第三話:神々の世代交代? 知ったことではございませんわ
「ひえぇぇっ! 警備兵! 天界近衛兵を早く呼びなさい! 誰かあの不審者を止めなさいなーっ!」
純白のローブを振り乱し、下っ端の天使や若手の神たちが涙目で右往左往しています。
それもそのはず、現在の天界はすでに代替わり(世代交代という名の、無能な旧神たちの職場放棄)が進んでおり、全人口の約8割は、1万年前から過酷な異世界で泥水をすするような転生を繰り返している私よりも、はるかに年下の「若造神」ばかり。
ぬくぬくと天界の温室で育った彼らにとって、私の存在は、神話の時代から蘇った生ける化け物──それこそ失われた古代兵器も同然なのですわ。
「やれやれ、近頃の若い神々は危機感が足りませんわね。これでは次のシステム障害の時に真っ先に処理落ちしてしまいますわよ?」
私がため息をつきながら、大理石の床をコツコツと鳴らして神殿の奥へと歩を進めた、その時でした。
──突如、空間の温度が絶対零度へと凍りついたのです。
ドォォォォン!!!
凄まじい神威の激突と共に、天界の最高議事堂の頑強な床が派手に爆散しました。
もうもうと立ち込める、いかにも神々しい金色の煙。その向こうから、まばゆい光を放つ最高級の鎧をまとった、三つの傲慢な影が姿を現します。
「──そこまでだ、不法侵入者シオン・ド・ラ・ローザ」
目の前に立つ、いかにも自分が世界の中心であるかのような笑みを浮かべた男の神が、自身の背丈ほどもある巨大な大剣を私に向けて言い放ちました。
「勘違いするなよ、人間。お前を理不尽に転生させていた無能な旧神どもなら、激務に耐えかねてとっくに引退した。
今の天界を統べるのは、我ら新世代の『三至高神』。お前が過去のブラック環境でどんなチート能力を拾ってこようが、神の領域──通称『|シオン・クラウン・クラス《アノマリー》』にある我ら三人には、絶対に届きは──」
「……あァ、五月蝿いですわ!」
私は男の長々とした自己紹介を、優雅に扇子をパチンと広げる音だけで遮りました。
「旧神だの新神だの、世代交代だの……そんな天界のくだらない社内事情、私にとってはどうでもいいことですの。……フフッ」
私は一歩、前に踏み出します。
その瞬間、私の背後に眠っていた、過去99回の人生分の魔力、剣気、そして──1万年分の、天界の有給休暇を着服された『怨念』が、どす黒い漆黒の波動となって天界の美しい青空を真っ黒に覆い尽くしました。
「なっ……なんだこの、精神が軋むようなプレッシャーは……!? 我ら最高神の神威を、ただの威圧だけで圧し潰しているだと!?」
三至高神の顔からさっきまでの余裕が一瞬で消え去り、みるみるうちに顔面が蒼白になっていくのが分かります。
当然ですわ。彼らは天界のぬるま湯の中で「神から与えられた記号としての力」でふんぞり返っているに過ぎないお坊ちゃん。
対する私は、世界のシステムそのものが仕掛けてきた明確な殺意を、99回すべて力ずくでブチ殺して生き残ってきた、文字通りの『超越者』。
魂に積んでいるエンジンの格が、根本から違うのです。
「神の領域? シオン・クラウン・クラス? 笑わせないでくださる? 私の名前を勝手に権能の最高ランクの代名詞みたいに使っている時点で不愉快ですわ。──【全属性魔法極大解放・概念崩壊】」
私が白く細い指先をスッと一振りした。
本当に、ただそれだけでしたわ。
次の瞬間、天界が誇る絶対不可侵の強固な結界、三人がドヤ顔でまとっていた神聖な鎧、そして彼らが立っていた最高議事堂の右半分が、音もなく一瞬で「消滅」いたしました。
爆発すら起きない。硝煙すら立たない。
ただ、そこにあったはずの「存在」そのものを世界の記述から力任せに引き剥がす、圧倒的かつ絶対的なデバッグ(破壊)。
「ぎ、あ、あああああああ!?」
天界のトップ三人衆は、私の本気の1%にも満たない、ハエを叩くような一撃で因果律ごと吹き飛ばされ、遥か彼方の外壁にゴミのように叩きつけられて、仲良く並んで白目を剥いて気絶していましたわ。
しん、と静まり返る神殿。
さっきまで騒いでいた8割の若手神たちは、もはや悲鳴を上げることすら忘れ、ガチガチと歯を鳴らしてその場に平伏しています。
私はドレスの袖に付いた見えない埃をパパッと払うと、気絶してピクピク動いている三至高神のリーダーの顔面を、ヒールで優雅に、かつ容赦なく踏みつけました。
「さて、生意気な口を叩くハエはいなくなりましたわね。……では、そこに転がっている若手の方々、案内してくださる?」
私は極上の笑顔で、怯えきった天使たちを見下ろしました。
「あなた方の無能なシステムが眠る、最深部の『サーバー室』へ。──さあ、巻いていきますわよ?」
圧倒的な武力でお仕置き(物理デバッグ)を完了したシオン様は、もはや誰も逆らう者のいなくなった天界の心臓部へと、優雅に足を踏み入れるのでした。
(第四話へつづく)




