第六話:シオン様を絶対に天界へ帰してはならない
「──おい、大変なことに気づいてしまった」
シオン様が地上へ旅立ってから数十年(天界時間では数時間)。
画面に映るシオン様が、愛する夫(かつての幼馴染)に看取られながら、天寿を全うし、静かに息を引き取ろうとしているのを見て、三至高神のリーダーが青ざめた顔でガタガタと震え出した。
「な、何ですかボス……? シオン様、最高のハッピーエンドを迎えて大満足の笑顔で逝かれましたよ? 大成功じゃないですか」
「馬鹿者ッ! この後どうなる!? シオン様の魂は、全ての未練を解消してこの天界に戻ってくるんだぞ!?」
その言葉に、サーバー室の数千人の神々が一斉に凍りついた。
「ま、まずい……! もしシオン様が天界に戻ってきて、我々のこの24時間監視体制がお労いことになってるのを見られたら……」
「『あら、私のプライバシーはどこへ行きましたの? フフッ』って言われて、今度こそ天界ごとデリートされる!!」
「かと言って、あの全宇宙最高のバックアップ(シオン様)の魂を、どこか遠くの世界へ完全に手放すなど、アカシックレコードの維持を考えても絶対に不可能だ!!」
神々はパニックになり、互いの胸ぐらをつかみ合って絶叫した。天界は再び崩壊の危機を迎えていた。
その時、一人の若手神が、狂気的な目で叫んだ。
「……だったら、シオン様が『気づかないうちに、また普通の世界へ転生』させ続ければいいんですよ!!!」
「何だと……!?」
「シオン様が今、肉体を離れて魂となり、天界へ上ってくるその途中の次元の狭間に、超特急で『偽の転生ゲート』を設置するんです!
天界の全リソースを注ぎ込んで、バグが1ミリもない、ただただ平和で、あのお方(旦那様)とまた出会えて、100%幸せになれる
『新しい普通の世界』のコードをアカシックレコードに直結させるんですよ!」
若手神の提案に、三至高神が目を輝かせた。
「なるほど……! シオン様からすれば、目を覚ましたら『あ、また死んで別の普通の世界に転生しちゃった。まぁ、今回もチート能力はないし、静かに暮らせそうだからいっか。フフッ』ってなるわけか!」
「そうです! 本人は『私は普通の人間。たまたま前世の記憶があるだけ』と思い込んだまま、永遠に幸せな人生をループする!
我々は、彼女が天界に帰ってきてキレる恐怖に怯えることなく、永遠にシオン様という最強の保険を天界の近くにキープできるのです!!」
「天才か!! よし、全神々へ告ぐ! 超特急で『シオン様専用・絶対幸福イージーモード世界』を構築しろ!! 魂が天界の敷地を1ミリでも踏む前に、次の世界へスライドさせるんだ!!」
神殿は大忙しになり、神々は鼻血を出しながら凄まじい速度でシステムを書き換えた。シオン様が歩くルート上の石ころは地上神がミリ秒単位で消去し、不快な突風が吹けば気象神が総出で風速を0.2メートル下げ雨雲の行く手をずらした。
「はぁ、はぁ……! これでシオン様は傷一つ負わない、完璧なスローライフを送れるはず……!」
神々が達成感で涙を流し、互いの健闘を称えて抱き合おうとした、まさにその時だった。
オペレーターの若手神が、真っ青な顔でモニターを指差した。
「ほ、報告します! 先ほど地上で発生した『隕石の欠片の消滅事件』……あのログを解析したところ、とんでもない事実が判明しました!」
「隕石? あれは我々が迎撃したんじゃないのか?」
「いえ、我々の操作が間に合う前に、シオン様の魂から溢れ出した虹色の『絶対不可侵バリアコート』が自動で迎撃……いえ、蒸発させていました! 解析の結果、シオン様の魂そのものに、以前ほどのパワーではないのですが【絶対防御バリア】が焼き付きすぎていて、システム側からの消去を完全に拒絶しています! 現在、シオン様の周囲は無意識下で防御力がカンスト状態です!」
サーバー室に、氷のような沈黙が流れた。
三至高神のリーダーが、血の涙を流しながら膝から崩れ落ちる。
「……じゃあ、俺たちが徹夜で、鼻血を出しながらやった『石ころ消去』も『風速0.2メートルの微調整』も……」
「は、はい。シオン様の圧倒的な自己防衛機能の前には、最初から1ミリも意味がありませんでした。というか、我々が守る必要なんて、もはやこの宇宙に存在しません……」
「俺たちの努力なんだったんだよぉぉぉ!!!」
「過保護にする必要ゼロじゃねえかチクショウお美しいーーー!!」
キーン、と心地よい目覚ましの音が耳に届く。
「……あら?」
気がつくと、私はまた、見知らぬ、けれど中世ヨーロッパ風の綺麗な部屋のベッドの上にいました。
手を見れば、1万年の戦いの傷跡など何もない、ただの普通のお嬢様の柔らかい手。能力を測定しても、魔力は一般人並み。
「あらあら……。天界のシステムをあれだけ綺麗に直して差し上げたのに、また手違いで転生してしまいましたのね。まぁ、神々様も人間(魂)の数が多すぎて、まだ少しバグが残っているのかしら?」
シオン様は、まさか裏で神々が必死に構築した「おもてなし世界」だとは1ミリも気づかず、フフッと優雅に微笑んだ。
「まぁ、チート能力もありませんし、今世もあのお方(運命の人)を探して、ハーブティーでも飲みながら、静かに、お上品に暮らすといたしましょう。ごめんあそばせ、前世の私」
画面の向こうでそう呟くシオン様を見て、天界の神々は「よし!! 今世も騙されてくれたぞ!!」「第101回目の転生、偽装成功だーーー!!」と、抱き合って大号泣のガッツポーズを決めるのだった。
(第7話へ続く)




