第68話 『地下へ眠る古代の棺』
そこはまるで、かつて黄金の都として栄華を極めた、古代エジプトの都市を思わせる光景だった。
この街の名は――エッジ・ピェッタ。
「シオン様!」
駆け寄ってきたのは、先ほど偵察に向かったジュンだった。
「ジュン、何か分かったかしら?」
「ハイ! この街の地下には、金銀財宝が眠る古代の墓が隠されているようです。それを見つけた盗賊団が街ごと乗っ取り、女や子どもたちを牢屋に閉じ込め、男たちを奴隷のように扱って強制的に発掘作業をさせていました」
「なるほど……。それで、この街を訪れた旅人たちまでもが姿を消していた、というわけなのね」
「それに、数体のワームを飼い慣らしている魔法使いがおります。恐らくは……例の巨大ワームかと! 使えなくなった奴隷や不審者を、その巨大な地下空間でワームの餌にしている模様です」
「なんて酷い……!」
レオンが拳を握りしめ、憤怒の声を漏らす。
「これから乗り込んで、ケチョンケチョンにしてやりましょう!」
「待ちなさい。倒すのはワームと魔法使いだけで済む話かしら? 奴らを陰で操っている『黒幕』が誰なのかを暴かなければ、根本的な解決にはならないわ」
シオンの言葉に、周りの者たちもうなずいた。
「なるほど、仰る通りですな」
「まずは情報を集めましょう。その魔法使いと、街の暗部に繋がるパイプラインを見つけ出すわよ」
シオンの指揮のもと、手分けして捜索を開始することになった。
シオン自身は情報が集まる中央の酒場へ。ピクシーの二人とレオンは怪しい動きのある東街区へ。そしてジュンのリップは、隠れ家が存在しそうな街の西側へと向かった。
――だが彼らはまだ知らなかった。
その魔法使いが身につけている魔導具には、かつて王都で失踪した『ある高貴な人物』の紋章が刻まれていることを。そして、地下のワームたちがただの怪物ではなく、「何か別の巨大な存在」を呼び出すための触媒に過ぎないということを……。
西側の暗がりから戻ってきたジュンの報告を聞き、シオンの表情が一変した。
「ええ、間違いありません」
ジュンは肩に乗せたリップに視線を送りながら、重々しく頷いた。
「魔法使いが胸元に刻んでいたのは、ここから更に北へ行った王都の……間違いなくそこの禁忌研究組織『黒天の環』の紋章でした。そして……あの地下洞窟で蠢くワームたちは、単に死体を処理するための生き物ではないようです」
「どういうことだ、ジュン?」
「リップの音響で聞いたのですが!」
レオンが身を乗り出して問い詰める。ジュンは指先で空中に簡単な魔法陣を描きながら、静かに説明を続けた。
「あの魔法使いは、犠牲者たちの生命力をワームに喰わせることで、巨大な『生体ろ過器』として利用していたのです。ワームの体内で高純度まで精製・濃縮された巨大な魔力……それを『転回』、つまり正負の魔性属性を反転させて、古代の邪神を召喚するための触媒エネルギーへ変換しようとしています」
「なっ……! 生きた人間を魔力のフィルターにして、召喚の生け贄にしているというのか!?」
レオンが激憤し、剣の柄を固く握りしめた。
「恐ろしいのはそれだけではありません」
ジュンは一瞬言葉を切り、シオンの目をじっと見つめた。
「その『転回』を完成させるために必要な最後のキー……それこそが、この街の地下深く、ピラミッドの最深部、棺に眠る『古代の王の心臓』なのです。盗賊団もあの魔法使いも……もっと巨大な『何か』に操られている黒幕の手先でしかありません」
シオンは静かに目を閉じ、深く息を吐き出した。次に目を開いたとき、その瞳には凛とした強い意志の光が宿っていた。
「……話は全て繋がったわ。酒場で仕入れた噂通り、街の最高責任者である代官が最近急に姿を消した理由も、これで合点がいくわね」
「シオン様、ということは……!」
「ええ。あの代官は、この街どころか王都までも我がものにしようと目論んでいたようですわ。召喚する邪神の器として自らの身体を差し出し、契約を結ぼうとしている『本当の首謀者』よ。そして今まさに、ピラミッドの扉を開けようとしているはず」
シオンは胸元に挿した扇子の柄にそっと手をかけ、集まった仲間たちを見渡した。
「レオン、ジュン、ライトにレフト、そしてリップ。手遅れになる前に地下のピラミッドへ突入し、その愚かな『儀式』をぶち壊すわよ!」
「「お任せを!」」
闇に包まれ始めたエッジ・ピェッタの街で、いよいよ決戦の火蓋が切られようとしていた。
シオンは胸元に挿した扇子の柄にそっと手をかけ、集まった仲間たちを見渡した。
「レオン、ジュン、ライトにレフト、そしてリップ。手遅れになる前に地下のピラミッドへ突入し、その愚かな『儀式』をぶち壊すわよ!」
「「お任せを!」」
闇に包まれ始めたエッジ・ピェッタの街で、いよいよ決戦の火蓋が切られようとしていた。
(第69話へつづく)




