第53話 『一心同体! 双子の初陣』
「二人を離れ離れにするのは、少し酷ですわね? バンガル」
「……む?」
バンガルが少し思案の表情を浮かべた。
「以前は魔獣の討伐といえば、魔界、人間界、天界のそれぞれで行っておりましたわよね? でしたら、今回は二人と三界とで交代制にしてはいかがかしら?」
「たしかに……さもありなん。兄妹がシオン様方と旅立たれている間は我々が総力を挙げて討伐し、ライトとレフトが帰ってきたら二人に頼る、と?」
「そうですわね。三界で人数を出し合えば、どれほど持ちこたえられますの?」
「人数にもよりますが、一ヶ月や二ヶ月は十分大丈夫かと」
「でしたら、晩餐会の後にでも三至高神やザートナル国王、そして騎兵団長と話し合って決めましょう」
豪華な料理が並ぶ晩餐会の席。食事も一段落したところで、バンガルが杯を置き、三至高神とザートナル国王に向き直った。
「皆様、宴の最中に失礼する。先ほど話に出ていた、魔獣討伐の交代制についてご相談したい」
「ほう、交代制とな?」
三至高神の一人が興味深そうに身を乗り出す。ザートナル国王と騎兵団長も真剣な面持ちで耳を傾けた。
「二人がシオン様との旅に同行している間は、魔界、人間界、天界の三界が総力を挙げ、交代で防衛にあたる。そして二人が戻った際には、その力を借りる……という手はずだ」
バンガルがそう説明した瞬間、料理に夢中だったライトとレフトがピクッと手を止めた。
「えっ、僕たちもシオン様と一緒に旅に行っていいの!?」
「ほんとう!? 留守番じゃなくて、一緒に行っていいの!?」
自分たちが旅に同行できると今知った二人は、口の周りにソースをつけたまま身を乗り出し、目を輝かせてシオンとバンガルを交互に見つめた。
バンガルは苦笑しながら二人の頭を優しく撫で、説明を続ける。
「ああ、そうだ。だから二人がいない間、三界で兵を出し合えば、少なくとも一、二ヶ月は持ちこたえられるかと考えているのだが……」
「なるほど……! あの強力な飛龍の力を全面的に頼るのではなく、我々も責任を分担するわけだな」
ザートナル国王が深く頷く。騎兵団長も大きく意気込んだ。
「異論はありません! むしろ、お二人ばかりに負担を強いるのは騎士としての誇りが許しません。二ヶ月と言わず、我々だけでも持ちこたえてみせます!」
「素晴らしい提案だ。天界としても異存はない。……何より、天界の屋根を壊されずに済むのは助かる」
至高神の身も蓋もない本音に、控えていた神々が思わず吹き出しそうになる。
「やったぁ! シオン様と旅に行けるんだ!」
「任せとけって! 僕らが帰ってきたら、溜まった魔獣を一気に片付けてあげるからさ!」
抱き合って大喜びする双子の姿に、一座の緊張は一気に解け、あたたかな笑い声が晩餐会の会場を包み込むのだった。
「思い返せば……以前は確かに人間界単独でも討伐自体はしておりました。だが、無傷とはいかなかった! 多少の怪我人は免れませんでしたからの。
シオン様が『魔獣をライトとレフトの餌に』とご提案くださって以降、死者も負傷者も皆無になり、大変助かっておりました……ゆえに、その恩恵にあぐらをかいて甘えてしまっていたのですな」
騎兵団長が深く頷きながら反省を口にすると、バンガルが乗り出すように言葉を重ねて話を進める。
「ですが、これからは違いますぞ! 神々、魔王軍、人間界には、それぞれ得意とする戦いの分野がございます。各々から数名ずつを選出し、混成チームを編成して討伐に当たるのが最善かと存じます。
幸い、我が魔界の者は魔法耐性に優れ、人間界の騎士は高度な装備と剣術・弓術で近接から遠距離まで幅広く対応できる。
そして神々におかれては、強力な神聖魔法や治癒・再生の術が使えますゆえな。
「……それこそ、各勢力から十名ずつを集めた『三十人体制のチーム』を5つほど編成し、交代制で警備に当たれば、今後の魔獣被害など楽勝で抑え込めるのではないでしょうか!」
バンガルの熱弁を聞き届けたシオンは、優雅に扇子をあおぎながら後を続ける。
「ええ、良い案ですわ。
「ですが、もしそれでも対応が大変でしたら、遠慮なく仰ってくださいな。レフトやライト、あるいはレオンやジュンに声をかけてくだされば、すぐにでも向かわせますわ。それに──皆様の技を磨く、良い鍛錬にもなるでしょうからね。何しろレオンやジュンに至っては、魔獣の10体や20体など瞬殺でしょうし」
「えええっ!?」
シオン様からのあまりに当然のような無茶振りに、ジュンが思わず声を裏返して言い返した。
「シオン様、いくらなんでも『瞬殺』は無茶ですよ! 仮に魔獣を【1体1秒】で倒すという超スピードだとしても、20体いたら物理的に10秒や20秒はかかりますからね!?」
「まあ」
シオンはどこかおかしそうに目を細めると、隣のレオンとジュンを見比べながら可憐に微笑んだ。
「シオン様なら1秒もかからないのでしょうけれど、僕たちはさすがに時間がかかりますって! ……ねえ、レオンさん!?」
助けを求めるように同意を求めたジュンだったが、シオンはくすりと笑って首を傾げたのだった。
「あら? 随分と弱気な発言ですのね、ジュン」
「シオン様、ジュンは少々謙遜が過ぎるのです」
レオンが威風堂々と胸を張り、腰の剣に手を添えた。
「ジュンとてシオン様から『アザゼルの神聖』という称号を賜っておりますからな。……まあ、私個人の実力はまだまだですが、この私の『剣』ならば、今やシオン様の次に強いと確信しております!」
「えっ……?」
(第54話へつづく)




