十一号車 『テル・ミー・ザ・フールネス・ユー・シー』
――!?……壁に耳ありとは聞くが、手帳に眼が開くとは……
ローゼルさんの目も一層開く。落ちちゃいそうだ。
「小さ過ぎます……本当に此れが?」
フェイデルさんも目を見開いた。
俺も目を見開いてるはずだ……心臓が止まるかと思った。
……生々しくはない……深紅の眼球に金の魔導陣が刻まれているまさに人工の眼のようにキョロキョロしている。……目を離す事ができずその様子を見ていた、その時
――その眼と目があった
!?……目を逸らせない……すると再び魔導陣が展開した。
――銘ヲ与ヱヨ
「名前つけろって?……また?」
「……! 銘与か? そうなんじゃな!?」
「なんかそうらしいです……」
「与えるんじゃ、早よせい!」
……スイッチが入ってしまったようだ。
「またですか?……急に思い浮かばないですよ」
「先ほどの名付けとはまた別物じゃ、今度のは一つで良い、呼びやすいものが良いぞ。フェイデル! お前も何か考えい!」
「いきなり何を言い出すんですか。ショウが決めねば意味がないではありませんか……」
……と言われてもこの世界の……眼か……目……芽……違う……さっきなんか目の話してたよな……フェイデルさんがさっきなんか言って……いや、ローゼルさんだったか? 眼帯がどうとか……目っぽいワードだった気が……
「……ローゼルさん、さっきフェイデルさんが眼帯してたとか言ってましたよね?」
「ショウ……今は……と言うか全部忘れろ」
「ん?…… おお、英雄ファギロスか?」
「それだ! それです! ギロギロ!」
「英雄ファギロスだ」
「……よし、決めました」
「おお、ならば名付けの思いを込めて呼ぶのじゃ。その眼に」
……思いを込めて? まあ、やってみましょう……
「……ギロ」
……呼びかけると魔導陣が展開し、一度だけ魔炎を吹き上げて消えた。……熱くは無いが、何度見ても焦る。……これで終わりか?
「これで良いじゃろ。ほれ呼んでみい」
……ヘイとかOKとか付けなくていいのか?………では
「ギロ」
眼が俺を見た。ちょっとギクっとしたが、しっかりと認識できているようだ。
眼は……ギロは視線を向けたまま魔導陣を展開した。
――聞ケ求メヨ
……待機状態になったようだ。
「おお、素晴らしい……あの錬成魔導眼が、これほど小巧なものになろうとはのう……」
「導師、これが神殿の眼と並ぶ働きを?」
「しっかりと目覚めたでの……確かに門が開かれたのじゃ、然れば大元の眼に連なっておる。魔力量によっては問が無効になることもあるじゃろう。魔法とはそういうものじゃ……じゃがの、問えば解を成す……ショウ、お前さんには打って付けの魔道具じゃ。
……それも片手で容易に扱える大きさじゃ。その利は計り知れんじゃろうのう……」
……門? 魔導陣のことだよな? 大元の……?
「大元の眼ってのは……この手帳の眼と何か関係あるんですか?」
「そうじゃ、世界中にあるこのような錬成魔導眼はの、全て同じ一つの魔法から具現化されておるのじゃ。もたらす機巧に差異は無いんじゃ。求の贄に相応の魔力を差し出せば必ず解に至る……あらゆる魔法も、あらゆる技能も同じ事じゃ……それが理じゃ」
……サブスクみたいだなぁ……対価が全て魔力なのか……問題は魔力の調達なのかな。
俺たちの場合、魔石ということか……玉石混交……ピンキリってことだったな……
当面の入手の目処を立てないと身動き取れないぞ……動くのも危険か?
……どこかでじっと?……
ボッ!・ボッ!・ボッ!
! おっと、エルリオンに突っ込まれた。……そうだよな、せっかくまた走れるようになったんだもんな……もうじっとしてるのには飽き飽きだろうし……なんとか手に入れよう。
ポッポッーー!
納得してもらえたみたいだ。
当面の課題は魔石入手ルートの確保か……
「……エルリオンの魔石のことなんですが……」
「その事なら心配せんで良い、そう申したじゃろう? もうじき此処へ魔石が来る」
「導師……」
「あっ、それは本当に助かります。何卒よろしくお願いいたします」
ポッーー!
エルリオンも感謝の汽笛だ。
「そうだぞショウ、この出会いはソォルヴァドルのお導きだ。我らは既に名付けの宿縁を結んだのだ。遠慮などいらんぞ」
「そうじゃ、地竜の背に揺られるつもりで居れ」
……竜の背に?……所変わればとはいうが……安心しろ的な意味合いに思えない……誰かのお導きには感謝だな。
「本当にありがとうございます……問題は……今後長期にわたっての、魔石の確保の目処をどのように立てるかということです。出来なければ身動き取れません……エルリオンは走りたいみたいなんで、どうしたものかと……」
「ならば尚更じゃな。……魔導院に来るがよい。暫し魔石の心配はせんで済むじゃろう。儂以外にも多くの魔導士がおる。これからの目処が付くまで居れば良い。その間に疑問も不安も晴らせば良い」
「俺も常にいるわけではないが、定期的に訪れている。心配はいらん」
「……ではお言葉に甘えさせて頂きます。エルリオン共々」
ポッーー!
皆から笑いが溢れた。緊張と困惑の時間が過ぎていた。……まぁそこそこに長い時間、眠っていたみたいだが……
とにかくまずはエルリオンと共にローゼルさんが終の住処とも呼ぶ『ラルゴー』なる場所を目指すことになりそうだ
!――あっ。安心したのか、腹が鳴った。
それもかなりでかい音だ。思えば朝以来何も口にしていない。
……駅弁、食い損ねた……
……さすがに、駅弁は世界の境界を超えられなかったようだ……無念。
……なぜ駅弁だけ仲間外れに……スマホも服も……蒸気機関車すらも来てるのに……
いや、駅弁だけじゃない……手土産銘菓の数々だってそうだ!……土産が来れないなんておかしいだろ?
お前らだけでもついてこいよ!……今こそ甘いものが必要なのに……ダメだ……腹がへって妙な思考に……
そもそも、腹が減りすぎる……締め切り前に数回食事を取らないことなんて何度だってあるのに……
……今は減りすぎている……なんでだ?……答えてよ! ローゼルさん!
「随分大きな音じゃったのう。最後の餐事はいつじゃ?」
――ぅお! 本当に答えてくれた……餐事?……食事のことだよな……きっと……声には出てなかったよな?
「……朝摂ったきりです」
「それで魔力に触れていたのか?……いかんな。骨になってしまうぞ」
「大袈裟な……これくらいのこと、仕事してたらありますよ。……今日はちょっと……いや、かなり減ってますけど」……色々あったからな……
「……そうではないぞ、魔法を使えぬ者……魔導力を持たぬ者は代わりに身力を使うのじゃ。……特にお主は冬を越したライバックの様ではないか……食わねば魔力に喰われるぞい」
……魔力に喰われる?……体力のことだよな?……知らない何かに例えられたが、細身のことを言ったのだろう……となると……
「魔力にって……魔石を使うと体力が減るんですか?」
「まぁ大体そうだ。特に魔導力を持たない者はな」
「話しておらなんだか……魔力に想念を導くにはな、『魔導力』が必要なのじゃ」
「……魔導力……?」……聞いてたかも……だがわからん。
「そうじゃ。これが無ければ、想念を魔力に導く事は罷りならんのじゃ」
「持つ者と持たざる者がいる……と?」
「その通りじゃ。魔導力を自ら生み出せる者は二人に一人じゃ。……これは魔獣も同じく、魔導力を持たぬ者は魔法はおろか……魔術ですら使えん……じゃがの、人は別じゃ。
魔石はの、体内で魔導力が結晶となり、魔力を呼び込むの門として働く。この時余剰魔力を結晶中に閉じ込めておくのじゃ。
……即ち、魔石は魔導力と魔力が一塊に成った……完結した魔力の門なのじゃ。
然るに、魔石を用いらば何人をも拒む事なく、魔力の恩恵に触れる事が叶うのじゃ」
……バッテリーみたいなものか?……エルリオンが魔力を扱えるのは魔石を使用するから……ということか。
そして俺はエルリオンの助けを借りて魔力の恩恵にあずかる……
「……じゃがの、この時、代償が伴う……それが行使者の身力を奪う事じゃ」
「だから腹が減るんですね……普段以上に……」……ってこと?
「如何にも、その通りじゃ……得心がいったかの?」
「……はい。……普段以上に消耗してしまうんですね……」
「正に、消耗じゃな。蝋燭の如しじゃ」
……何か食べないとまずいのか……どうしよう……
「もうじき此処へ仲間が追いつく筈だ、馬車に糧食がある」
おお、ありがたや……
「何から何まで……助かります。ありがとうございま――」
――腹が鳴った。
「……暫しの辛抱だ」
二人から笑いが起きた。……俺も笑っとこう
フェイデルさんが不意に向き直り、遠くに意識を向けた……感じに動いた。列車の先頭方向だ。
「……おお、噂をすれば……導師、ガラリオ達が……」
「おお!魔石が来よったかの!」
……配給が来た……ありがたやぁ……俺もエルリオンも腹ごしらえだ。
皆でエルリオンの前辺りに移動する。お出迎えだ。
「――おーい、此処だ!」
……おお、腹に響くバリトンだ……俺の腹が返事しそうだ……
「……フェイドか! 導師はご無事であるか!?」
……そんなものをも上回る応えが、薄靄の向こうから大気を震わせて返ってきた。
「案ずるな! ご無事だ!」
「おお、漸く魔石が……随分と待たせたのう、気をもませよって……」
「……導師が置き去りにしたのをお忘れか……」
……呆れ顔だ。まぁそうなるだろう。
馬車の灯りが近づいて来るにつれ、車影がはっきりと見えてきた。車輪の音がしているが違和感が……何だろう?
しばらくして馬車の姿が見えた……? 馬……車……
「フェイデルさん……あれ……何ですか?」……恐竜……?
「仲間の馬車だ、まずは腹に何か入れておかないとだな」
「……え? はい、ありがとうございます……いや、あの……前で車を引いてる奴は……?」
……違和感はこれか……蹄の音がしなかった……いや、ペタンペタンいってたな……
「……騎竜だ。どうした?」
「馬じゃないですよね?」
「……ああ、そうだな。此処の地表は黒曜だからな。馬は蹄が滑って走れん」
「……騎竜……竜なんですか?」
「ああ、……どうした?……初めて見るのか?」
「はい……危険だって言ってませんでしたっけ?」
「……おお、あの山の竜とは別物だ。大人しいぞ。力も強い」
「……大人しいんですか?……」……じゃぁ、いいか……いいのか?
ビビっていたら側まで来ていた。……でかい。一頭……でいいのだろうか? 更にでかい車体を単体で引いて走って来たのか……確かに力強いのだろう。
そして……御者席から降りてきた人がまたでかい……フェイデルさんもでかいが、この人は二メートルを優に超えている。
……手綱を取っていたイケメン君が子供みたいに小さく見える。
「ガラリオ、難儀だったな、心配をかけた。……ポラールも苦労かけたな」
フェイデルさんが皆に労いの言葉をかけるが、彼らは別のものに目を奪われていた……
――エルリオンだ。
「……フェイド……あれは何なのだ?」
「……説明しづらいな……」
――フェイデルさん……説明……お任せします……そして、何かモグモグできるものを……
後最までお読みいただき、ありがとうございます!
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