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M列車で行こう〜魔導列車で征く異世界の歩き方〜  作者: 安指 蔵久
    線路二 世は情け        
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七号車 『ユー・ノウ・マイ・トゥルー・ネーム』

 ――終わらない? 何が……?……いや、……違うな……


「何が始まるんですか? 本来なら……?」


「……生きておると申したじゃろ?」


「はい……」……?


「……既に、終えていて良い筈じゃ……魔炎が消えんのじゃ……ほれ、お主はとうの昔に消えとるじゃろう……」


「……消えないとどうなるんですか?」……まあ、あのままじゃ俺が困るが……俺も燃えてたのか?


「……魂の根源に、まだ認められて居らぬ……さすれば……」


 ……さすれば?


「……技能を授けられんじゃろ?……困るじゃろ?」


「……困りますね……こんな時はどうすれば……?」

 ……俺との運命共同体なのに。……どうすれば……


 ――!


 おっ……手帳が震えた。何だ……?

 ――急いで胸ポケットから取り出した。


 ――!!


 まただ、ひとりでにバラバラと頁が捲られだした。

 ……そしてある所で止まった。


「……魔導陣?」


 ……魂の根源に……名宣て……真名に……響かせん……って、なにこれ?

 

「……ショウよ!……名付けが済んでおらぬのではないかの!?……何故じゃ!?……キカンシャでは無かったのかえ!?」


「……名付け?……機関車っていうのは、馬車みたいな一般的な呼び名ですよ?」……また新しい決まり事か?


「……何時迄も終わらぬわけじゃ……名付けが済んでおらなんだか……」

 

「……名付けというのは?」……いったい何ですか?


「……『名付け』とはの……この現世の器……魄に魂を紐付ける為に行う事なんじゃ。……欠けた月が、再び満ちる……その朝日が出る迄に済まさねばならんのじゃ」


「……過ぎたらどうなるんですか?」


「……生涯、魔法が使えん……」


 ……おお、この世界でそれは大変そうだな……それではつまり機関車も魔法が使えなくなるってことなのか……!?


「……何をすればいいんですか!?」……教えてくださいお願いします!


「……安心せい、そんな顔せなんでも指南は儂に任せい……まだ時はある……

 本来は神殿にて執り行われる神事じゃが……決め事さえ守れば、その手帳の魔導陣に触れ、『名宣』すれば良いのじゃ」


「……それだけですか?……名前を宣言するんですね」……手帳あってよかった……


「……お主にとっては、この『決め事』の方が厄介かもしれん」


「……それはいったい?」……俺にとって?


「……まず、名宣を行う者じゃ。

 これは名のある一角の者を頼る事も多いのじゃがの、本来は最も近しい者が相応しいのじゃ……運が悪ければ、無効になる……

 じゃがこれは、職能がキカンシャに紐付いておるお主ならば問題あるまいて」


「……なるほど」俺でいいのか。


「次に順序じゃ……必要な名は三つじゃ」


……三つ?多いな。


「……先ずは『霊名』……これは隠し名じゃ。決して忘れてはならぬ名じゃ。……そして……知られてはならぬ名じゃ」


……パスワードみたいだな……


「……仮に害意ある者に知られれば、術式に組み入り自由を奪われかねぬ……無くとも魔法は使えよう……じゃが、あれば高位の魔法に通ずる事も叶う」


……登録してログインする感じか……課金されないだろうな……


「この名には好きに決めたら良い。……如何なる名であれ、忘れてしまわぬよう心掛けい」


……手帳にメモしたらダメだろうか?


「……次に『真名』じゃ……魔名とも呼ばれる。この名こそが名付けの根幹じゃ」

  

 ……真名……なるほど……根幹と……メモしたい……


「この名には縛りがあるのじゃ。それはの……

 魂の根源に紐付いた名組み

 ……に、せねばならんと云うものじゃ」


 ……紐づいた?


「……これはじゃな、魔法が人の手によって創られた法体系に則っておるからじゃ……

 世の多くの名は神話の神々、過去の英傑達の名に由来しておる。中には、竜や魔獣から付ける者もおる」


「……魔獣?」……そんなのいるの?……?


「……神話から歴史へ……神々から英雄達へ……そして今生の我らへと……大河の如き魔力の奔流に合流する……

 ……その為に付けられる印こそが真名なのじゃ……

 ……太古より永劫に連鎖する真名の連なり。これに組鎖する者のみが魔力の法理に組み入る事を許されるのじゃ」


 ……ブロックチェーン的な?……違うか。……いやわからん……


「……真名は、それ故に長い名となる事も有るでのう、真名を元にして付けたものが『呼び名』じゃ」


「……呼び名?……普段呼び合う?……ローゼルさんやライラーさんのような?」


「いや、導師の名はそうだが、俺のライラーは賜姓だ。呼び名はフェイデルになる」


「……ローゼルさんや……フェイデルさん……ですか?」……フェイデルさんの方で呼ぶのか……やっぱり偉い人っぽいな……


「さよう……それが呼び名じゃ。名乗るも問うもこの名となろう。生涯、呼ばれ続けることになるものじゃ……普段の営みには大事になるものじゃ」


 ……なるほど、普段使いの名前か……アカウント名?……表示名か?


「……得心いったようじゃな……ならば、いざ……名付けの儀を行おうぞ!……早よせい!早よ、早よ」


「おおっ……はい……」……ローゼルさんが何故か急かす。


「急ぐんじゃ。まだ時はあると云うても、じき夜明けじゃ。……猶予は長くはないぞい」


「猶予は……? えぇっと……月が……三十日くらいあるんじゃないんですか?」

 

「いや、その期間内で名を決め、儀式を済ませるんだ。遅れたら次はない。そして、今日がその満月だ。ショウも見たであろう?……日の出までに済ませなくてはいかん」


「ええぇ!?」……意図せずに声が裏返ったぞ。

 

「ままっ、落ち着くのじゃ。ここには誂え向きに、儂とフェイがおる。立会人はこれで良い。あと必要なのは名じゃ……先ずは、名を決めるのじゃ。三つじゃぞ、三つ」


 そういうローゼルさんだが、落ち着きはない……立会人とかいるのか。神殿でとか言ってたもんな……とにかく三つか……


 ――とりあえず……キラキラネームは俺が呼びづらいから却下だ。


 まず……霊名か。……俺だけに分かる……忘れそうだな。パスワードだってしょっちゅう忘れる。だからメモ……


「……そうだ、ローゼルさん、霊名を手帳にメモしても大丈夫すか?」


「……勧められんのう……漏れたら大事じゃぞ?」


「そうだぞ、やめておけ。俺たち立会人もいる、ここは信じろ。時間がない」


「なるほど……ではお二人に、頼らせて頂きます」


「任せよ」


 ローゼルさんの言葉に深く頷くライ……フェイデルさんに45度のお辞儀で感謝の意を示した。……こちらでも伝わるだろうか?……時間がないんだった。急ごう。……しかし、何にすべきか?


 フイに機関車のキャブを見る。……あった!


 ――形式名


 ……これだ!これなら忘れない。書いてあるから。そして、ここの人には読めまい。発音も出来まい。……今悪い顔になってる気がする。


「……何か不穏なことを考えてはいまいな?」


 ……おお、漏れ出ていたか。笑顔で首を振っておこう。横に。

 ……しかし、読み方を間違える可能性があるな。……数字を簡単に……あ、思い出した。……というか知っていた。……いや、繋がった事で記憶になったのか?……まあそれはいい……


 ……シゴナナだ。


 この語呂合わせなら忘れますまい。シゴナナ、これでいこう。 


 ――!


 機関車も肯定するようだ。汽笛がそう聞こえた。いや、ホントに。


 次は真名だな。

 後の呼び名にも繋がるものだ。この世界の神々とか言ってたなぁ……知らん。

 とにかく早く決めなくては。……とにかく何か適当にでも……


 ――!!


 おお!……強い否定の意思を感じた。……そりゃそうなるか。

 

 ――時間が気になって時計を確認した。……時間の確認は癖になっているが、ここでは正しいかも判らない。日本なら今の季節は6時頃に日の出だ。今朝もそうだった。……早くしないと。懐中時計の外蓋を閉じると小気味いい音がした。 


「……天馬か」


 ……そうだ、確か黄金の……

 機関車をまじまじと見た。

 ……黄金の……これか?……何だったっけ?

 ……一旦二人に相談だ。


「あの……ちょっといいですか?」


「おお、決めたかの?」


「いえ、隠し名は決めましたが、真名が……さっき黄金の天馬の話してましたよね?」


「ああ、ヘルリロール叙事詩だな」


「それです」……多分。


「黄金に輝く六本脚の天馬のことかの?」


「それです!」それでした。


「……確かに、大きな車輪の数と六本脚……いいじゃないか」


「ですよね!」


 ――!!


 おお!強い肯定の意思を感じた! これか? これでいいんだな!


「なんて言いましたっけ?……ラリルレロみたいなやつ。レロレロレロみたいな?」


「そんな事言っとらん……儂は酔うておらんぞ……エルラリオル・リル・ラーリオン……じゃ」


「それです、それでした、知ってました」


「調子良いのう……言えるかの? 一つ詠唱してみい。……エルラリオル・リル・ラーリオン……じゃ」


「……エルラリ……オル……リルラーリオン?」……合ってるか?コレ?


「……エルラリオル・リル・ラーリオンじゃ」


「……エルラリオル……リル……ラーリオン?」……たどたどしいか?


「……エルラリオル・リル・ラーリオン……ほれ」


「……エルラリオル・リル・ラーリオン……!」……言えたろ!


「……それで良い。十分じゃ」


「呼び名は覚えてるか?」


「はい……エルリオンです」……合ってるよな?


「大丈夫だな」


 ……よかった。合ってた。


「……ならば早速、名付けを執り行おうぞ」


 急いだ方が良さそうだ。


「まずどうすれば……?」


「……心の臓……炉があると申したのう……それに触れるのじゃ」


 ……つまり罐だな。

 一旦手帳はしまって、言われるままキャブに上がった。

 ……指差喚呼が有無を言わさずに発動した……毎回やるのだろうか?

 ……未だ魔炎に巻かれる罐の前に膝をついた。熱くはないが、燃えているかのように光が揺らいでいる。

 ……右手を魔炎が揺らめく焚口戸に添えた。


「……触れました」


「その手は、全てが終わる迄そのままに致すのじゃ。……では魔導書……手帳を開くんじゃ」


 ……ポケットから手帳を取り出す。


「おっと!」

 

 待ちきれなかったかのように先程の頁が開いた。相変わらず慌ただしい開き方だ。……瞬く間に魔導陣が展開した。


「さっきの頁が開きましたよ?」


「おお、なら良い。そこに魔導陣があったであろう……」


「はい、既に展開してます」


「宜しい……ショウよ、詠めるな?」


「はい……詠めます」


「……よしよし……では詠唱するのじゃ。後は陣に現れる文言に従い、次々に名を詠み上げるのじゃ。流れに沿って三つの名を詠め。立会人である儂らに聞こえるようにな。詠み間違えるでないぞ……!」


 ……おお、プレッシャー……


「……善処します」


 ――!!


 ……汽笛で励まされたみたいだ……そうだよな、この世界で魔法無しなんて厳しすぎるよな……


「やるのじゃ!」


「落ち着いてな、必ずできる」


「はい。……では、いきます」


 ………一呼吸おいて魔導陣に目を落とした。

 ――そしてそれを詠み上げた。


「――我ハ願ウ魂ノ根源ニ連ナル万物ニ名宣テ彼ノ真名ニ連ネ根源ニ響カセン……」


 言い終わると同時に魔導陣に新たな変化が起こった。

 陣の外側に更に魔炎の波紋が広がり、鱗状の格子螺旋がゆったりと渦巻いて広がった。……そして指示の文言が浮かび上がった。


 ――霊名ヲ詠ミ、奏告セヨ


 ……とある。


「……シゴナナ……」


 詠み終えると、鱗状の魔炎は文字のように変化し、シゴナナの古代魔法文字を形成した。


 すると更に外側に魔炎の波紋が広がり、同様に鱗状の格子螺旋が渦巻き指示がうかぶ。

 

 ――今度は真名だ。


「……エルラリオル・リル・ラーリオン……」


 ……言えた。偉い。更に鱗状の格子螺旋が広がる。呼び名の指示がうかぶ。


 ――この名宣りで最後だ。


「……エルリオン……」


 ――詠み終えた。

 ゆったりとした渦が激しさを増してゆく……

 その光の奔流はここへ落ちてくる時に見た光にも似て、更に強さを増してゆく……

 目も開けられない程の光だ。――すぐに俺の身体ごと運転室を飲み込んだ。


 ……意識はとぎれていない。

 しかし、まだ光が収まらない……耳には何も届かない……無音だ。

 どうして良いものか……そう思っていると、何かがこちらに来るのが、ぼんやりと見えた。眩しくて目が眩んでいるはずだが見える。

 それが近づくにつれ音が聞こえてきた。


 ――蹄?……羽撃き?……そう感じた時、それは目の前まで来ていた……天馬だ……それも金ピカ……いや、黄金の毛並みというべきか。光の中だというのに更に輝いて見える……しかも後ろ脚が四本ある……神馬……エルリオン……

 そのまま近寄り、俺の周りをゆっくり駆ける。思わず目を奪われ、その姿を目で追った。

 時折羽ばたく翼から黄金の羽根が舞った。

 そのうちの一つに手を伸ばして……手にした……あの時のように。

 その時……声が聞こえた……気がした……


『――行こう!』


 手にした羽根が輝きを増した――よし、行こう……


 ゆっくりと歩み寄り、頭を寄せて来る神馬……その首筋にそっと手を触れた……


 その時、汽笛が鳴った。……意気衝天の高揚感が感じられる響きだ。


 ――はっとした。

 気づけば神馬の姿は無かった……首に触れた右手は罐に添えられたままだった。


 直後、光が収まりだし、立ち上っていた魔炎は、光の粒……粒子を残して掻き消え、その粒子もやがて消えた。


 ――ようやく視界が戻ってきた。

 

 左手には手帳があり、羽はもう無かった。……しかし、今度はあの時のような惜別の情はなかった。

 

 ――雨過天晴の思いが、胸に溢れていた……俺は影響されやすい。

 後最までお読みいただき、ありがとうございます!

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