終着駅
「――よし……」
緊張が解けて、独り言ちた。
漏れ出た声に、安堵が滲み出てしまう。
列車は何事もなく無事に終点へ到着した。……と同時に人だかりに囲まれた。
相変わらずの賑やかな出迎えだ。
多くの人々が挫折し、断念せざるを得なかった難業、その永らくの念願が成されたのだ。
今回はひとしおだろう。
皆、満面の笑みを浮かべて口々に歓声を上げている。
群衆から飛び交う賞賛の声を耳にしつつ、指差喚呼をしていると、係員達から客扱い終了合図が来た。
「――ご苦労さん、罐ナカするからハコは全収容で頼む」
ほかでも作業が終わる頃合いだ。
「――ああ、マイテフも今だけは収容しておいてくれ」
指示を出しながら、焚口戸を開いて覗き込む。まだしばらくは持ちそうだ。
「――それで頼むよ」
押し寄せる人々が口々に、もう乗れるのか?……って質問攻めだ。
毎度のことだが、今着いたばかりだぞ。
いつも通り軽口を叩きつつ、懐中時計に目を落とした。
……っと、もう時間だ。
ふと視線を駅舎の外へ向けた。
駅前に面した円形広場の馬車寄せには、式典のお祭り騒ぎを見物しようとしているのだろう、豪華絢爛な馬車が所狭しとひしめき合っている。
遠目からでも、皆の楽しそうな雰囲気が見て取れる。
その車群の手前、駅舎の中央口に一際目立つ豪奢な四頭立ての馬車が控えていた。
濃紺の磨き込まれた客室の扉には、王家の紋章が控えめにあしらわれている。
明日の式典を控えて、城にて申し合わせの予定だ。王室が寄越した迎え一行が既に到着していた。
「おーい、誰か城まで一緒に来てくれ」
係員達に一声かけると、そのまま駅舎を出た。
乾いた風が、秋の気配を運んできた……
出迎えの護衛の騎士達と軽く挨拶を交わし、用意された馬車に慌ただしく雪崩れ込んだ。
広場を出て目抜通りに抜けると、城に向けて馬車はゆっくりと走り出した。
登城するのも、もう何度目になるだろうか。馬車での出迎えは初めてだ。
街路樹が敷き詰めた枯葉の絨毯を馬車はゆっくりと進む。
車輪が落ち葉を噛み砕く音が心地いい。
大通り沿いの軒並みは、どこも式典に向けて華やかに飾り立てられている。
馴染みの酒亭も、振る舞い酒の準備だろうか、いつもと違い酒樽が積み上げられている。
そんな、お祭り気分の街並みを横目に通りを進むと、中央広場が見えてきた。
広場ではすでに式典に集まる人々を目当てにした出店が呼び込みを行い、大賑わいだ。
今夜は前夜祭らしい。人々の顔は皆明るい。
そんな光景を眺めながら、ふと考える。
――人生何が起こるかわからない。
突然訪れた旅路の始まり。
驚天動地に七転八倒。
五里霧中での一期一会。
暗中模索も珍紛漢紛。
万事快調かと思いきや四苦八苦。
一縷之望が塗炭之苦。
絶体絶命からの起死回生。
艱難辛苦の終点が、雲外蒼天とは限らない。
酸いも甘いも甘噛み程度でやり過ごす。
そんな人生を送ってきた。
こんな俺が、荒涼たる大地を駆け巡り、百鬼夜行か魑魅魍魎か……あんなのやこんなのに追い回される日々を送る事になるとは……
まぁ、しかし……
剣も魔法も使えないけれど、毎日なんとかやってます。
――そもそも、何故、こんな俺が今此処で慌ただしすぎる日々を過ごす事になったのか?
あの日、俺はとても機嫌が良かった……
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第一章 線路一 旅は道連れ 一号車 『カム・トゥ・テザー』
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