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第24話 『大迷宮と交差する足跡』

街道を歩き始める二人。


レオン。


「シオン様。」


「これから、どちらへ?」


シオンは小さな光の結晶を取り出す。


創造主の足跡が、淡く一方向を指し示している。


「観測者様のお話では、この世界のどこかに次の足跡へ続く反応があります。」


「まずは、それを探しますわ。」



レオン。


首を傾げる


「当てもなく歩くのですか?」


シオンは微笑む。


「いいえ。」


「創造主様は、ちゃんと道しるべを残してくださいました。」


その時。


結晶の光が、山脈の奥を指した。



レオン。


レオンは遠くを見つめながら口を開いた。


「あちらは……『奈落の大迷宮』です。」


「この世界最大のダンジョンで、昔から誰一人として第二階層へ辿り着いた者はいないと言われています。」


シオンは興味深そうに微笑む。


「まあ……。いかにもありそうですわね。」


その後、二人は歩きながら旅を続け、シオンはこれまで巡ってきた国々や、そこで出会った人々の話をレオンへ語って聞かせた。


しばらく話を聞いたレオンは、小さく息をついて微笑む。


「旅のお話はよく分かりました。」


「……ますます、この宇宙とやらを自分の目で見て回りたくなりました。」


「この剣のみならず、この命すらシオン様に捧げ、お供いたしますぞ!」


レオンは目を輝かせる。


「なるほど……。」


「では、その最深部に宇宙転移門があるということですな?」


シオンは小さく微笑んだ。


「創造主様でしたら。」


「人が簡単に見つけられる場所には置きませんもの。」



レオン。


「参りましょう。」


二人は山脈へ向かって歩き始めた。


丸2日、歩き詰める。


途中の食事は粗末な物だった。


巨大な渓谷。


道はそこで途切れていた。


レオン。


「……これでは渡れません。断崖絶壁ですぞ。」

シオンは谷底を見下ろす。


「いいえ。」


「渡る必要はありませんわ。」


レオン。


「え?」


シオンは周囲10メートルの範囲に反重力魔法を軽く発動する。


「少し失礼しますわ。」


ふわり。


二人の身体が宙へ浮かぶ。


「うわっ!」


レオンが思わず声を上げる。


シオンは優雅なまま、谷底へ降り立った。


激しい川の流れ。


その川岸にも、淡く光る創造主の足跡が続いている。



レオン。


「ここまで……。」



シオン。


「ええ。」


「創造主様は、この川を歩いて渡られたようですわ。」


二人は川を渡り、対岸へ。


そこには巨大な岩壁。


その中央に、口を開ける巨大な洞窟。


レオンは息をのむ。


「……奈落の大迷宮。」


その時だった。


岩壁に残る足跡が――


二つに分かれた。


一つは、迷宮の奥へ。


もう一つは、岩壁沿いに右へと続いている。



レオン。


「分岐しています!」


「どちらへ行けば……。」


シオンは足跡を見つめ、しばらく考え込む。


「妙ですわね。」


「もし宇宙転移門を迷宮の最深部に造られたのなら、創造主様は迷宮へ向かわれたはずですわ。」


「なぜ、もう一つの足跡が?」



レオン。


「迷われたのでしょうか?」


シオンは静かに首を横へ振る。


「いいえ、創造主様が迷う? ありえませんわ。」


「わざとですわ。」



レオン。


「わざと……?」



シオン。


「この二つの足跡。」


「どちらも意味があります。」


「片方は目的地。」


「もう片方は、その目的地へ辿り着くための"鍵"でしょうか?。」


シオンは右へ続く足跡を見つめ、微笑む。


「まずはこちらへ参りましょう。」


「創造主様は、私たちに何かを見せたかったのでしょうから。」


二人が右へ進むと、絶壁の先に小さな岩場があった。


その脇では、断崖絶壁から落ちる巨大な滝が轟音を響かせながら谷底へ流れ落ちている。


岩場は天然の見晴らし台となっており、そこからは奈落の大迷宮全体を一望することができた。


シオンは静かに眼下を見渡す。


谷、川、迷宮、そして創造主の足跡――。


地上では一本の道にしか見えなかった足跡が、上空から俯瞰すると、幾重にも立体的に交差していることに気付く。



シオン。


「なるほど……。」


「観測者様がおっしゃっていた意味が、ようやく分かりましたわ。」


レオン。


「何が見えたのです?」


シオン。


「シオンは足跡を見つめたまま、静かに口を開く。」


「ここから入口へ戻るだけなのに、地球を一周していますもの。」



レオン。


「シオン様。地球とは何でしょう?」


シオンは微笑んだ。


「別の宇宙にある惑星の名前ですわ。」


「実は、これから私たちが旅をする世界も、地面がどこまでも平らに続いているように見えますが、本当は大きな球体なのです。」


レオンは目を丸くする。


「この世界が……丸い?」


「はい。」


「あまりにも大きすぎるので、地上を歩いている者には分からないだけですわ。」


「創造主様は、その全体を空から眺めながら世界を確認しておられたのでしょう。」


シオンが指先を軽く動かすと、足跡の全体図が空中に映し出された。


俯瞰すると、その足跡は入口の前で十字を描くように幾度も交差している。


「歩いている時は一本道。」


「ですが、俯瞰すると何本もの道が交差していますわ。」


「途中から辿れば、どの道が本物か分からなくなります。」


「つまり、この先は『観測する位置』によって足跡の見え方が変わる。」


「おそらく、創造主様が創られた世界を確認するためなのでしょうね。」


そして、その見晴らし台には、創造主が岩に刻んだ一文だけが残っていた。


『旅人よ。』


『遠回りこそ、最も賢い足取りとなる。』


シオンは岩壁に埋め込まれた黒い結晶へ視線を向けた。


人の拳ほどの大きさ。


漆黒でありながら、その奥には星空のような光が揺らめいている。


レオンは首をかしげる。


「ただの魔晶石……ではありませんな。」


「何か刻まれていたようですが、風化して読めません。」



シオンも頷く。


「ええ。」


「埋め込まれていますけれど、反応がありませんわ。」


シオンはしばらく黒い結晶を見つめていたが、やがて小さく微笑んだ。


「今は、まだその時ではありませんのね。」


二人はそのまま通り過ぎた。



シオンは小さく微笑む。


「……創造主様らしいですわ。」


「結局、『飛ばずに歩け』と、おっしゃりたいのでしょう。」


二人は再び分岐まで戻る。


シオンは迷宮の入口を見つめ、静かに告げた。


「では、いよいよ大迷宮ですわ。」



(第25話へつづく)


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