十二号車 『フロム・フリム・フラム・ソース』
――フェイデルさん……説明……お任せします……そして、何かモグモグできるものを……
「……説明してもらわんと困る……危険は感じないが……
……波動もだが、強い魔力を感じるぞ……!」
「複雑でな……詳しい話は後だ。ファレオは中か?」
「……おお、途中で交代した、少し前だ……中で休んでおるぞ……」
「そうか、苦労かけたな。――ポラール、糧食を用意してくれ。多めに頼む」
「……はい、師主……」
そう声をかけて、こちらに笑いかけるとそのまま……馬車? の……扉の方へ回り込んだ。
一方お仲間の二人は、目がエルリオンに釘付けのままだ。まぁ、そうなるだろう。
……お弟子さんか? 二十歳前後のイケメン君は手綱を握ったまま固まっていたが、思い出したかのように荷台の積み荷へ走った。
フェイデルさんが扉を開けようと近づくと、一足先に扉が開き、中からもう一人出てきた。……眠っていたのか欠伸混じりに口を開く。
「……追いついたのか?……ん、団長! 導師は?」
「ああ、ご無事だ……出発前にも増してご健勝だ。夜通しの追走ご苦労」
「前をすまんの」
「! 導師!」
ローゼルさんがフェイデルさん達を押しのけて、車内へ駆け込んで行った。
……待ちきれなかったようだ。
「何です? 一体……」
そこまで言うと目の端に映り込むそれに気づいたようだ。
いまだに呆然とエルリオンを見ている……絵画のように動かないデカすぎる人の横まで行くと、その絵の一部になった……タイトルを付けるなら……うん、思いつかない……俺もあんな風だったのだろうなぁ……
「ガラリオ! 運ぶのを手伝うてくれい……ファレオもじゃ!」
「……導師……おお、今参ります。……ん? ファレオ、起きたのか……行くぞ、導師がお呼びだ……」
目線はエルリオンから外さず車まで戻る。その後をもう一人も、同じくエルリオンに目を奪われたまま付いて行った。
そうこうしていると、フェイデルさんが樽を抱えて来た。その後を御者台にいたイケメン君が、布袋と皮袋を抱えて来る。
「待たせたな、とにかく腹に詰め込め。本当に持たんぞ」
「ありがとうございます、確かに、フラつくような……」
「これが干し肉だ。ちょうど美味い方を持って来ていた」
そこそこ大きい樽を下ろすと、上蓋の端を叩いて開けた。立ち上る香りがスパイシーだ。
「それと……これは導士糧だ。魔導士の糧食だが、間食みたいな物だ。腹持ちもいい。
この後も魔力に触れるだろうからな、しっかり詰め込んでおけ。水はこれだ」
そう言って革袋の水筒を受け取った。
イケメン君からも、布袋の……何かを。
「助かります、……あの、皆さんにご挨拶は……?」……二の足は踏んでも、同じ轍は踏まない。
「ああ、今導師が魔石を用意するのを手伝っている。後で名乗らせよう。先に……ポラール」
横で控えていたイケメン君が外套の左側を払い上げて腰の剣を見せる。……フェイデルさんもやってたやつだ。
「フェイデル師主の従騎士、ポラールと申します」
「これはご丁寧に、……ショウ・イカミです……本日より車掌を拝命しております」
……また後手に回ってしまった……名前を先にするか迷ったが外国と思えば、郷に入っては……だ。職業はもう車掌でいいだろ……さらばコンピュータ関連……俺もスコップ見せるべきだったか?
「よし、では詰め込めるだけ詰め込んでおけよ。その腹はすぐにまた空腹を訴えてくるぞ」
ニヤリと笑いつつ、何か問いただしたげなイケメン、ポラール君をつれて車に向かった。
今はお言葉に甘えて、とにかく詰め込むことにしよう。
――いただきます……
まず、水から……革袋には魔導陣……と、魔石が嵌っているキャップがあった。
……封、と記されている。手帳のものと違って整然として簡潔、幾何学的な魔導陣だ。
陣に記された通りに触れてみる。すると、空気が入るような音がしてキャップに穴が空いた。なにげにハイテクボトルだ。
早速干し肉に手を伸ばす。思ったより柔らかい……これはコンビニで売れそうだ。
……ちょっとお高めのソフトタイプだ。
おお……スパイシーな香りに騙されていた……ソースで味付けしてるな……
舌に広がる甘みが肉の旨みを引き出すかのようだ。
甘みと旨味が舌を包み込んでくれる……
刹那、香辛料の程よい刺激が、そこに鋭く斬り込む。
後を追う鮮烈な香りが、再び旨みを際立たせ、次なる一口を引き寄せる……みたいなことを言いたくなる……止まらん、美味い方と言っていたが納得のソースだ。……ポテトにつけたら一生食い続けそうだ……
……美味い……美味すぎる。風が語りかけるほどに美味い。
当分肉は……とか言ったのは嘘だ。一時の気の迷いだった。
いったん、水で落ち着いて、布袋から棒状の……何かを手に取った。
……魔導士のおやつみたいなこと言ってたな……
齧る。更に咀嚼。
……おお、これはグラノーラだ。これこそコンビニで売れそうだ。もう売ってるまである。……売ってはいないが。ナッツとドライフルーツが入った焼き菓子だ。蜂蜜的なものも入っているようだ。……とにかく甘いが、体が欲していたのかすでに三本目だ。
何やらあちらでローゼルさんが熱弁しているようだ。遠目に見てもみんなが気圧されているのがわかる。フェイデルさんが一歩引いた生暖かい目をしているところに、一日の長というか、達観した何かを感じる……まぁ、俺のせいなのかもしれないが、今は黙ってモグモグしておこう――
――
懸命なモグモグによって、一命を取り留めた。
……これがなんの肉なのかは、永遠の謎でいい……
腹も落ち着いてきた。今はもう腹の咆哮は鳴りを潜めている……
ちょうどそこへ、ローゼルさんが戻ってきた。フェイデルさんとポラール君、デカすぎる人ともう一人の……とにかくみんなだ。
「ショウよ、待たせたな! 魔石じゃ。先ほど使うた一等級が七つある。同じ等級じゃがこちらは更に重かろう。二等級も十三あったぞい。
まずはこれをエルリオンに! さあ、早よ、早よ」
相変わらずの押しの強さに拍車が掛かったようだ。みんなの顔に諦めが滲んでいる。
言い終わると、足早にデッキを目指して立ち去った。俺も後に続こう。
皆は促されるままに、傍まで魔石を運んでくださった。ありがたや……
魔石を運び終えたのを見計らって、今度こそこちらからご挨拶だ。
「……ショウ・イカミです……お世話になります。既にローゼルさん達にはお世話になりっぱなしですが……よろしくお願いします」
「おお、仄聞であるが話はフェイドから聞いたぞ。何処ぞから飛ばされたとか……難儀であったな。我はガラリオ。ローゼル導師の守り役であったが置き去りにされた……」
「あー……俺はファレオ。此処の護衛隊の中隊長をやってる者だ。よろしくな……で、あれは一体何なんだ?」
……ご紹介しよう。
「名はエルリオンと言います。蒸気機関車です」
ポッポッーー!
エルリオンも挨拶だ。……置き去り組の面々が身構えた。
「こちらこそよろしく……と申しております」……多分。
「わかるのですか?」
「はい」……きっと。ポラール君の目がキラッキラだ。
「……道中幾度か聞こえた咆哮は……これであったのか……」
……お騒がせしまして、申し訳ありませんでした。
「挨拶はもう終わったかの? では魔石じゃ、まずは……全て使おうぞ!」
「……全て! かなりの値打ち物ですぞ?」
「構わん。ショウよ、早よ掬うのじゃ。例のアレを……早よ!」
……すごい急かすなぁ……しかしこれだけあればどうにかなるかもしれない。
……ありがてぇ!……値打ち云々は聞かなかった。聞いてない。
ポッポッーー!
エルリオンも感謝の汽笛だ。
「では、有り難く使わせていただきます」
! 不意に手帳が震えた。取り出すと前のように勝手に頁が捲れ……ない?
手帳をまじまじと見ていてそれを思い出した……
「ギロ」
裏表紙に呼びかける。――魔導陣が小さく魔炎を吐いて、ギロが眼を開いて俺を見た。……まだ慣れない。
「この量の魔石でエルリオンは走ることができるか?」
……どんな答えが返ってくるのか……?
! 手帳が震えた……そして今度は頁が激しく捲れ出した。開かれた頁に魔導陣が展開される。……こっちは流石にもう慣れた――文字を読む。
――眼心ニ顕セ
……じゃ、ギロさん……コレなんですけど……
魔石を積んだ小山を魔眼に……ギロに見せた。
途端、魔導陣が展開した……魔石の小山の下に、だ。
そこから魔炎が立ち上ると、魔石を包み込むように覆った。
すると、あれだけ重かった魔石が、ふわりと浮かび始めた。
魔炎は魔石を包み込んだまま、頭上高く昇っていく……そのまま四、五メートル上がると、水平に移動し始める……やがて、ふちを越えて目的の位置まで移動すると動きを止めた。炭水車……テンダーの真上だ。そこで魔導陣が波紋を残して霧散した。すると魔石を包み込んでいた魔炎も消失する。虚空に取り残された魔石達は為す術もない……物理に従って、テンダーの石炭庫……もとい魔石庫へ落下した。
!……なかなか派手に音を立てた。……テンダーがへこまないか少し心配なほどだ。
一連の流れが終わると、手帳の頁に魔導陣が新たに展開した。
そこに回答が出現した。例の如く螺旋に綴られた古代魔法文字が告げた。
――最低魔力量確保ニテ走行可能即乗車ヲ許可
おお、乗車許可が出た。走れるだけの魔力が賄えるみたいだ。報告しよう。
「やりましたよ! 走れるだけの魔力が確保できるそうです。乗車できるようになりました」
「おお! 真かの! 乗るぞい! 今じゃ! 今すぐじゃ!」
スハフの乗降口へ飛んで行ってしまった……今、本当に飛んでなかったか?
「導師!? フェイド、これはどういう……?」
「ずっとこの調子だ。……受け入れろ」
「……それより団長、乗れるって……生きてるって……?……コレ、ナンなんです?」
「師主、これに乗るんですか? 私も乗れるんですか?」
「まあ待て、まずは導師に落ち着いていただこう……ショウ、ひとまず導師を乗せてはもらえまいか?」
「それはもう……ですが、まだしなければいけないことがあるようでして……」
「……なんじゃ?」
「おあっ!」
いきなり背後に! 乗降口にいた筈で……まあいいか、説明しよう。
「最初に決めなければならない、重要なことがあります」
「なんじゃ?」
「目的地です。行き先です。終点です」……畳み掛けてみた。
「何故じゃ? 決めねばならん規矩とは何じゃ」
「……この場合……制約……でしょうか?」……俺が決めた訳じゃないんだけどなぁ……
「……魔法で縛られておるんじゃな?……そう云う事じゃな?」
……わかるのか?……さすが魔導師様……
「結界を構築する為に必要らしいですけど……ご存知ですか?」
「結界?……まさか……結界を広げる事が出来るのかえ?」
「……どうやら……点と線と面で空間を再定義するような感じのものらしいです」
……自分で言ってても、よう解らん。技能に俺が追いついてない……
「エルリオンが結界を結ぶ依代と成るんじゃな!……素晴らしい!」
理解出来てるのか?……やはり天才だな。
これなら……とりあえずしなければならないことは、すべて相談してしまおう。そうしてしまおう。
……まずはご説明からか……納得してもらえる……いや、いただけるのだろうか?……
――しかし、まさかこんな魔法だらけの世界でプレゼンすることになるとは……
後最までお読みいただき、ありがとうございます!
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