第45話 『天罰という名の暗殺の執行者』
シオン、レオン、ジュンの三人は転移陣を抜け、創造主様の足跡を追って新たな荒野へと降り立っていた。
「シオン様、足跡は見えていますか?」
「えぇ、一直線に丘陵地帯へ伸びていますわ」
「天界や王都で少し遊びすぎてしまいましたからね。足跡が見える範囲で、地面スレスレを浮遊して進みましょう!」
「レオン、ジュン! 了解したです」
三人は徒歩の十倍以上の速度で疾走する。
やがて目の前に大きな森が現れ、遥か向こうには微かに山脈の影も確認できた。
「前方およそ2キロ先、魔獣が15体。その中央に……5人取り囲まれています。テレスコ(遠視)で確認すると、魔獣が赤、囲まれている5人が青の反応です」
「青の5人は、害のない者たちかと!」
「少し近くまで行って確認しましょう」
「そうですね。盗賊や冒険者の可能性もあります。ジュン、隠蔽スキルを使って詳細を見てきてくださる?」
ジュンがスキルを発動し、一瞬で偵察から戻ってくる。
「驚きました、人間です。既に10人以上の死体がありました……恐らく誰かの護衛かと。騎兵と冒険者風の者たちが苦戦している様子です」
「ならば、加勢してもいいか?」
「話を聞いてからの方が良いんじゃないか? どうせ、うちらが加勢したら一瞬で決着がつくだろうしね」
「では、参りましょう!」
次の瞬間、レオンが戦闘の真っ只中へと飛び込んだ。
肩を押さえて喘ぐ騎兵の元へ降り立ち、声をかける。
「何があった!?」
「集落からの年貢を集め終え、王都へ帰還する途中で……あの魔獣に襲われたんだ!」
「……アレは何だ? トカゲの群れにしてはデカいが」
目の前にいるのは、身体は豹でありながら額から2本の長い角が伸びている奇獣――『ライオオトカゲ』だった。
「よし、加勢するぞ。ジュン、行くぞ!」
「何頭狩れるか勝負ですか?」
「ふっ、競争だな!」
二人が交差した瞬間、15体の魔獣は一瞬にして全て討ち取られていた。
「強い……強すぎる!! 貴方がたは、もしや名のある冒険者で?」
「王都では見ない顔だが……」
困惑する騎兵たちの前に、レオンが一歩踏み出す。
「あ! 申し遅れたな。我々は世直し道中の旅をしている者だ。こちらが賢者シオン様、そして紅のアサシン・ジュン。私は剣聖レオンと申す」
「賢者に、アサシン、剣聖……!?」
「ところで、残ったのはここにいる5人だけか? とりあえず荷馬車は無事のようだが……ここから街まではどれくらいかかるのだ?」
「歩いて2日といったところです……」
騎兵は暗い表情で周囲を見渡した。
「本当なら仲間の死体も連れて帰りたいのですが……運ぶ手段も、ここに墓標を建てるための穴を掘る道具もありません。手で掘って埋葬し、この10名の遺品だけを持ち帰る予定です」
「む……シオン様、何か良い方法はありませんか?」
レオンに振られたシオンは、ふふんと胸を張った。
「ありますわ! 仲間のご遺体も、その……ライオオトカなんとか!という魔獣も、まとめて一緒に運んで差し上げますわ!」
「どうやって……!?」
「見えない魔法の絨毯がありますの。それに乗って参りましょう。既にそこへ敷いてありますわ」
「えっ、どこに……?」
「まあ見えませんからね。その辺りにご遺体も荷物も積み上げてくださるかしら? さすがにこれだけの重量となると高くは飛べませんが、地面スレスレを高加速で参りますわよ!」
――実は、「魔法の絨毯」など最初から存在しないし上空なら宇宙まででも。
ただ「浮遊魔法でみんなを浮かせる」と言っても伝わらずにビックリされるのが目に見えていたため、シオンがその場のノリでついた可愛い嘘だった。
ジュンとレオンもいつものことだと察し、黙って口裏を合わせていた。
「ところでレオン?」
「ん、なんだ?」
「何でさっき、僕のことを『紅のアサシン』なんて紹介したの?」
「いや……ジュンのその赤い忍者姿を見れば、誰だってそう言うだろ? バッチリ姿が見えているエルフを『姿なきアサシン』とは言えないしな!」
「それなら『シャドウマスター(影の支配者)』ってどう? 今度からそれで紹介してよ。『紅のシャドウマスター、エルフのジュン』でか!」
「語呂がいいな」
「まあ、エルフは言わなくてもこの耳を見れば誰でも分かるかし……よし! 『紅のシャドウマスター・ジュン』! ん! これがいいかな!」
満足そうにうなずくジュンに、シオンがふっと微笑みながら口を挟んだ。
「ジュン、そんなもので満足してよろしいのですの?」
「えっ?」
「せっかくですもの、私が特別に名付けて差し上げますわ。」
ジュンは身構えた。(そんな!まさかレフト&ライトの次だからショートとか……!?)
「まさか!仲間にそんな名など!『アザゼル(神聖)』を名乗ることを許しましょう。私が『賢者』、レオンが『剣聖』なら、ジュンは『神聖』……天罰という名の暗殺の執行者ですわ!」
誇らしげに胸を張るシオン。
「神聖……!!」
その圧倒的な格の高さと響きの格好良さに、ジュンは涙目で歓喜した。
すぐさまシオンの前に恭しくひざまずくと、心からの感動とともに、さらなる忠誠を誓うのだった。
「さあ『神聖』、参りますわよ!」
「御意に、シオン様!」
与えられた名に相応しい働きを見せようと意気込むジュンを先頭に、一行は凄まじい速度で街道を駆け抜けた。
こうして、王都まで徒歩で2日かかる道のりを、彼らはたったの2時間で到着してしまうのであった。
遺体が運ばれ、騎兵たちが治療所へ向かうと、門兵の一人が笑顔で駆け戻ってきた。
「賢者シオン様、剣聖レオン殿、神聖ジュン殿! 王都で一番の味どころをご紹介します!」
シオンたちは顔を見合わせ、満足そうに頷いた。
「どうぞ、ごゆっくりおくつろぎを!」
門兵の案内のもと、一行は王都の美味しい料理を目指して足取りも軽やかに歩みを進めるのだった。
(第46話へづつく)




