第57話 『ガンマン、チャールトン』
「さっき、街の上空を龍のようなものが飛んでいたとかで、街の若いのが5人ほど走っていったぞ!」
「まさか? そんなの見たことも聞いたこともないぞ。何かの見間違いじゃないのか?」
「あれだろ、あれ! 隣町の『ライト兄弟』とかいう奴らが、飛行機とかいう翼のある乗り物に乗って空を飛ぶとか飛ばないとか言う噂話だろ?」
「ああ、あの変わり者の兄弟か! 知ってる知ってる!」
「まさか本当に飛んだのか?」
「そうかもな!」
「ほーう、そりゃあすごい話だなぁ」
──そんな田舎特有の呑気な噂話が交わされている頃。
街のすぐ手前までやって来たシオン様は、宙に浮かせたまま連れてきた気絶状態の5人を、道端へ「ひょい」とそのまま放り出すと、何事もなかったかのように街の中へと足を踏み入れた。
この街には城壁のような厳めしい防壁はなく、ポツン、ポツンと家々が立ち並び、農民たちが長閑に田畑を耕しながら暮らす田舎風景から、徐々に賑やかな街並みへとつながっていた。
そこへ突如として現れた一行に、作業をしていた人々は一斉に手を止め、呆気にとられて目を奪われる。
一番先頭を歩くのは、シルバーに輝く重厚な鎧を「カシャン、カシャン」と誇らしげに鳴らして練り歩く騎士レオン。
そのすぐ後ろには、真紅のドレスを身に纏い、可憐に扇子を仰ぎながら優雅に歩くシオン様。その両脇には、色鮮やかな羽衣を羽織り、背中に蝶のような美しい羽を生やした愛らしいピクシーの双子、ライトとレフト。
そして後方には、赤い上下の仕立ての良い服を身に包み、腰に短剣を差した小柄なエルフのジュン。その肩には、青いスライムのリップがチョコンと乗っている。
どこからどう見ても常識外れで、豪華絢爛かつ奇妙すぎる一行のパレードに、街の人々はただただ開いた口が塞がらないのだった──。
これを2階の窓から見下ろしていたのは、デイトンの町長であるミルドレッドだった。
町長の脇には、銃身の長い拳銃を両腰にぶら下げた護衛のガンマンが控えている。ミルドレッドは窓の外を指さしながら告げた。
「あそこへ行って、どこから来た誰なのか、一体何をしにきたのか聞いてきてくれ」
ガンマンのチャールトンは、深々と被った帽子の庇を指先で少し持ち上げると、咥えタバコの灰を落としながら怪訝そうに椅子から立ち上がった。そして窓越しに異様な一行を見下ろすと、静かに階段を降りていった。
やがて、ガンマンのチャールトンがレオンたちの前に立ちふさがるように姿を現した。
「おい……! お前たちはどこから来て、何をしにここへ来た?」
不躾に問いただすチャールトンに対し、レオンはカシャンと鎧を鳴らし、重厚な声で返した。
「失礼な奴だな。名乗りもしない相手に問うつもりか? 我は剣聖レオン。後ろにおわす貴婦人は賢者シオン様、その両脇はお子さんのライトとレフト。そして最後尾の赤い服を着たエルフはアザゼルの神聖ジュン、その肩におわすのがスライムのリップだ!」
堂々と胸を張って言い放つレオンに、チャールトンは息を呑む。
「……で、ここへ来た目的は何だ?」
「目的などない! ただ旅の途中で通りかかっただけのことだ!」
だが──チャールトンは既に気づいていた。
名乗られた肩書や面々の不気味なほどの異様さ、そしてそこから漂う圧倒的な気圧に、己の両手が恐怖でガタガタと震えていることに。
チャールトンは冷や汗を流しながら、震える手をゆっくりと両腰のガンへと伸ばすのだった──。
その瞬間──「カチャッ!」と金属音が響いた。
緊張が極限に達したチャールトンは、恐怖に支配されるがまま、思わずガンを抜いてしまったのだ。
相手を攻撃する気など到底なかった。ただ、目の前の異質な存在への恐怖から生じた、突発的な反射行動だった。
だが──その引き金を引く音とほぼ同時に、別の音が重なる。
「──カチン」
それは、レオンの剣が素早く鞘に収まる音だった。
チャールトンが何が起きたのか理解するよりも早く、レオンの解き放った一閃が、チャールトンの両腰にある拳銃の弾薬部分を寸分違わず捉えていたのだ。
まるでキュウリやチーズでも切るかのようにキレイな円を描き、一瞬にして銃身ごと真っ二つに切断してみせたのである。
「…………え?」
チャールトンは抜いたはずの、先端が真っ直ぐに切り落とされた拳銃を見つめたまま、全身を小刻みに震わせ、指一本動かすことすらできなくなっていた──。
レオンのコンマ数秒にも満たない神速の一閃──。
だが、それをシオン様とジュンの二人は【思考超加速】を発動し、まるで超スローモーション映像を見るかのように、優雅に楽しげに眺めていたのだった。
ジュンの視界の中で、じわじわと鞘へ戻っていくレオンの剣を見送りながら、後ろで「流石は剣聖!」と心の中でツッコミを入れる。
そして、剣を収め切ったレオンが重厚な声で言い放った。
「後ろに控えるシオン様への侮辱……万死に値する!!」
決まった──と言わんばかりに決めゼリフを吐いた瞬間だった。
「待った待った! それを言うのは僕の番でしょーーっ!?」
ジュンが思わず大声で叫んだ。
そうなのだ。本来、ここで「死の断罪」を執行する【アザゼル】の称号を持つのはジュンであり、そのキメ台詞をレオンが完全に先走って横取りしてしまっていたのだ。
「あ……」
調子に乗って完全にやってしまった、という顔でレオンが固まるのだった──。
ガタガタと恐怖の震えが止まらないガンマンのチャールトンを横目に、ジュンは「もう一回やり直し!」とレオンに要求する。
「うむ……仕方ないな」
そう言いながら、律儀にもう一度剣を鞘に収めるポーズを取り直すレオン。
そんな二人のやり取りを、シオン様とライト、レフトが楽しそうに見守っている。
さらには、日頃からたくさん可愛がってくれるジュンへの親しみを込めて、スライムのリップまでもが小さな手をグーの形に作ると、
『そうだそうだ〜!』
と声を上げてジュンの味方をするのだった。
周りで成り行きを見つめていた一般の町民たちは、ただただ目立ちすぎる面々の奇妙なやり取りを、呆気にとられて眺めることしかできない。
「よし! じゃあ、その町長のところへ案内してもらおうか!」
ジュンがドヤ顔でチャールトンに言い放つ。
もはや銃身が真っ二つに切断され、手元にグリップ(柄)しか残っていない拳銃を空しく握りしめたまま、チャールトンはトボトボと先頭を歩き出した。
その後に続いて進んだシオン様御一行は、こうしてデイトンの町の長であるミルドレッドの部屋へと通されるのだった──。
(第58話へつづく)




