第67話 『墓荒らしの街』
草原はまたしても砂漠と化していた。
全員で魔法の透明な絨毯に乗り込んで移動していたが、ピクシーのライトとレフトは「道案内をする」と言って飛竜の姿に変わり、大空を飛び回っていた。
休んでは飛び、また休んでは飛ぶのを繰り返す。
しばらくすると、砂漠の地面が激しく盛り上がり、土の中から巨大なワームが姿を現した。ワームは一行の乗った絨毯ごと呑み込むと、そのまま地底深くへと潜っていってしまった。
空に残された飛竜の二人は、姿を消したシオン様たちを見失ってしまう。
「どうする、ライト?」
「どうしましょう、レフト?」
砂漠に降り立って捜してみたものの、手がかりは何も見つからない。
「このままだとお腹が空いて動けなくなっちゃうよ!」
ライトが悲鳴をあげた。
二人はひとまず遥か上空へと舞い上がり、街を捜すことにした。
やがて街を見つけるとピクシーの姿に戻り、食事ができそうな店を物色する。
だが、その砂漠の街にいるのは荒くれ者の冒険者や盗賊ばかりで、まるで巨大な収容施設のような異様な雰囲気が漂っていた。珍しいピクシーの姿をした二人を、街の人々が物珍しそうにジロジロと見つめてくる。
そこへ、行商人を名乗るアイゼンという男が声をかけてきた。
「君たちはピクシーかな? こんなところでどうしたんだい? お母さんとでもはぐれてしまったのかな?」
矢継ぎ早に質問を浴びせられる。
「お腹は空いていないかい?」
その問いに、二人は即座に首を縦に振った。
「良かったら一緒に食べよう。私がおごってあげるよ!」
アイゼンの言葉にすっかり誘われたライトとレフトは、彼のあとに続いて少し薄暗い路地裏へと入っていくのだった。
その頃、シオン様一行はワームの胃袋の中でベトベトになりながら佇んでいた。
「なんですの、ここは!?」
「一瞬で何かに食べられてしまったようですな」とレオンが落ち着いた声で言う。
「こんなバカワーム、どうしてやりましょうか!」
ジュンは激怒し、胃壁に向かって二本の短剣を交互に突き立てていた。
「取り敢えず、飲み込まれた場所まで転移陣で出ますわよ」
シオンが優雅に杖を振り下ろすと、粘液に塗れた胃袋の空間に眩い光の陣が浮かび上がった。一瞬の浮遊感ののち、一行はズルリと砂漠の地上へと弾き出された。
「ゴホッ!……うう、ベトベトですわ! わたくしのドレスが台無しですわ!!」
砂の上に転がり出たシオンは、髪から滴る胃液に青筋を立てて憤慨している。レオンは甲冑に付いた粘液を払いながら苦笑いし、短剣を握りしめたジュンは「あのバカワーム、追撃して切り刻んでやりましょうか!」と鼻息を荒くしていた。
しかし広大な砂漠を見渡しても、ワームはすでに深く地底へと潜伏したあとでどこにも姿がない。そして――空を見上げても、二匹の飛竜の影は影も形もなかった。
「……あ奴ら、またどこかで油を売っていますわね」
シオンは呆れたように息を吐くと、魔法で全員の汚れを綺麗に洗い流し、透明な絨毯を再び展開させた。
「探しますわよ。あの調子ですと、絶対にろくでもないトラブルに巻き込まれていますわ」
その頃、砂漠の怪しい街の薄暗い路地裏。
「さあさあ、遠慮はいらないよ。たっぷりお食べ」
行商人のアイゼンは、不敵な笑みを浮かべながら小さなテーブルにパンと干し肉を並べた。
ライトとレフトは「おいしーい!」「アイゼンさん、いい人ー!」と無邪気に食らいついている。
だが、二人が夢中で食べ進めるうちに、視界がグラグラと揺れ始めた。
「あれ……? なんか……ねむ……」
「らいと……わたしも……」
ガクッとテーブルに突っ伏す二人。アイゼンはニヤリと口角を上げると、懐から特殊な魔導金属でできた小さな檻を取り出した。
「ヘッ、おめでたいピクシーどもだ。痺れ薬付きの餌にまんまと引っかかりやがって。ピクシーの羽と粉は、裏市場で高値で売れるんだよ……!」
アイゼンが二人を檻に押し込め、鍵をかけたその時だった。
ドォン―――!!!
路地の入り口の壁が、豪快な爆発音とともに吹き飛んだ。
煙の中から現れたのは、腕組みをして仁王立ちするジュンと、不機嫌そうに扇子をパチリと閉じるシオン、そして剣に手をかけたレオンだった。転移魔法で街の上空に出た一行は、ピクシーたちの気配を察知して直行してきたのだ。
「あら、ずいぶんと古典的な誘拐犯ですことですわね」
シオンが冷ややかな視線を向ける。
「ひっ……!? な、なんだお前たちは! 邪魔をするな――」
アイゼンと仲間たちが懐からナイフを抜こうとした瞬間、ジュンの姿がブレた。次の瞬間にはジュンの短剣の柄がアイゼンと仲間たちの鳩尾を深く穿っていた。
「ぐふっ……!?」
白目を剥いて崩れ落ちる商人。ジュンは冷ややかにそれらを見下ろし、檻の鍵を短剣で一閃して叩き割った。
「まったく、案内役が真っ先に捕まってどうしますの」
シオンがつついて起こすと、薬効の切れたライトとレフトが目をこすりながら起き上がった。
「……はっ! シオン様!? 食べられて死んじゃったんじゃ……!?」
「シオン様ー! よかったー!!」
涙目で飛びついてくる二人を片手で軽くあしらいながら、シオンはこの巨大な収容施設のような街の奥へと視線を向けた。
「さて……この不気味な街、ただの砂漠の宿場町ではなさそうですわね」
「ジュン、頼めるかしら?」
その声を聞いた瞬間、ジュンは肩にリップを乗せたまま、かき消えるようにその場から姿を消した。
たどり着いたのは、中央の強固な城壁に囲まれた巨大な屋敷――その地下に広がる牢獄だった。そこには無数の女性や子どもたちが囚われ、怯えたように身を寄せ合っている。
さらに奥へと進むと、街から連れてこられた男たちが疲弊した様子で何かを運び出していた。彼らは地下の土を掘り返し、広大な洞窟を切り開いている最中のようだ。
そしてその最深部には、異様な雰囲気を纏った石積みの扉がそびえ立っていた。
何か違和感を覚えたジュンは、周囲の構造をじっと観察する。地下へと深く伸びる異質な空間、運ばれてくる未知の発掘物、そして重々しい石門……。
(もしかして……ここは屋敷の地下などではなく、ピラミッドの内部なのでは――?)
ジュンは思い至る。彼らがやっているのはただの工事などではない。古代の墓を暴く「墓荒らし」そのものだったと。
(第68話へつづく)




