第四話:誰も直せないなら、私が叩き直して差し上げますわ
ガタガタと震える若手神たちを顎で使い、神殿の最深部へと進む。
そこに鎮座していたのは、天界の心臓部──全宇宙の運命のプログラムを司るアカシックレコード『世界管理サーバー』だった。
だが、その光景を目にした瞬間、私は思わず扇子で額を押さえた。
「……まぁ、なんて見苦しいスパゲティプログラム(バグまみれ)ですこと」
巨大な光の画面に映し出されているのは、素人が継ぎはぎだらけで放置したような、破綻寸前の暗号コードの山。
画面の隅には、赤い文字で【警告:魂の転送エラー999万件】【サーバー容量限界】と絶望的なエラーが点滅している。
「シ、シオン様……。このサーバーは、初代の神々が作った太古のシステムでして、今の我々若手には触ることすらできないブラックボックスなのです……! 下手にいじれば、全世界が消滅してしまいます……!」
案内役の若手神が、涙目で私に懇願する。
「触ることすらできない? だから放置して、私のような哀れな被害者を何度も何度も強制キックして、たらい回しにしていたわけですのね?」
私はフッと冷たい笑みを浮かべると、ドレスの袖を優雅にまくり上げた。
「誰も直せないのでしたら、仕方がありませんわね。被害者の私が、直々に叩き直して差し上げますわ。──そこを退きなさいな、ゆとり世代の神々様」
「えっ……!? ま、まさか、世界の根幹システムを修正するつもりですか!? そんなこと、人間の魂にできるわけが──」
神々が驚愕する中、私は空間に両手をかざした。
過去99回の過酷な転生で培った【全知の賢者コード】と【概念破壊】のチート能力を、今度は「破壊」ではなく「構築」のために解放する。
私の瞳が、プログラムの海を解析し、超高速で輝く。
「まずは、この1万年間放置されていた余計なバグファイルを消去(物理削除)しますわ。──【概念消滅】!」
私がパチンと指を鳴らした瞬間、サーバー画面の3割を占めていた真っ赤なエラーコードが、音もなく一瞬で綺麗さっぱり消滅した。
「ヒエッ!? 触れただけでバグが消えた!?」
「続いて、魂の転送ルートの最適化、およびサーバー容量の100倍拡張。……ふむ、ここをこう書き換えて、と」
私の細い指先が、光のキーボードを文字通り「残像」すら残らない神速で叩き始める。
戦場で培った超高速の状況判断力と、魔界を統一した圧倒的な魔力が、すべてサーバーの修復・再構築のエネルギーへと変換されていく。
バキバキバキッ! と天界の空間が小気味いい音を立て、くすんでいた世界管理サーバーが、みるみるうちに見たこともないほど神聖で清らかな、超最新鋭の輝きを取り戻していく。
「嘘だろ……。我々が何千年もかかって一行も直せなかった世界のシステムが、秒単位でアップデートされていく……」
「この人、神々の上位互換だ……! 本物の『最高経営責任者(CEO)』だ……!」
若手神たちはもはや恐怖を通り越し、神々を遥かに超越した私の手際に、ただただ感動して涙を流し、その場に跪いていた。
「──よし、これで完了ですわ」
最後のキーを優雅に押し込むと、サーバーから心地よい起動音が響き、画面には美しい緑色の文字でこう表示された。
【システム正常。すべてのバグを修正しました。魂の転送制限を解除。シオン・ド・ラ・ローザ様の『自由な転生権利』を承認します】
「ふぅ……」
私はまくっていたドレスの袖をそっと戻し、ハンカチで上品に手を拭いた。
画面を見上げれば、私のステータス欄には、私が1万年間ずっと夢に見ていた『あの権利』がしっかりと書き込まれている。
「さあ、おのれ運営(神々)。これにて、私の不当なブラック労働に対する、天界のシステムハッキング(お仕置き)は完了ですわ。……フフッ」
世界のシステムを自らの手で完全掌握したシオン様。
いよいよ物語は、彼女が1万年越しに掴み取る「本当の結末」へと向かう──。
(第五話・へつづく)




