたんです。私のことが好きだと。でも私は彼女を友達以上に見ることはできませんでした。そして、彼女を傷つけました」
亡くなった女子生徒は横山を恋愛対象として見ていたということだ。
「彼女はとても苦しんでいたんだと思います。私に気持ちを伝えるときも辛そうな顔をして、すごく悩んでいたんだとわかりました」
私は横山に、女子生徒の死の理由を知りたいか尋ねた。
「聞きたいですけど、受け止める自信がありません」
私は機会をみて伝えると約束して今は伝えないことにした。
彼女にはこれから、もっと辛いことが待ち受けている。
「次会うのはお葬式の時かもしれませんね」
私と部下は横山を置いてK高校に向かった。
これから犯人と話をするために。
一つ一つの出来事や、感情が奇跡のように絡み合って今回の事件は起きてしまった。
しかし、例えどんなことがあっても、人の命を奪うことは許されることではない。
K高校に向かう途中、私は怒りを抑え、冷静さを装うのに必死だった。




