第58話 『荒野のガンマンとライト兄弟』
町長室に入るなり、ミルドレッド町長は手下の兵たちに「このガンマンのチャールトンを牢屋へ入れろ!」と命じる。
……が、裏ではチャールトンの耳元で「すまんが、少しの間だけ辛抱してくれ……」と必死に小声で囁いていた。
「皆様、大変申し訳ない! このような無様な失態をおかしたことを深くお詫び申し上げます! ……ところで皆様は、本日はどのようなご用件でここへ来られたのでしょうか?」
頭を下げる町長に対し、シオン様が優雅に口を開く。
「草原を歩いておりましたら、こちらに若者たちが走って参りましてね。なんでも『龍がどうこう』と騒いでおりましたので、気になって少し立ち寄ってみたのですわ」
「ああ……それでしたらもしや、隣町で『飛行機』とかいう乗り物を研究している兄弟が飛ばしたものと、勘違いしたのかもしれませんな。重ね重ね申し訳ない」
すると、その言葉を聞いたライトが「ねえねえ!」と可愛らしい声で尋ねた。
「その兄弟って、どこで実験をしてるの!?」
町長のミルドレッドは、「あちらの丘の傾斜を使って、坂道を駆け下りながら何かやっているようですよ」と付け加えた。
ライトはなぜか、その兄弟の名前が自分と同じ「ライト」というだけで、興味津々なご様子である。
「見てみたいのですか?」
シオン様が優しく微笑んで問いかけると、ライトは嬉しそうに頷いた。
「では、少し見に行ってみましょうか」
こうして一行は町を出て、指定された丘へと歩みを進めた。
やがて見えてきた丘陵地帯では、翼の短い奇妙な乗り物(飛行機)に乗り、下り坂を勢いよく駆け下りていく二人組の姿があった。
「おーい! 君たち!」
ジュンが声をかける。
「君たちが『ライト兄弟』かい?」
「そうだ! それがどうしたんだ!?」
「いやね、その翼の短さじゃ浮き上がらないんじゃないかなと思ってさ」
いきなり通りすがりに知った風な口を利かれ、兄弟はムッとして言い返した。
「ハッ! 素人が知ったようなことを抜かし上がりやがって……!」
「だって、ほら!」
ジュンはライトの背中を指さした。だが──ライト兄弟の目には、可憐な羽衣にちょこんと付いた、ただの可愛らしいイミテーション(飾り)にしか見えていなかったのだろう。
「最低でも、体に対してこれくらいの比率がないとダメなんだよ!」
大真面目に熱弁するジュンに対し、兄弟は「こいつ、服の飾りを指さして何を熱くなってるんだ……?」と言わんばかりに、呆れ果てた視線を送るのだった。
だが──可憐な羽衣を纏ったピクシー姿の蝶々のような小さな羽を見せられたところで、人間が乗る機械の翼の参考になるはずもなく、納得いくわけがなかった。
すると、何を思ったのかライトが誰もいない広々とした丘の上で、ドカンと本来の姿へと変身してみせた!
ドスンと地響きを立てて現れたのは、美しくも圧倒的な威容を誇る巨大な飛龍。ライトは自慢そうに胸を張り、優雅に立ち尽くしている。
突然現れた規格外の巨獣に、ライト兄弟は腰を抜かしそうなほどの動揺を隠せなかった。……が、物作りへの執着からか、二人の視線は恐怖よりも、その背に広がる巨大で美しい翼へと吸い寄せられていた。
兄弟は恐る恐る歩み寄るとその綺麗な翼に触れる。
「ほらね?」
そこへジュンが誇らしげに付け加えた。
「この身体の大きさと、翼の面積の比率……これこそが、空を飛べる最大の秘訣なんだよ!」
「なるほど……! 翼の表面積が圧倒的に足りなかったのか……!」
目の前の巨大なドラゴンと説得力ありすぎる翼の比率を前に、ライト兄弟は深く納得するのだった──。
レオンが不思議そうにジュンへ尋ねた。
「ジュン、お前はあの羽や機械の構造を知っているのか?」
「もちろんさ! 以前いた世界では、あんな機体どころか、もっと大きくてライトやレフトくらいの翼を持った飛行機が、空をたくさん飛んでいたんだからね」
「ほう! そうであったか!」
感心するレオンの横で、シオン様も上品に頷いてみせた。
「ええ、私の知っておりますその『飛行機』という乗り物も、まん丸い形をしていて、私の移動速度と同じくらいで飛んでおりましたわ!」
「それUFOでしょ!!」
シオン様のどこかズレた飛行機認識に対し、ジュンは思わずド直球のツッコミを入れるのだった──。
「だけどさ、今度はレフトの蝶々の羽のままで飛んで見せてよ」とジュンが言った。
レフトはピクシーの姿のまま、蝶々の羽をパタパタと動かして飛んでみせた。
「なぜ飛べるか分かるかい? これはね、4枚羽だからなんだよ!」
そう言うと、レフトはさらに言葉をつけ足した。
「だから、その飛行機も一枚羽だと強度が弱いから、重ねて二段の羽にすれば少しは飛べると思うよ!」
それを聞くなり、二人は一目散に坂を下って帰っていった。
(あーあ、言っちゃいましたね……)
しかし、ジュンの物知りぶりには毎回驚かされる。
「な! ジュン兄ちゃんはしゅごいでちゅねー!」
そう言って、肩に乗っているリップに顔を近づけた瞬間――リップの「ぷにゅぷにゅパンチ」が顔面にヒットした!
痛がるレオンの横で、ジュンは少し照れくさそうに笑っていた。
「さて遊んだし、そろそろ歩きますか? シオン様」
レオンは、リップに叩かれた頬を撫でながら言った。
「どうしましょうか? ここも少し面白そうですけどね」
シオンのその言葉を聞いた瞬間、(あ、これ完全に居残りになるやつだ……)と、ジュンとレオンは顔を見合わせ悟った。
「でしたら、僕が街に行って宿屋があるか確認してきます」とジュンが提案した。
だが、シオンは首を振る。
「あそこの街へ行っても、美味しそうなものがあるとは思えませんわ! この辺り……そうね、あのライト兄弟が降りて行った方で野営でもいたしましょう」
そうして、話はあっさりとまとまった。
少し歩くと、十数軒の家が立ち並ぶ街外れの田舎にたどり着いた。
そこからさらに離れた、丘と丘の間に挟まれた隠れ場のような場所――周囲からは何も見えない絶好のポイントに陣を取る。
シオン様はいつものように異空間ストレージからバサバサと道具を取り出し、それをジュンとレオンが並べていく。
その楽しそうな様子を見て、ライトとレフト、そしてリップもいそいそと手伝い始めるのだった。
(第59話へつづく)




