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M列車で行こう〜魔導列車で征く異世界の歩き方〜  作者: 安指 蔵久
第一章 線路一 旅は道連れ
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一号車 『カム・トゥ・テザー』

 連休の最終日。

 

 いつもは昼頃の起床だが、今日は早朝から目が覚めた。


 夏から抱えていた仕事も全て手を離れた。しばらくはのんびりすると決めている。


 たまには休日らしいことをしてみよう。

 そう思い立ち、この際なかなか日課にできない『ぶらりと散歩する』を実行することにした。

「……体も少しは動かさないとなぁ……」

 スエードのロングジャケットを羽織ると家を出た。

 

 ――独立してもう三年になる。

 ……以来、独り言が増えた。

 家にこもって仕事をこなしているうちに夏は過ぎ去り、人もまた去り、俺は置き去り。

 ……外はもう秋の気配という感じだ。

 

 街路樹が色づき始めている。銀杏も黄色い葉に変わっていた。

 落ち始めた枯葉を踏む音……と、微かに聞こえる石焼き芋の声が秋の到来を実感させる。……焼き芋食いたい。


 公園まで歩いて来ると、園内にある博物館では、鉄道フェアのような催し物が行われている。

 この公園には蒸気機関車が展示されている。多分それでだろう。石焼き芋の声はここからだった。……後で買おう。

 世間はちょうど連休中。今日はその最終日だ。家族連れにはもってこいだろう。

 全国の土産ものや駅弁もあるようだ。素晴らしい。

 

 俺は、日本の鉄道の父と謳われる人物と同姓同名。読みが違うし、縁もゆかりも全くない。

 それを知って以来、なんとなく鉄道にシンパシーを感じ……なくもない。

 敢えてと云うなら駅弁だ。……あれは良いものだ。


誘われるままに会場に吸い込まれた。



 ――色々と買い込んだ。

 目についた駅弁は片っ端から手に入れたし、ご当地の土産の定番銘菓の数々も大人買いした。

 もう持てる限界だ。食べ切ることができるのかどうかも怪しい。

 冒険をしてしまったか?……いや、何があろうと駅弁は決して裏切らない筈だ。……知らんけど。


 そんなどうでもいいことを考えつつ、帰路につこうと踵を返すのだった。……が、せっかくなので、メインの鉄道展示物を冷やかすことにした。……ついでにね。


 鉄道の歴史、様々な用途の車両の数々、鉄道に関する資料がズラッと並ぶ。

 開業当時の東京駅の様子のジオラマや、色々な模型が展示されている。

 鉄道好きにはたまらないだろう。……そうだと思う……気がする。たぶん。

 連休最終日でもあり親子連れが多い。皆、食い入るように見ている。


 普段から『少年の心を忘れないナイスミドル』になることを心がける我が身としては、大いに見習いたいものだ。

 

 鉄道関連アプリの読み取りコードも結構な数だ。便利アプリもあればゲームもある。

 鉄道の歴史や豆知識を纏めた『世界鉄道大百科』なるアプリもある。

 あの子供も、この子供も、皆が親にせがんでいる。当然だろう。

 大百科、大図鑑という響きに抗える子供がどれだけいるだろうか?――否だ。


 俺も勿論ダウンロードだ。

 ダウンロード、ダウンロード、ダウンロード。

 ダウンロードとダウンロードの合間に……ダウンロード。

 ……少年の心を止めることができない。


 昼時となり、駅弁のコーナーにも人だかりができはじめた。

 それを横目に、会場を出た。

 両手には戦利品がぶら下がってる。

 ベンチで駅弁を食べて行こうか……とも思ったが、大量に買い込んだ駅弁が袋の外からでもわかる。

 使いに出された気の毒な人と思われるかもしれない。……いや、大食いのプロだと思われかねない量だ。

 まぁやぶさかではない。……嘘だ、一度には食い切れん。


 とにかく、一旦座りたい。

 ベンチを探して歩きだすと、公園の一角に展示されている『それ』に目がとまった。


 蒸気機関車だ。


 機関車は一両だけ客車を連結した姿で佇んでいた。

 脇には階段が付いた短いプラットフォームが設けられている。


 子供の頃からそこにあって、何度も乗り込んだ思い出がある。

 決して多くはない鉄道への愛は全て駅弁に捧げてはいるが、幼い頃は運転席に座って操縦ゴッコした記憶もある…

 あの頃はロボへの変形を切望していたが……これも鉄道愛の一つだろう。……違うかもしれない。


 ……そのまま通り過ぎることも出来る。

 しかし『少年の心』がそれを許さない。

 ……勿論、見に行く。

 


 遠くまで秋晴れの空が広がっているのに、この辺りだけどんよりとしている。降り出すかもしれない。

 昼時だ、辺りには親子連れが二組ほどいるだけだ。

 大方の案内員達は側の白テントで弁当を広げているようだ。……俺も食べたい。


 近くに来ると、複雑な機械仕掛けの大きな車輪周りからだろうか、微かにオイルの匂いが鼻をつく。……にしても、でかい。

 楽しそうに運転席に乗り込んでいる子供の様子に平和を実感しつつ、スマホで列車の周りをぐるりと撮影してみる。


 今まで何度も目にしている機関車だ。

 車体の番号は毎回忘れるが愛称は覚えている。……確か“貴婦人”だった気がする。それとデゴイチみたいなのもあった筈だ……あとで確認しよう。


「……わるくない……」


 なかなかの構図で撮れてるな、などと自画自賛していると、親子連れ達は機関車から離れて行くようだ。


 頭の上の方で、微かに曇天がゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


 駅弁も食べたいし、そろそろ引き上げよう……とも思ったが、せっかくなのでちょっと乗っていこうかなぁ……などと思い直し、プラットフォームに上がることにした。

 

 入り口前に戦利品を置くと、運転席に乗り込んだ。

 子供の頃はもっと広かった気がする。

 あちこち撮影していると、懐かしさも込み上げてくる。

 子供の頃の記憶も蘇るというものだ……

 辺りに誰もいないのをいいことに、なんとなくやってしまった。


「出発進行!」


 思いの外、大きな声が出てしまった。

 

 刹那、強烈な光と破壊音が響いた。


 


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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