第26話 『レオン、剣を振るう』
ネヴァ。
「キミは、キセキノシカクを持っている。」
シオンは首をかしげた。
「シカク……ですの?」
ネヴァは静かに首を横へ振る。
「まだ話せない。」
シオンは少し考え込み、小さく呟く。
「軌跡の資格……ですの?」
レオンも腕を組みながら考える。
「軌跡の資格……。」
「ここの通行手形のようなものでしょうか?」
「もしそうなら、大迷宮の入口にあった、あの黒い魔晶石では?」
シオンはハッと目を見開いた。
シオン。
「……確かに!」
レオンは思い出したように口を開く。
「『遠回りこそ、最も賢い足取りとなる。』と刻まれていましたな。」
「仕方ありません。あそこまで戻りますか。」
レオンが言い終わるより早く――
シオンは足元に魔法陣を展開した。
「参りますわ。」
景色が一瞬で歪む。
次の瞬間、二人は大迷宮入口を見下ろす小高い岩場へと立っていた。
シオンは岩壁に埋め込まれた黒い結晶へ歩み寄る。
「今なら……反応するはずですわ。」
そっと指先を添える。
すると、結晶は抵抗なく岩壁から外れ、シオンの手のひらへ収まった。
その瞬間――
黒い結晶が眩く輝き、空中へ黄金色の文字が浮かび上がる。
『鬼石の始閣』
レオンは息をのんだ。
「これが……キセキノシカク……。」
その時だった。
大迷宮の入口から、重々しい足音が響く。
ズシン……。
ズシン……。
現れたのは、身の丈五メートルはあろうかという鬼人たち。
人の背丈の二倍はある巨大なサーベルを肩に担ぎ、十数体がゆっくりと二人へ歩み寄ってくる。
レオンは鬼人たちを見て苦笑した。
「これ……完全に、あの観測者とかいうエバだかネヴァだかに試されていませんか?」
シオンは肩をすくめる。
「ネヴァ様ですわ。」
「たぶん試されていますわね。」
レオンは腰の剣に手を添える。
「でしたら、ここは私の出番ですな。」
「先に行かせてください。」
ゆっくりと剣を抜く。
「最近、剣を振る機会がありませんでしたので。」
「少々、腕が鈍っていないか確かめたくて、ウズウズしていたところです。」
シオンは楽しそうに微笑んだ。
「まあ。」
「ほどほどになさってくださいまし。」
「観測者ネヴァ様というより……。」
「これは創造主様のお戯れなのでしょうけれど。」
レオン。
「何か言いました?!」
瞬間――。
レオンの姿が消えた。
最前列の鬼人の顔面へ、一閃。
衝撃で巨体が左右へ大きく揺らぐ。
その勢いのまま、左脇、右脇に並んでいた鬼人を一太刀で斬り抜ける。
さらに踏み込み、横一列に並んだ四体をまとめて両断。
振り抜いた剣をくるりと手首で返すと、返す刃が最後列の三体を一瞬で斬り伏せた。
わずか数秒。
十数体の鬼人は、一斉に崩れ落ちた。
あれれ?私はこんなに強かったか?
レオンは静かに剣を握り直した。
シオンは剣身にそっと指を添える。
レオン。
「何か分かりましたか?」
シオン。
「この世界は、剣を極める世界。」
「その影響でしょう。」
「この剣……私の魔力を少しずつ写し取っていますわ。」
レオンは驚いて剣を見つめた。
「写し取る……?」
「そんなことが?」
シオンは頷く。
「ええ。」
「正確には、コピーしながら成長している最中ですわ。」
「剣そのものが、より強い力を学ぼうとしているのでしょう。」
レオンは思わず笑う。
「まさか剣にも、修行好きな性格があったとは。」
シオンもくすりと笑う。
「創造主様でしたら、そのくらいの遊び心は仕込まれていても不思議ではありませんもの。」
「なるほど……。」
「この剣も、成長しているのですな。」
少し微笑み、シオンを見つめる。
「でしたら。」
「シオン様と旅を続けるなら、この剣と共に私も成長しなければなりません。」
「シオン様ほどとは申しません。」
「ですが、せめて肩を並べて戦えるくらいには、強くなりたいものです。」
シオンは優しく微笑んだ。
「まあ。」
「そのお気持ちだけで十分嬉しいですわ。」
「ですが、無理をなさらなくても構いません。」
シオンは優しく微笑んだ。
「人には人の、剣には剣の歩みがありますもの。」
レオンは剣を見つめ、力強く頷いた。
「この剣と共に、私も成長してみせます。」
二人は再び大迷宮の奥へ進んでいく。
その後も、幾度となく鬼人たちは現れた。
しかし――。
レオンはもう、最初のように驚くことはなかった。
成長を始めた剣と共に、次々と迫る鬼人たちを斬り伏せていく。
進むほどに――。
剣は少しずつ変化していった。
深淵へ近づく頃には、その刀身は淡い虹色の輝きを帯び始めていた。
まるで、この迷宮に満ちる力や、シオンの魔力を記憶しているかのように。
レオンは驚きながらも、確かな手応えを感じていた。
シオンは、それを静かに見守っていた。
そして――。
ついに二人は、大迷宮最深部。
あの観測者の間へと辿り着いた。
黒い霧が集まり、ネヴァが姿を現す。
『鬼石の始閣は、持ってきたか?』
シオンは頷き、黒い結晶を差し出す。
「こちらですわ。」
レオンと共に、鬼石をネヴァへ手渡す。
すると――ネブァの体内に溶け込んでいった。
宇宙転移門が低い音を響かせながら、ゆっくりと起動を始めた。
二人の前に、次なる宇宙への扉が開かれる。
眩い光が消え、シオンとレオンは静かに地へ降り立った。
次の瞬間――。
「……っ!」
レオンの身体が、まるで巨大な岩を背負わされたかのように沈む。
足が重い。
呼吸も、いつもの倍ほどの力を必要としていた。
「これは……!」
レオンは思わず片膝をつく。
(第27話へつづく)




