第54話 『天界の加護と、双子の秘密』
ジュンは不思議そうに首をかしげた。
そんなジュンの肩に、シオンが楽しそうに扇子をあてる。
「あら、ジュンにはまだ話していませんでしたかしら? レオンの持つ剣には意志がありますのよ」
「そう! 私の剣は、剣の国で若い頃から共に切磋琢磨してきた、いわば『同志』のような存在。シオン様の膨大な魔力をコピーして成長したこの剣に……畏れ多くも『女神の恩寵』と名付けさせていただきたく!」
レオンが誇らしげに胸を張って宣言する横で、ジュンは心の中で密かに呟いた。
(「女神の恩寵」っていうか……ほぼシオン様の魔力をコピーしてるんだから「女神の模倣犯」だよな……)
すると、シオンが可憐に微笑みながら手を打った。
「あら、良い名前ではありませんこと。ですが、もっと呼びやすく『シオン二号』でもよろしくてよ?」
──カタカタカタカタッ!!!
その瞬間、レオンの腰の鞘の中で、剣が猛烈に震え上がった。
『そ、それだけは勘弁してくれーーーっ!!』
言わんばかりに、鞘に収まった剣から「ヒェッ……!」と切羽詰まった叫びにも似た声が響き渡り、大聖堂に集まっていた全員が思わず盛大にずっこけるのだった。
「わあ……それはすごいですね!」
ジュンは目を丸くしながらも、羨ましそうにその剣を見つめた。
そんなジュンに向かって、レオンはどこか誇らしげに肩を叩く。
「なあに、もう少しすれば、お前が持つその短剣にも似たようなことが起きて不思議ではないぞ!」
「そうなんですか……!? シオン様!」
パッと顔を輝かせたジュンが振り向くと、シオンは優雅に微笑みながら優しく頷いてみせた。
「ええ、可能性は十分にありますわ」
その光景を見つめていたバンガルも、そして双子のライトとレフトも、「次は自分たちの装備や能力にも……!」と言わんばかりに、一斉に目をキラキラと輝かせるのだった──。
それは神々や聖騎士団隊長でさえ思っていた。
だが──それに対し、スライムのリップだけは既に勘づいていた。
何を隠そう、リップ自身が今まさに、恐ろしいほどの速度で異次元の進化を遂げつつあるということに。
それはまるで細胞分裂のようだった。
今はまだ「1が2に、2が4に」といった程度の変化かもしれない。しかし確実に自身の内で何かが増殖しており、倍々ゲームの勢いで底知れぬ力がみなぎってきているのだ。
既に言葉を話し、簡単な攻撃魔法すら扱い始め……さらには、体表面に生まれたゴマ粒ほどの小さな「目」によって、はるか遠くの情景まで見渡せるようになっていた。
(みんなは装備の進化で盛り上がっているけれど……僕のこの成長スピード、一体どうなっちゃうんだろう……?)
無邪気にはしゃぐ一行の背後で、リップはゴマ粒のような目をピカッと光らせながら、静かに自身の内に秘められた無限の可能性に戦慄するのだった。
懐かしい天界へ戻ったシオンはこの世界の理の曖昧さが全てで、それこそがかつての転生、転移を繰り返したバグだらけのシステムエラーで作り出されたシオン・ナイトメアの異空間であり、創造主なのではないかと、天界の空を煌々と輝く黄金のギアの数々を見つめた。
その後、海底都市の深淵部、大迷宮の入口に魔法陣にて到着し、封印された魔獣を確認したシオン。
「それでは、編成をどうしますか? レオン!」
シオンは飛龍の姿の二人ならば問題はないのだが、妖精の姿をした二人の事を思ってのことだと察したレオンは、「いつもの様に私が先頭、それに続いてライトとレフト、その後をシオン様、殿をジュンと背後をリップでは」と提案した。
ライトとレフトはワクワクを隠しきれずに、嬉しそうにしている。
「では当分その編成で進み、何か不都合でも生じたら、また考えましょう」
シオンのその一言を合図に、一行はさらに深淵部へと進んでいく。
レオンは後ろを振り返り、レフトとライトに向けて声をかけた。
「なに、そう緊張することはない。我々は最強なのだから何の心配も要らん。楽しんで行こうじゃないか」
そう言うレオンだったが、二人はすでに彼の後ろにはいなかった。シオンの左右、文字通り“レフト”と“ライト”の位置にぴったりと寄り添っている。
本来の飛龍の姿では通れないような狭い道も、この妖精の姿であれば何の問題もなさそうだ。
道中、襲いかかってくる魔物や魔獣の類いは、レフトの掌から放たれる火魔法やファイアーアロー、そしてライトの掌から放たれるウォーターカッターや超高速のウォーターバレットによってあっという間に仕留められていく。二人は敵を倒すたびに大はしゃぎだ。
やがて、大迷宮の広い洞窟の壁に、色とりどりの鉱石が怪しくも美しく輝き始めた。
「シオン様、この辺りでそろそろ食事を兼ねて野営の準備にしましょう」
レオンが提案すると、ライトとレフトにとってはこれが初めての野営。嬉しそうにシオンの周りをパタパタと飛び回り、準備を手伝い始めた。
シオンが異空間ストレージから取り出すアイテムを、二人は受け取るやいなや次々と設置していく。
そのあまりの手際良さに、レオン、ジュン、リップの三人は驚愕した。指示を一切受けずとも、完全にシオンの意図を一瞬で理解して動いているのだ。
「シオン様、コレはいったい……?」
レオンが問い終わるよりも早く、シオンが察したように声を上げた。
「思考を読まれていますわ!」
もしや我々の思考まで……? レオンは「なら、まさかリップの考えもわかるのか?」と戦慄する。
するとレフトとライトは、胸を張って言った。
「だから一心同体って何度も言ってるでしょ! 二人の意思が完全に通じ合っているからこそ、空中戦でも一ミリの誤差もない完璧な連携ができるんだよ」
自信満々にそう答えると、二人は続けて秘密を打ち明けた。
「卵の中にいた頃からお互いの存在を意識していてね。それがだんだんエスカレートして、近くにいた神々やバンガル、ザートナル国王……みんないろんな人の心や考えまで分かるようになっちゃったんだ!」
「あそこにいた皆が、お互いを心から尊重し合っていることも分かったから……『もうここを出ても大丈夫だな』って思ったんだよ。それで、母様の側にいようって決めたの」
二人はそう笑ってみせたが、すぐに「でも、完璧ってわけじゃないけどね。母様や神々の考えは読めるけど、他の皆の考えはたぶん六、七割くらいかな」と付け加えた。
「それでも凄まじい能力だよ、驚いたな……僕もその力が欲しいくらいだ。ふわふわの雲の上でもらった加護なんて、索敵と反重力魔法、あとは超高速移動くらいだからね」
ジュンの呟きを聞いて、シオンはふと首を傾げた。
(ジュンに加護を与えたのは、一体誰なのかしら……?)
神々の中でも個人に加護を与えられるほどの存在といえば、三至高神くらいのものだ。あるいは、隠居した古き老神でもいたのだろうか。
自身が一度命を落として天界へ赴いた際にも、加護など授かった覚えはない。シオンが不思議そうに思考を巡らせていると、レフトとライトがパタパタと寄ってきた。
豪華絢爛な宮殿を思わせる空間——そのソファで佇んでいた時の情景を思い起こさせるように、二人はシオンの両耳元で同時に囁いた。
「あの加護はね——」
(第55話へつづく)




