第64話 『シオン様のお茶目な意地悪』
「入るが良い。我はここの観測者、ドナルド・デザートだ! 何故ここを開いたのか、だと……!? それは、お前達が失われた財宝を元に戻したからだ!」
「それでは、この先に創造主様が進まれた足跡が……?」
シオンが問いかける。
「いかにも! だが、ここで告げておくことがある。この先は道が二手に分かれている。……お前たちはどちらに進むのかな? 楽しみだ」
「どういうことだ?」
レオンが問い詰めたが、観測者ドナルド・デザートはそれ以上何も語らなかった。
「ではせめて、なぜ二手に分かれているのかを……」
シオンが言い終わる前に、ドナルドは言い放った。
「試練だ!」
「……そうですか。では、参りましょう」
シオン一行は観測者の間を後にした。
目の前に広がる光景は、まさに砂漠そのもの。見渡す限り乾いた砂、砂、砂——果てしない砂の海だった。
しかも、創造主様の足跡はピクシーのライトとレフトですら見失うほど、薄く細くなっていた。それはシオンにとっても同じだった。
周囲をテレスコデバイスで確認してみても、生命反応はただの一つすら検出されない。
深く足をとられる砂利を避けるため、一行は地面スレスレを浮遊しながら軽やかに進んでいく。
「そろそろ飽きてきましたわね! ティータイムにでもいたしませんこと? なんでしたら、こんな旅なんてやめてしまってもよろしくてよーっ!」
シオンが大きな声で叫んだ。まるで、創造主様がどこかで聞いていると確信しているかのように。
すると、レオンまでもが「観測者のドナルド・デザートも態度が悪いしなー!」
すると——なんということだろう。目の前の砂漠が、少しずつ緑地化していくではないか!
「不思議なこともあるものだな……」
レオンが感心したように呟く中、ジュンは思い至った。
(あれれ……もしかして創造主様って、暇で僕たちのことを見ているんじゃ?)
きっと「かくれんぼで鬼が子を見つけるのに、隠れている子たちを放置して鬼が家に帰ってしまう」のを恐れているような心境なのだろう、と悟ったのだ。
(マジか! だからシオン様はあんなことを叫んだんだ!)
事情を理解したジュンは、何はともあれ砂漠よりは過ごしやすくなった周囲の景色を見渡し、ホッと胸を撫でおろした。
どういたしましょうか?ピクシーは帰るんですか?さもまだまだ旅をしたいようだった。過酷でも、レオンも内心では進みたいと願った。
シオン様は行きたく無いのですか?とレオンが尋ねる。
ジュンがピクシーの二人を見ると、ライトとレフトは寂しそうに顔を見合わせ、まだまだこの一行と一緒に旅を続けたそうに翼をすぼめた。過酷な旅ではあるが、ジュンもまた内心では彼らと共にこの先へ進みたいと願っていた。
「シオン様……本当は、先へ進みたくないのですか?」
レオンが不思議そうに尋ねると、シオン様は可憐にクスリと微笑み、レオンの耳元へと顔を寄せた。
(──単なる、私の暇つぶしの意地悪ですわ♪)
シオン様としては、内緒話のつもりで囁いた言葉だった。
……しかし! ジュンの肩に乗っているリップはスライムゆえ、体内の水脈が周囲の微細な音波や振動に極めて敏感に反応する特殊体質のために!
シオン様の小さな囁き声は、空気の振動となってリップの液体ボディへ伝わり、体内の水脈を波紋となって駆け巡る──。
『──意地悪ですわ♪』
そして次の瞬間、ジュンの耳元にぴったり張り付いたリップから、シオン様の音声が超クリアな高音質でダイレクトに再生された。
「ブハッ!!!???」
まさかの「生音声ラジオ」状態になったジュンは、耐えきれずにその場で腹を抱えて爆笑してしまった。
「なになに!? ジュン、急にどうしたの!?」
「何がおかしいのー!?」
突然爆笑し出したジュンを見て、ピクシーのライトとレフトは目を白黒させる。そんな二人を、シオン様は「ふふ、おいで」と楽しそうに手招きするのだった──。
さて、では!とシオンがその場に転移陣を描き出す。
あ!その前に魔界のルールルと人間界のザートナル国王には念話で今から帰ると知らせるのだった。
その頃──魔界では!
「おい! 古参幹部ども、わしの新調したてのスーツを持ってまいれぇぇ!!」
魔王代理バンガルが大声を張り上げて走り回っていた。
「な、何事ですか!? バンガル様!」
「シオン様が……シオン様がご帰還なさるのだぁぁッ!!」
「「「なぁぁぁッ!!!???」」」
一瞬にして、魔界全域が大パニックと化した!
一方──人間界では!
「みなのもの! 支度をせよ! シオン様がご帰還なさるぞ!!」
ザートナル国王が大広間で叫び、王宮の騎士団や側近たちが蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。
……しかし、いつものことながら、天界の神々にはこの件が一切知らされていなかった。
ところが偶然にも、集合場所は「天界」だった。
ちょうどこの少し先で、魔界・人間界・天界による『三界ミーティング』が予定されており、運良く神々は天界でその準備を進めている最中だったのだ。
天界の転移門の向こう側で、開門と同時に魔界の古参幹部たちと、人間界の騎士団およびザートナル国王の取り巻きが一斉に鉢合わせをした。
「おー! 久しいな!」
「これはこれは、皆様……」
ぞろぞろと押し寄せてくる異世界の重鎮たちを見て、神々は不思議そうに顔を見合わせる。
「む? 三界ミーティングの開始には、まだ少々時間があるはずだが……?」
すると、仕立て直したばかりの勝負スーツに身を包んだ魔王代理バンガルが、息を荒らげて告げた。
「いや! それどころではない! これよりただちに……シオン様ご一行がご帰還なさるのだ!!」
「「「な、なんですとーーーーっ!!!???」」」
ほーら見事に、天界の神々まで大慌てで爆走し始めた!
だが、幸か絶望か。もともとミーティングの準備中だったことが功を奏し、神々の動きは文字通り神速だった。
シオン様ご一行が転移門へと到着し、ギギギ……と重厚な扉が開いたその瞬間――。
そこには、魔界・人間界・天界の三界トップが一堂に会し、寸分の狂いもなく完璧な『お出迎え陣形』を準備万端で整えていたのだった!
整列し、深々と頭を下げて平伏する三界の重鎮たち。
それを見たシオン様の、普段ならどこまでも優雅で美しく微笑んでいるはずの口元が──ほんの少しだけ、引きつって見えたのは言うまでもなかった。
「こんなこともあろうか」と、事前にそれとなく予行演習を重ねておいた成果だった。狙い通りの見事な出来栄えに、三至高神の面々はそっと顔を伏せ、密やかな微笑みを交わし合う。しかし、その小さく誇らしげな仕草に、シオン様が気づくことはなかった。
(第65話へつづく)




