十四号車 『チケット・トゥ・マジック・ライド』
設定にしくじり昨日投稿できてませんでした……
このあと20時にも投稿します。
――最後に罐を一瞥して、いったんデッキから降りた。
「おあっ!?」……変な声を上げてしまった。
勢いよく降りたすぐそばで、ローゼルさんがガラリオさんに担がれて……もとい、ガラリオさんを踏み台にしていた。後方からデッキを覗き込んでいたようだ。
「もうおわりかの?……魔石を投じる所が見られんかの?」
「……今はまだ補給しなくても大丈夫です。出発後は、試走も兼ねた慣らし運転をしなければいけません。できるだけ節約しないと心配ですので」
そう答えると、肩を落として項垂れた……と思ったら……
「何かを試すのじゃな?……良いのう……楽しみじゃ!」
「……機会があればご覧に入れますよ」……一応気を使った。
「おお、待ち遠しのう……」
……復活した。このままこれからのことを確認しよう。
乗降口のある最後端に歩き出した。他の皆さんは既に待機しているようだ。
「ローゼルさん、もうすぐにでも出発できますが、皆さんはどうなさるんですか?」
ガラリオさんから降りると、足早に前を歩き出した。
「儂は勿論これに乗って行くぞい!」
杖でビシッと指しながら言った。ビシッと音がした気がする。スハフに乗車は確実のようだ。
……結界に弾かれぬようギリギリの間隔を保ちつつ列車の傍を器用に進む。……見えて……感じてるのか……
その距離感を見て、展示中にあった杭でできた柵を思い起こした……結界の正体はあれか……?
……そうだ、ローゼルさんはいいとして……
「他の皆さんは?」
全員乗れるが、馬……竜車はどうするのか? 置いてくのか?……それはないだろう。ここには何もない。本当に何一つない場所だ……これから向かう先はどうなのだろうか。
「おお、正にそれを尋ねに来たのだ……導師に捕えられてしまったが……」
そういうことだったのか……
「牽竜は乗せられぬだろうか?」
竜か……乗降口は人が通るようにしか造られてないからなぁ……ガラリオさんもギリギリだろう。
「いやぁ……大きさ的に無理ですねぇ……入れませんよ」
「であるな……ならば、車を牽引出来ぬであろうか?牽竜は並走させよう」
……無理だな。方法が思いつかない……俺の記憶にはもう叩き込まれているが、出発に際して起こる状況の変化に対応できない。
「牽引もできませんね……並走は……竜はどのくらい早く走れますか?」
……聞いておいてなんだが……速さの基準がわからない……エルリオンは徐行もできるが時間がかかれば魔力も多く消費する。エルリオン自身にも魔力が消費されるからなぁ……
「帰りはな……緩いとはいえずっと勾配だ、休息も多くなるであろう。数日は走れる筈であるが……」
……そうか、言っておくべきだったか。
「この行程なら……エルリオンはラルゴー迄およそ十時間前後で到着する予定です」
「十時間走り通し?……正気か?……いった――」
「魔導水を錬成じゃと!?」
ローゼルさんが食いついてしまった……どこに食いついたんだ……?
「補給しないと、常時錬成は魔力消費が激しいとのことです」……そう聞いてます。職能さんに。
「精製で無く錬成と?……通りで魔力を大量に使う訳じゃ……しかしこれは素晴らしい……錬成するとは……」
ローゼルさんが思考の旅立ちをしているうちにこちらも旅立ちの話を詰めてしまおう。
「朝出れば夕方までには着けるはずです」
「……間違い無いのか?」
「順調にいけばですが……」
「……そういえば、時間のこと聞いてませんでしたね。一日は……一年が何日とか……どうなってますか?」
「……それもそうじゃのう、界を越えたのじゃからの……」
おお、聞いていたのか、マルチタスクな人だ……きっと。
「まず……一年は三百六十日じゃ。それに祝福日が五日ある。一日は二十四時、一時は六十分、一分は六十秒じゃ」
おお?……まったくと言っていいほど同じ……なぜ?……まあ、今はいいか……後で聞いてみよう……覚えてたら。
「同じですね……ならばそのまま十時間前後で到着する予定です。途中何度か止まって魔導水を錬成、補給しますが、基本的に走りっぱなしです」
などと話していると、乗降口前で打ち合わせをしていたフェイデルさん達と合流した。
皆さんは準備できただろうか……できたなら、やることがある。
「フェイデル、朝に発てば夕刻前には魔導院へ到着するのだそうだぞ……牽竜は中に入れぬ。牽引も出来ぬそうだ」
「そんなにも早いのか?……しかし、牽竜と車を置いてゆけん。……導師、如何しますか……?」
まだ、ぶつぶつ言っているローゼルさんは心ここに在らずだ。
「……?……おお、聞いておったぞい、ならばお主たちは……竜牽の車でゆるりと参るがよかろう」
「導師! また俺らを置き去りになさるおつもりですか!?」
ファレオさんがいうのももっともだ……が、俺にはどうにもできない……戻ってきたら何かお礼……なにも無いな……感謝します、多めに。
「……ガラリオ、俺は導師に付き従わねばならない。ポラールも二週間も置いてはゆけん。……頼めるか?」
「仕方あるまい……導師をお止め出来ようもなし。任されよう」
「済まんな、戻ったら飛竜の肉でも奢らせてくれ」
「竜の角笛亭か、楽しみが出来たぞ」
ガラリオさんは竜で行くのか……竜って食えるのか……?
……鶏肉系か?……機会があったら食べてみよう……絶対に美味いやつだ……
……不味いものを奢るような奴はいない。
「じゃ、俺も一足お先に魔導院へ……」
「ファレオ……よもや我一人に押し付けようとはすまいな?」
「……いや、しかし……」
「帰還したら共に飛竜を喰らおうぞ……いいな?」
「……奢らせて貰おう……」
「団長……」
……実に同情させられるが、同乗はできないようだ。
ガラリオさんとファレオさんが置き去り組に決定した。……申し訳ない。なにかお礼……感謝します……もちろん多めにです。
「よし! これにて落着じゃな。ならば参ろうぞ! いざ! いざ! 魔導院へ!」
項垂れたファレオさん達には申し訳ないが……いざ、魔導院へ。
ポッポォォッーー!
エルリオンも準備よし!……しかしその前に……
「――皆さま、……本列車の運行は、試運転を兼ねた特別運行となります」
……おお、つらつらと言葉が出てくる……あの独特な喋りになってなくてよかった……
「本列車は、冥界中央周域発、魔導院行き、エルリオン号です」
なんか勝手に口をついて出てきたぞ……さっきの路線確定がさせるのだろうか?……こうも噛まずによく話せる……我ながらすごいと褒めたいところだが『技能』が作用しているのは明らかだ。
「では皆さん、乗車券……旅券を発行しますのでお受け取りください」
「乗車……券? それは何じゃ?」
「あー、これに乗る為にする……魔法契約……だそうです」……知らんけど。いや、知ってる。
「おお、契約の魔法とは、古風じゃのう」
……古風?……そうなの?……なにが?
「ここでは切符……じゃ無くて乗車券ってないんですか?」
「ああ、乗合馬車に乗るにも硬貨かこれだな」
そういうと首から下げている凝った革の組紐を手繰り、それを見せてくれた。
「これは?」
金属製の小さなプレートのようだが、ドッグタグみたいな感じか?
「これは連盟発行の名付け札だ。身元を明らかにする札だ。魂の根源に紐付けられている」
超高性能だった……しかしまた出てきたな……魂の根源。
マジでサーバーみたいだな……でもそれなら……
「魔法による契約を伴うのであれば、この券も同様のものじゃろう。古代魔法の契約など初めてするわい、楽しみじゃのう」
「まあ、そんな所です。乗車券を所持していればこれに乗れるということです」
手帳を取り出すと旅券発行の頁が開く。初めての頁だ。漸くの旅立ちを前にしてか、捲れる頁の激しさもひとしおだ。……横書きか……手帳を横に持ち直して、ペンを取った。
乗車駅……は無いがこの地点、冥界中央周域とする……まあ、これでいいだろう……そして終点、魔導院と記した――魔導陣が展開した
「では、陣の中心に触れてください」
指が触れると、陣はゆっくり回転しながら手帳の頁に吸い込まれるように収斂していく。
それが頁に触れると魔炎が立ち上り、霧散した。
後には、搭乗駅と到着駅が魔法陣を成し、エルリオンの装飾の箔押しがあしらわれた。
頁に施されたミシン目に沿って破り取ると、ジャッと小気味良い音を立てる。
確認を済ませると、その竜皮紙のチケットを差し出して一言添えた。
「良い旅を」
チケットを受け取ったローゼルさんが、満面の笑顔で答えた。
「――ラルグリアの加護があらんことを」
……なにか良さげな言葉をかけてもらった……が意味はわからん。ここで質問は無粋だろう……
返礼として帽子の鍔を軽く摘んで帽礼し、笑っておいた……引き攣ってないといいが……後でギロ先生に聞いてみよう。
フェイデルさん達にも同じように書くのかとも思ったが、お次の方……と勝手に口から出たところで再び魔法陣が展開した。……リピート機能があるのか?……後はタッチだけで済んだ。同じことを書くのは、三人目くらいで嫌になりそうだったので、安堵した。
――これで車内に案内できるようになった。……ローゼルさんを制御できるのだろうか……
三人に発券を済ませると、腰の辺り、右後ろが震えた……まだ何かあるのか?
恐る恐る手を伸ばすと何か硬いものが……上着を捲ってそこを探る。
それを手にした途端に、何をすべきかを理解した。
……当分こんな感覚が続くのか。
ベルトの革ケースから取り出すと、検札鋏を持ち直して乗降口の扉を開けた。
まだ一日経ってない感覚だ。実際にはわからないが……あの子は無事だったろうか?
デッキに上がって三人を振り返り乗車券の提示を促した。
「乗車券を拝見します」
真っ先に提示したのはローゼルさんだ。フェイデルさんは本来なら自分が先に確認したかったようだが、護衛なのだから当然だろう……が、ローゼルさんは当然譲らず、フェイデルさんは憮然とするし、皆は呆然、俺は唖然だ。……またまた韻を……もういいか。
受け取った乗車券に鋏を入れる。竜皮紙にエルリオンの型押しが刻印された。なかなかに格調高雅だ……わるくない。
「ほう、雅じゃのう」
お気に召したようだ。そのままデッキに上げて客席の方に促す。
平場からデッキまではそれなりの高さがある。
……が、ローゼルさんはなんの苦もなく登った。老人のそれではない。
次にポラール君だ。フェイデルさんの従騎士として、二度目の置いてけぼりは免れた。刻印して奥へどうぞ。
最後はフェイデルさんだ、先触れは敵わずではあったが、殿に落ち着いたようだ。同じく鋏を入れて客席へ通す。ファレオさんがつられて近づいて結界に弾かれた。スハフが弾いた二人目だ、おめでとう。
ガラリオさんは既に皆が向かった客席の方へ移動して外から声をかけている。窓が閉まっていて声が聞こえない。……防音が強力すぎる……魔法だったりして。俺も魔法の存在に慣れて……はいないが職能の知識として頭に入っているのに気づく。結界が音を遮断するようだ。防音性能が凄いな。
……だが……口元に魔導陣が展開する。マイクのようなものらしい。
「ガラリオさん、窓を開けます、少しお待ちを……」
……俺の声は、列車の影響範囲内の任意の場所に出せる。
車掌の技能ということだ……声はガラリオさんの側に展開した魔導陣から流れる。
こちらはスピーカーみたいなものか。
そして生まれてこのかた、開き方さえ知らなかった窓を、苦もなく開けてしまう。
知識が記憶にある。ついさっきから。
ポラール君が興味津々でそれを見ている。
横幅の狭い狭窓がずらりと並ぶ、その一つの左右のつまみを文字通り摘み、押し下げた。
……同時にガラリオさんの大きな声が客車室内に響く。
その声にフェイデルさんが窓に近づいてきた。
「おお、ガラリオ! 中は凄いぞ。これなら尻も割れんぞ」
「戯言を! もう割れておるではないか!」
先程のやり取りを揶揄って笑うフェイデルさんに、うるさいと言わんばかりの物言いで切り返した。
二人とも顔は笑っている。それが長年の友であることをうかがわせる。
遅れてやってきたファレオさんが加わった。
「団長、座り心地はどうなんです?」
「貴族の馬車より広いぞ、座り心地も悪くない、これなら尻に穴も開かん」
「二つ目が開きゃいいのに……」
恨み言で悪態をつくと皆で笑っている。俺も笑っておこう。
「……フェイド、お前が導師を追っていったすぐ後に、ライラから魔伝が届いてな、一度連絡を入れろとの事だ。魔導院に戻ったら連絡しておけ」
「……なんだ? 揉め事は勘弁願いたいんだがな……」
「わざわざ『竜殺し』の、と二つ名を付けたそうだぞ……ただのご機嫌伺いではあるまいて」
「飲み代でも踏み倒したんじゃないんですか? 団長」
「お前と一緒にするな、踏み倒しのファレオ」
「変な二つ名付けないでくださいよ! ポラール! お前の師主は酷い男だぞ、見習うなよ!」
困惑と苦笑いの狭間で揺れるポラール君をよそに、笑い合うおっさん達。……竜殺しってマジ?
そのすぐそばの床に、這いつくばるようにしてぶつぶつ言っている老人がいた。
「……これは精霊樹を使っておるのか? まさか床に? いや、飛行船の船体にも使われておったと云うからのう……何か意味があるのじゃろう……素晴らしい……!」
……安定のマッドソーサリスト一歩手前だ。
こんなテンプレカオスの中だが、皆に伝えておこう。もうすぐ時間だ……
「準備完了次第、出発しますんで。座席は全席自由ですのでお好きにどうぞ。ではお忘れ物のないようお気をつけください」
踵を返すと客車を出た。扉を閉めると魔導陣が出現し、扉に封印がされた。外部からはもう侵入できない……ようだ。そうらしい。
――指差喚呼を行い、その場を離れ、ガラリオさん達の元に歩み寄った。
後最までお読みいただき、ありがとうございます!
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今夜20時にも投稿します。
線路二 『世は情け』の最終話になります。
十五号車 『ヒア・カムズ・ザ・マフルド・サン』
宜しければ……是非。




