第52話 『双子の背中の羽』
魔王バンガルの古参幹部たちはシオン様の前にひざまずくと、献上品である『ブラック茸の里』をうやうやしく差し出すのだった。
晩餐会の前、シオン様が自室で寛いでいるところへ、バンガルが訪問にやってきた。
コンコン、と扉が叩かれると同時に、シオン様は無詠唱で部屋のドアをスッと開く。
そこにはシオン様のほか、羽衣をまとった少年と少女、レオン、ジュン、そして見慣れぬ小さな姿――リップがいた。
「おや……仲間が増えたのですか、シオン様?」
バンガルが不思議そうに少年と少女、それからスライムのリップを見つめると、ジュンが嬉しそうに紹介した。
「実はね、竜宮城の乙姫様の特注品の羽衣を首に巻いたおかげで、ライトとレフトがこの通り、人の姿に変化できるようになったんだよ!」
するとリップがバンガルに向かって、ペコリとお辞儀をしながら可愛らしく挨拶をする。
『ヨロシク、オネガイ、シマシュー!』
「オォ……この辺りでは見かけない魔物だが?」
「スライムですのよ。バンガルはご存じありませんの?」
「はい、初めて見ました……」
バンガルが感心したように頷いていると、レオンが一歩前に出て、見事な刺繍の施されたガウンのような品をバンガルへ差し出した。
「バンガル、これを受け取ってくれ! これは『羽衣』という代物でな、滅多に見つけられないとても貴重なものなんだ。以前もらった『ケムケム茸』のお返しだよ! ジュンは僕たち三人からの気持ちとして受け取ってと話す!」
「あ! なるほど、これがシオン様から伺っていたお土産ですか。ありがたく頂戴いたします」
受け取りかけたバンガルは、ふと何かを思い出してシオンを見る。
「……ま、まさかとは思うが、これを着れば余も何かに変化したりはしないでしょうな?」
シオンは可憐に微笑みながら扇子を揺らした。
「あら、それはあの二人の羽衣とは別物ですわ。大丈夫ですのよ」
それを聞いて安心したバンガルは、嬉しそうに目を輝かせると、早速どれどれと羽衣を礼服の上に合わせ、姿見の前で自ら優雅にポーズを決めてみせた。
「……ほう! なかなかの代物、実に美しい! これを羽織って、夜の月でも眺めながら酒でも嗜むといたしましょうぞ!」
上機嫌で羽衣の着心地を確かめた後、バンガルは表情を少し真面目なものに変えて言葉を続ける。
「それと、先ほどお話ししていたライトとレフトの魔獣狩りの件ですが……私共も何度か一緒に魔界の森に入ったのですが、あの子たちの働きには驚かされるばかりでしてな! もし『シオン様のお供がしたい』と言うのでしたら、定期的にシオン様が里帰りなさって、その都度交代でお連れになっては如何でしょう? ……まあ、ライトとレフトが『二人一緒じゃなければ嫌だ!』と言うのでしたら、この話は無かったことにして構わないのですがね」
「なるほど……」
シオンは感心したように呟き、バンガルの顔をじっと見つめた。
「バンガル、あなた……変わりましたわね」
「何がでしょうか?」
バンガルが首を傾げる。
「あなたの性格ですわね。以前はつっけんどんで品がない口調でしたのに……やはり天界や人間界との接触が密になったからでしょうか?」
全く自覚症状のないバンガルは、耳を少し赤くして照れ臭そうに視線を泳がせた。
「まあ、良い変化ですわ! それより……ライト、レフト。今の話をどう思いますの?」
シオン様から視線を向けられた双子の兄妹は、パッと顔を輝かせ、声を揃えて力強く答えたのだった。
「母様とお供できるのでしたら、交代でだって喜んでお供いたします!」」
「『二人は一心同体! 交代でもシオン様のお役に立てるなら嬉しいですわ!』」
「『僕も、交代でお供するよ!』」
「それでしたら、そのお姿で三至高神や他のお世話係の神々へ、ご挨拶とご報告をしておいでなさいな」
「「はい、母様!」」
元気よく返事をした二人は、パタパタと可憐に駆け出していった。
その頃、晩餐会の準備に追われていた大聖堂。
慌ただしく行き交う神々の中に、可愛らしい足音を響かせて走る二人の子供の姿があった。
背中には少しばかりの可憐な羽が生え、身には優美な羽衣をまとっている。
準備の手を止め、その姿を見つめた神々が、ポカンと口を開けた。
「……ん? 何だあの姿は……?」
「まあ、何て可愛らしい……天界の新しい妖精でしょうか?」
すっかり愛くるしい妖精だと思い込んだ神々の一人が、目線を低くして優しく微笑みかけながら声をかける。
「そこのお二人、見慣れない顔だが、一体どこから来たのかな?」
すると、少女が不思議そうに首をかしげ、少年が呆れたように腰に手を当てて言い放った。
「「何言ってるの? ライトとレフトだよ! 見て分からないの!?」」
「「「な……何だってぇぇぇーーーっ!???」」」
大聖堂中に神々の悲鳴が響き渡り、周囲は一瞬で愕然となった。
「シオン様に着せてもらった羽衣のおかげで、この姿に変化できるようになったんだよ!」
胸を張ってドヤ顔を決める双子を前に、神々は「あの凶悪な飛龍が、こんな可憐な子供に……!?」と泡を吹きそうになりながら固まっていた。
「大きくもなれるけど、今ここでなってみようか?」
双子がそう言って変化の準備を始めようとするのを、神々は慌てて引き止める。
「待て待て! 今は晩餐会の準備中だ! だからそのままで、そのままでいてくれ! その姿の方が可愛らしいし、天城の中にいる時はずっとそのままで頼む!」
「これでいいなら、僕らもこの方が都合が良いよ。少し天井が低くて飛び回るのに狭苦しかったんだ」
「でも、暴れる時は大きくなるけどね!」
(第53話へつづく)




