表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/36

第34話 『竜の舞う世界』

世界転移門を抜けた、その瞬間――。


「うわぁぁぁぁぁっ!!」


三人の身体は、何もない大空へと放り出されていた。


眼下には、どこまでも続く広大な湿地帯。


大小無数の沼が陽光を反射し、その遥か上空を、巨大な龍たちが悠然と飛び交っている。


「シオン様ぁぁぁぁっ!! 助けてくださぁぁぁ〜いっ!!」


レオンは手足をばたつかせながら、まるで空で溺れるように絶叫していた。


「空で溺れる人を、初めて見ましたわ……。」


シオンは呆れたように呟く。


レオン?貴方、剣を握れば浮けるんじゃありませんの?


一方のジュンは、落下しながらも冷静に周囲を見渡していた。


(飛べるか……? いや、この身体なら何か――)


自らに宿った力を確かめようと意識を巡らせる。


その時だった。


「グォォォォォォッ!」


一頭の巨大な龍が獲物を見つけたように急降下し、大きく口を開いてジュンへと迫る。


「えっ!? ちょっ……!」


鋭い牙が目前まで迫る。


そのまま丸呑みにされそうになった――。


「朝から元気な子ですこと。」


シオンだけは日傘を優雅に差したまま、まるで散歩でもするかのような足取りで、ゆっくりと大空を降りていくのであった。




ジュンは落下しながら、瞬時に己の能力を発動させた。


「――隠蔽。」


その姿は空中に溶け込むように消え、気配までも完全に断ち切られる。


龍は獲物を見失い、大きく首を振った。


次の瞬間、その黄金の瞳が別の獲物を捉える。


「グォォォォォッ!」


標的は、空中で手足をばたつかせているレオンだった。


「シオン様ぁぁぁっ!」


叫んでいたレオンは、迫り来る龍を見据えると、その表情を一変させる。


「おのれ……!」


空中で体勢を立て直し、剣を抜き放つ。


「我が剣、貴様ごときに屈するものか!」


龍は大口を開けたまま、一気にレオンへ襲い掛かった。


その時だった。


レオンの手に握られた剣が、突如として虹色の輝きを放つ。


「これは……!」


溢れ出した光はレオンの全身を優しく包み込んだ。


次の瞬間。


落下していたはずの身体が、ぴたりと止まる。


「なっ……宙に浮いている?」


まるで見えない大地に足をつけているかのような感覚。


レオンは静かに剣を構えた。


「これが……お前の新たな力か。」


龍は構わず、大口を開けて突進してくる。


「はぁぁぁぁぁっ!」


一歩踏み込むように空を蹴り、すれ違いざまに剣を一閃。


虹色の軌跡が大空を駆け抜ける。


――ズバッ!


龍の口から突き出ていた巨大な牙が、左右まとめて鮮やかに斬り飛ばされた。

その光景に、シオンとジュンは思わず目を見開いた。


「まあ……。」


シオンの口元に、自然と微笑みが浮かぶ。


「剣が、レオンを認めましたのね。」


姿を隠したまま落下していたジュンも、思わず声を上げる。


「す、すげぇ……!」


「凄いものを見た!」


その瞳は興奮に輝いていた。


「空を蹴って……龍の牙を一太刀で斬り飛ばしたぞ!」


一番驚いていたのは、レオン本人だった。


「これは……。」


ただ剣を握っているだけで、不思議と空中でも自在に身体が動く。


まるで大地を踏みしめているかのように、空を駆けることができるのだ。


やがて三人は、湿地帯の中にぽつりと広がる小さな草原へと降り立った。


目の前に広がる光景は、思わず息を呑むほど美しかった。


果てしなく続く湿地と大小無数の沼地。


その上空を、幾頭もの巨大な龍が悠然と舞っている。


まさに、竜人族の世界と呼ぶにふさわしい絶景であった。


シオンは、目の前に広がる絶景を満足そうに眺めた。


「せっかく、こんな素晴らしい景色ですもの。」


「新たな仲間が出来たお祝いを、ここでいたしましょう。」


「賛成です!」


ジュンが元気よく手を挙げる。


レオンも苦笑しながら頷いた。


「先ほどまで龍に食べられそうになっていたとは思えませんな。」


シオンは、いつものように何もない空間へ手を差し入れる。


すると異世界領域から、テーブル、椅子、調理台、食器棚、かまど、冷蔵庫、観葉植物、絨毯まで、次々と取り出しては配置していく。


「あれも必要ですわね。」


「これも置いておきましょう。」


あっという間に、一軒の家にも負けないほど快適な空間が出来上がっていく。


そして最後に、シオンは指先を軽く鳴らした。


「──バリアコート。」


透明な結界が周囲を包み込み、外界と完全に遮断する。


龍が襲ってこようと、魔物が近づこうと、一切干渉できない完全防御の住居が完成した。


シオンは満足そうに振り返り、優雅に微笑む。


「さて。」


「今日は何をいただきましょうか?」


ジュンは口をぽかんと開けたまま、その光景を呆然と見つめていた。


「……。」


言葉が出ない。


つい先ほどまで何もなかった草原に、次々と家具や調理器具が並び、一瞬にして快適な住空間が出来上がっていく。


「す、住む気満々だ……。」


思わず漏れた一言に、レオンは苦笑いを浮かべる。


「ジュン殿。」


「もう驚くのは諦めたほうが楽ですぞ。」


ジュンは目の前に広がる光景を見つめたまま、思わず本音を漏らした。


「……ついてきて、本当に良かった。」


その一言に、シオンは優しく微笑み、レオンも静かに頷く。


グラスを手にしたシオンが、ゆっくりと掲げた。


「それでは。」


「新たな仲間と、新たな旅路に。」


「「乾杯!」」


三人のグラスが、心地よい音を立てて重なる。


夕日に染まる湿地帯の向こうでは、巨大な龍たちが悠然と空を舞っていた。


その雄大な景色を眺めながら、三人は笑顔で晩餐のひとときを楽しむのであった。




(第35話へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ