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M列車で行こう〜魔導列車で征く異世界の歩き方〜  作者: 安指 蔵久
    線路二 世は情け        
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18/18

十五号車 『ヒア・カムズ・ザ・マフルド・サン』

 ――指差喚呼を行い、その場を離れ、ガラリオさん達の元に歩み寄った。

 


 「本当にお世話になりました。……何か、多大なご迷惑をお掛けするに至ってしまいまして……不徳の致すところと申しますか、『遷魂』の極みと申しますか……」

 ……実際、あれこれ極み散らかしてるしなぁ……

 

「事情が事情なだけにな……中央周域に異常を感じられた導師に供をして十日足らず、昨日からの光の柱の正体が、お主達で安堵したぞ……幽明の門から古竜でも罷り越したかと、肝を冷やしておったからな」

 

「導師が一人でも参る……とか、聞かなくてなぁ……しかし、結果すげえ物を見ることになったぜ5……」

 

「おお、この神々しさ……神馬の名を受け継ぐに相応しい巨躯……これを拝めただけでも暁光であろう」

 

「そんな風に言っていただけるとは……拝謝の極みです」

 

「わははは! 気にせずとも良いぞ、我らも遣いの身だ」

 

「それにな、これから向かう魔導院(ラルゴー)には、あの導師の御同輩が割拠してるぜ……きっとショウ達の事、導陣を張って待ってるぜ」


 ……そんな不穏な事を言って、ニヤリと笑った。

 

「おい! 無礼にも程があるぞ! わははは!」

 

 ……ローゼルさんの御同輩……行って大丈夫なのか?……まぁ冗談と受け取っておこう……本当にわははを声に出す人、初めて見たかも……

 

「そうだ、ショウ、餞別代わりと言ってはなんだが、干し肉と導士糧だ。道中、必要になる。とにかく腹に入れる癖を付けるんだ。身が持たんぞ」

 

「はい、有り難く頂きます」……本当に助かります。

 

「道中、導師達を頼んだぜ!」

 

「エルリオン共々、粉骨砕身、尽力させて頂きます」


 ポッポッーー!

 

 エルリオンも汽笛で謝意を伝える。


「おお! 頼んだぞ!」

 

 ……汽笛に激励を返すガラリオさん達も、エルリオンに、魂の介在を認めている。

 

 ――ここは、そういう世界だということか……


 剣があり、魔法があり、竜がいる。

 騎士が二つ名を持ち、英雄譚や神話が歴史の一部だと云う……そんな世界だ。


 果たして、俺がやっていけるだろうか……まったく見当もつかない。

 

 ……だが、何も出来ない訳じゃない。


 ――今、できることはすべてやったはずだ……あとは……

 

 二人と別れ、デッキの横を通り過ぎてエルリオンの正面へ回り込んだ。

 黄金に彩られ、あちこち変化はしているものの、昼に見たままの蒸気機関車だ。


 ――顔こそ無いが魂がある。

 

 公園じゃ知りもしなかったが、今は退っ引きならない事情ってやつだ……

 あれこれ知ってる感じになってる……

 

 ——『シゴナナ』……戦後直後の復興が始まった頃、広島生まれ。旅客用テンダ蒸気機関車、ついたあだ名は『貴婦人』……当時は最新技術を纏った3世代目……新潟から始まった旅も、時代の波に流され流れ、九州から遠くは北海道まで……窓にはその名残が今でもはっきりと残ってる……


 ……蒸気機関から電気やディーゼルへの過渡期を走り抜け……日本の北から南まで、全国を駆け巡った生涯だった……

 日本海の荒波を……壮麗な山々を……厳しい雪の大地を見つめた日々も今は昔……

 ……罐は冷え、やがて線路を降りた。


 引退後は公園で、相棒になったスハフ32とのんびり子供の遊び相手……

 俺も小さい頃は乗って遊んだもんだ。……少年だった俺の少年の心は冒険の旅をしていたのだろう……いつの頃からか足は遠のいた……今は記憶の彼方だ……

 まぁ、でも……もう、お疲れ様って感じじゃなくなったよな?


 ――せっかくのご招待だ、忘れてた旅の続きを始めようか……


 ……これか――

 

「……っおお! 開いたわい! ショウよ! いつ走るんじゃぁ!? 儂ゃ待ちきれん!」

 

「導師! 窓は閉めてください!……ポラール! なぜ開け方を教えたんだ……!」


 ――せっかくカッコつけてたのに台無しだ……!


 ポッポッ


 お? 気にするなってか? 優しいんだな……

 

 ……あの時にはもう魂を……?


 ポッーー!


 ……そうなのか……あそこでずっと、この時を夢見てたのか?


 ポッポッーー!


 ……ならば行こう。

 行ける所まで……

 きっと何かが待ってる筈だ。


 ポッポッーーー!


 旅立ちの門出だ。

 両手で作るファインダー越しにエルリオンを捉える。

 

「スマホがあれば記念に撮っておくんだけどな……」


 ――手帳が震えた。

 取り出すと頁が開いて魔導陣が展開した。……なんだ?

 

 ――真眼二儘象ヲ映セ

 

 ……? どういう……?

 不意に思い立ち、裏表紙の魔眼を見た。……眼が合った。


「……こういうことか?」


 魔眼をエルリオンの正面に向けた。

 すると、魔導陣が目紛しく変化する。

 格子螺旋が次々に精緻に展開してゆき、それが極まった瞬間、パシャリ、と音を鳴らした気がした……頁が捲れた音だ。

 

「……へ?」

 頁が捲れ、魔導陣と魔炎が霧散した後には、頁いっぱいに黄金のエルリオンの姿が写されていた。

 

「……撮れた」

……カメラになるのか……まるでスマ……やっぱこれがあのスマホなのか……


 あぁ、あのスマホ……いや、コレか……高かったのになぁ……いや、それをいうならスマホどころじゃない、仕事も……全財産置いてきた……

 

 ……でも、全部なくしたわけじゃない。


 人生まだまだ続きがあるなら……賽は投げても匙を投げるわけにはいかない……

 竜が居ようが居まいが、生きていくために必要なことなんて大して変わらない。

 今はとにかく現状を認識しないと……当面の目標は衣、食、住の確保か……


 ポッーー! ポッーー! ポッーー!

 

 ……励ましてるのか?

 ……もちろん魔石もな!

 

 ――よし。


 気持ちの踏ん切りはつけた。


 デッキに上がると準備はすべて整っていた。

 

 列車の状態を示す魔導陣が随所に展開されている。

 目で確認開始を促すと新たな魔導陣が展開する。

 次々に指差喚呼を行う。それに呼応して魔導陣が展開しては役目を終えて消えてゆく。

 

 ――目的地は魔導院(ラルゴー)。

 何故か真っ直ぐ正面に位置する。

 直進あるのみだ。


 魔導汽罐が唸りを上げている。

 魔力を帯びた蒸気が列車を駆け巡っている。

 

 ペダルを踏んで焚口戸を開く。

 正魔力特有だという圧を感じる。

 火室中央では魔力の塊が胎動するかのように燃えている。


 ……いいだろう!

 

 ペダルを離せば、圧搾空気が吐き出される音と同時に焚口戸が閉じる。

 ――結界が通気孔からの魔力圧を遮る。

 

 列車の魔力影響範囲内にアナウンスする。


 口元に魔導陣が展開。この魔法世界のマイクだ……これから幾度も使うことだろう。

 ――職能が必要事項を語らせてくる。


「……皆様、大変お待たせいたしました。

 本日は魔導列車をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。

 本列車は、冥界中央周域発、魔導院(ラルゴー)行き、エルリオン号です。

 本列車は、魔導蒸気機関車エルリオンを先頭に、客車一両の二両編成で運行いたします。


 なお、本列車は通常の旅客運行、及び走行性能の確認を兼ねております。速度試験及び魔力消費その他の確認を行うため、通常より速度を上げる場合がございます。

 お客様へのお願いです。走行中は危険ですので、窓から手や顔、髭や杖をお出しになりませぬようお願いいたします……不用意な魔法も謹んで頂きますよう重ねてお願いいたします」


 ……言わされてる感が拭えないが、よく噛まずに言えるもんだ。……これが技能か……俺のお気持ちも加味されていたが。

 

 ――さて、時は来た……これがなければ始まらない……いや、始められない……

 

 スハフの方から誰かの歓声が聞こえた。あの人だ。


 ポォッーン……


 ――エルリオンから発車前確認の合図が来た。

 

 運転台に並ぶレバー類が挙動を始める……エルリオンが動き出す。

 ……逆転機のレバーがガチリと中立へ動く。

 レギュレーターは、カチ、カチ、と押し戻され、閉じる。

 ブレーキ弁が緩解から制動側へ、シューと息を吐いて圧力計の針を動かす。

 再び緩解へ戻るとそれに針も追従する。

 

 ……自動演奏のピアノのようだ……

 

 展開した魔導陣が異常なしを告げ、波紋のように消える。

 シリンダーのドレンコックが開かれ、魔導陣が確認の待機状態で展開する。

   

 ブロワーバルブが開けられ、火室内の負の魔力が強制排出される。

 役目を終えた負の魔力が、煙突(チムニー)から空へ吐き出される。

 

 ――焚口戸の通風孔から伺える正魔力の魔炎が、勢いを増した。

 

 魔導蒸気圧計の針がそれを肯定する。

 展開した魔導陣は、阻害要因の解消を告げて消えた。……良好だ。

 

 ――道なき道を行くとはいうが、線路なき鉄道ってのはいただけない……


 ……準備が完了した。デッキの開口部から身を乗り出して、列車前方の地面に2メートル強の魔導陣が展開するのを確認。

 そこから広がる魔力の波が、列車の真下を後方まで、魔導陣を点々と、次々に敷き詰めていった。

 

 ……石切りの波紋が澪を引くかのようだ……

 

 前後方向に一両分ずつ、等間隔で連なる魔導陣による道だ。

 その完成を待っていたかのように、エルリオンは煙突(チムニー)から盛大に魔導蒸気を吹き上げた。


 ボゥーーーー!


 長めの汽笛が響くと同時に、安全弁から、シリンダー弁から、そして煙突から、魔力を帯びた蒸気が吹き上がった。……列車は魔導蒸気を纏う。

 足元にも振動が伝わり、デッキ内に吐き出された蒸気が流れ込む。

 ――大量の魔導蒸気が凝結水を吐き出させ、魔力に還す。待機状態だった魔導陣がそれを告げ、消えた。ドレンコックが閉じる。


 蒸気のシュッシュという短い排気音が鳴り続ける中、地表に連なる魔導陣の黄緑の魔炎が大きく立ち上った。徐々に勢いを増して行き、列車の車輪が魔炎に埋もれた頃……


 ポォォッーー!


 警笛を一声、エルリオンからの注意喚起の意思を感じる。


 一瞬、軽い浮揚感に襲われる。

 ……ピストンから、動輪から、連結器から、列車のあちこちがガチャガチャ鳴り始める……

 

 ――列車は敷かれた魔導陣ごと、ゆっくりと浮かび始めた。……蒸気を吐き出す短い排気音が激しさを増す……そのまま、二メートルほど浮き上がった。

 

 ――そこで再び汽笛が響いた。


 ポッーーー!!


 エルリオンが軌条(レール)を召喚した。

 

 ――前方より風が一陣……


 列車が纏っていた蒸気を、辺りの薄靄を巻き込んで吹き飛ばした。

 それを露払いに、浮かび上がった列車と魔導陣の間を、前方から後方に向かう二条の魔炎が走り抜け、その軌跡を残す……

 そして、それが消え去るとそこに、黄金の軌条(レール)が姿を現した。……ぬらぬら輝きを放ち、なかなかに美しい。


「軌条(レール)、召喚よし!」……安定の指差喚呼だ。


 ポッーーー!


 汽笛が軌道(せんろ)の完成を告げた。


「魔導軌道よし!」


 その軌条(レール)の上に車輪が触れる――拘束の魔導陣が展開してガッチリと喰いつかせる。

 軽い振動があり、浮遊感が消える……

 

 ――魔導蒸気が再び噴き出し、汽笛が完了を告げた。


 ポォォッーー!


「二両、停車位置よし!」


 ――線路が召喚された。

 

 今の今まで、無いなぁ……と、薄々感じてはいたが、こういうことだ。

 職能から得た知識がそれを納得させていた。

 ……そして今、眼前にレールが敷かれた。


 ようやく鉄道らしくなった。

 線路の上を走ってこその鉄道だ。

 背後のスハフからは、乗客達がひどく興奮しているのが窺い知れる。……特に一名。


 続いて、先程封じた乗降口の確認を促す魔導陣が、乗降口前に展開する。

 デッキから乗り出し、それを確認。

 

「戸閉よし!」


 さらに……、ローゼルさん達に目を向ける。

 窓にへばりついて、なんとかこちらの様子を伺おうとしているようだが……

 ……まあ、いいだろう……

 

「客扱……よし!」 

 

 傍で呆然と見ていた置き去り組へ、デッキからしばし別れのご挨拶だ。


「それでは、お先に出発させていただきます! 後ほどラルゴーで!」

 

「……そうであるな……暫しの別れだが……再会の折には色々と聞かせてもらおう……

 凄いモノを見……いや、――ラルグリアの加護があらんことを!」

 

「……おお! ラルゴーでな! ――ラルグリアの加護があらんことを!」


 そういうと、片手を高く上げた……この世界でも別れ際には手を振るものらしい……

 ……俺も手を振った。

 

「お二人にも、ラルガ……? 加護があらんことを!」……何とかの。

 

 ――前方に向き直り、車窓越しに、出現した線路を見る。


「……さぁ、エルリオン、そろそろ行こうか」

 

 ポーーーッ!!


 デッキから乗り出して、前方に展開した、出発信号魔導陣を確認。

 

 ――進ムヲ了ス


 ――!……懐中時計にセットしてあったベルがジリリリリと鳴った。出発には御誂え向きだ。


 ――薄霞に指針を示すかのように、前照灯が前方を照らした。

 

 ……ならば……

 

 果たして何が待っているのか……


「……出発、進行!」


 ボォーーーッ!


 ――汽笛一声

 

 ブレーキが解除される……逆転機のレバーがガチリと前進最大位置へ動く――加減弁(アクセル)が開かれた。

 魔導汽罐から勢いよく、シリンダーに流れ込んだ魔導蒸気が、ピストンからクロスヘッドを経て主連棒、そして動輪へとエルリオンの意志を伝える。一瞬、前掻きのよに空転するも魔導陣が展開、レールに動輪を喰いつかせる。

 ブラスト音を響かせて、徐々に速度を上げ、薄霞を押しのけながらゆっくりと前進し始める……吐き出された大量の魔力を帯びた蒸気は、黄緑色の魔力の残滓を纏って周囲に溶けてゆく――


 皆の力を借りて漸く動き始めた列車は、黒曜の大地を、一路、外輪山へ向けて進み始めた。

 目指すは魔導院(ラルゴー)、線路は真っ直ぐ伸びている。


 曇天の分厚い雲の下、届かぬ朝日を背に出発した――


 ……ここまできたら乗りかかった船……じゃなくて蒸気機関車だ……終点まで付き合おう。


 ポッーーー!

 

 汽笛に耳を震わせながらあとを振り返れば、黄金に輝くレールの端が、役目を終えて魔力に還り、消えてゆく。

 

 煙突(チムニー)から吐き出された魔導蒸気もまた天に昇って魔力に還る……置き去りの魔力の残滓はオーロラの幕を引いた……

 ――目で追えば、遥か後方で、竜の棲まうと云う険山が俺たちを見送っていた。

後最までお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも「面白かった」「続きが気になる」「エルリオン達を応援したい」と思っていただけましたら、作品ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】や【ブックマーク登録】をいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!

感想や誤字のご指摘も大歓迎です。


完成次第、『線路三 異世界道中鉄栗毛』を投稿します。


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