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第23話 『シオン様劇場、開幕』

「……私の剣。」


「これより先は、あなたに捧げよう。」


シオンは優雅に微笑んだ。


「ですが、私は旅の途中に立ち寄っただけですの。」


レオンは静かに剣を納める。


「だからこそです。」


「あなたが向かう先に、私も剣を捧げたい。」


シオンは少しだけ目を細めた。


「……困ったお方ですこと。」


剣聖レオンは、まだ知らなかった。


シオンが旅をしているのは、一つの国でも、一つの世界でもない。


数え切れない宇宙を巡る、果てなき旅であることを。


そう言いながらも、シオンの口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。


――その時。


空が、かすかに震えた。


王都の遥か上空。


誰の目にも映らないほど淡い光が、一瞬だけ輝く。


観測者が示した足跡。


第一の世界を踏破したことに反応するかのように、新たな光が静かに灯る。


シオンは空を見上げ、小さく微笑んだ。


「次へ参りましょう。」


「創造主様。」


「まだまだ追いかけますわ。」


レオン首を傾げる。


「どこまでも、お供いたします。」


二人は新たな光へ向かって歩き始めた。


その旅路の先に、何が待つのか。


それを知る者は、まだ誰もいなかった。



数日後。


天界。


あの巨大なビッグスクリーン。


かつて神々がシオンを二十四時間監視し、

「プライバシーというものをご存じ?」

と、こっぴどく叱られた!

以来、誰も触れようとしなかった真っ黒な、その装置が――


突然。


ザザザザザ……

砂嵐と共に眩い光を放ち始めた。



若手神。


「た、大変です!」

「スクリーンが勝手に起動しました!」



神々。


「なにぃ!?」

「誰だ! また監視など始めた愚か者は!」


若手神は慌てて首を横に振る。


「違います!」

「誰も操作していません!」


その時だった。


映像がゆっくりと映し出される。

そこには。

見たこともない大地。

青、紫、赤、太陽が三つ。

虹のカーテンの様な空。


そして――

無数の魔獣に囲まれた、一人のお嬢様。



神々。


「シオン様だーーー!!」


一柱の神が慌てて叫ぶ。


「すぐに魔界と人間界へ連絡しろ!」

「シオン様劇場が始まったぞ!!」


黒い伝書鳥(八咫烏)が魔界へ飛び立つ。


天使たちは人間界へ駆ける。



魔界。


幹部。



「魔王様!」


「シオン様がーーー!!」



神々。


「次の会議は天界担当だ!」


「高級スイーツと最高級の紅茶を用意しろ!!」



若手神。

「はっ!」



魔界。


幹部。


「魔王様!」

「シオン様の映像です!」


ゼルガル。


「分かった!」

「……少し待て。」


部屋の奥。


鏡の前。


礼服姿のゼルガル。


ネクタイを締め直し、肩のマントを整える。


「左右、どちらが格好良い?」



古参幹部。


「右です。」

「いや、左です。」

「……どちらも似合っております。」


ゼルガル。


「うるさい!」

「シオン様に礼儀を教わったのだ!」

「身だしなみは大切なのだ!」


最後に襟元を整え、満足そうに頷く。


「よし!」

「参るぞ!」



天界。


神々。


「遅い!」

「まだか!」


その時、

三界同盟創設の際に整備された新たな転移門が淡く輝く。


光の中から、礼服姿のゼルガルが堂々と姿を現した。


神々。


「遅刻だ。」



ゼルガル。


「礼服には時間が掛かるのだ。」


続いて、人間界の代表である国王も転移門を抜けて姿を現す。



国王。


「お待たせしました。」


「今回は、シオン様が旅立たれて最初の地ですな。」


三者は自然と同じ席へ腰を下ろした。


若手神がスクリーンの前へ立ち、説明を始める。


「この映像は、おそらく宇宙間観測によって自動受信されているものです。」


「しかし、宇宙と宇宙の間は想像を絶する距離があります。」


「そのため、映像にはかなりのタイムラグが生じています。」



神々。


「つまり?」



若手神。


「今、私たちが見ているシオン様は、少し前のお姿です。」


「現在は、すでに次の場所へ進まれている可能性も十分にあります。」


ゼルガルは腕を組み、小さく笑う。


「相変わらず……我らの一歩も二歩も先を歩いておられるな。」



神々。


「では!」


「シオン様劇場、開幕!!」



ゼルガル。


「ここは何の世界だ?」



国王。


「お茶の準備は?」



神々。


「もちろんです!」

机には紅茶。


ゼルガルは腕を組み、静かに笑った。


「相変わらず、先を行くお方だ。」



国王も苦笑する。


「ではシオン様を拝見するとしましょう。」



神々。


「上映開始だーーー!!」


スクリーンの向こうでは――

第一の宇宙。


シオンが、魔獣の群れへゆっくりと歩み寄っていた。



神々。


「始まった!」

「今回も一撃か!?」


ゼルガルは腕を組み、静かに笑う。

「魔獣ども……運が悪かったな。」


次の瞬間。


パチン。


扇子が静かに開かれる。


轟音。


一瞬で、数百を超える魔獣が消え去った。



神々。


「やっぱり一撃だーーー!!」



国王。


「……相変わらず規格外ですな。」



若手神。


「魔獣反応……ゼロ。」

「周辺一帯、完全制圧です!」



ゼルガル。


「ふっ。」

「これが余らの主だ。」


画面は王都へ切り替わる。


巨大な剣技大会。


神々。


「おっ!」

「次は大会か!」


シオンが会場へ入る。



神々。


「見学ですな。」



国王。


「平和な催しも楽しまれるのでしょう。」


しかし。


次の瞬間。


大会責任者がシオンへ駆け寄る。



神々。


「あっ。」



ゼルガル。


「嫌な予感がする。」



シオン。


「面白そうですわ。」



神々。


「出る気だーーー!!」


国王は額に手を当てる。


「見学では……なかったのですか。」



神々。


「また巻き込まれた!」


画面は試合会場へ。


審判。


「魔法の使用は禁止とします!」



神々。


「意味あるか?」



ゼルガル。


「ない。」



国王。


「……ないでしょうな。」



若手神。


「シオン様、承諾されました!」



神々。


「余裕だーーー!!」


そして。


レオン・ヴァルハルトが姿を現す。



神々。


「おぉ……。」

「強そうだ。」



レオン。


「我が名は――レオン・ヴァルハルト。」



神々。


「頑張れ!」

「剣聖!」

「負けるな!」



ゼルガル。


「応援する相手が違うだろ。」



神々。


「たまには相手も応援したくなる!」



国王。


「健闘を祈ります……。」


しかし。

そう、強そうだったのだが!



シオンがレオンを見つめる。


じーーっ。

数秒。



シオン。


「失礼ですが……。」


「どことなく、ルールルに似ておりますわね。」



天界。


全員の視線が、ゆっくりとゼルガルへ向く。



ゼルガル。


「……だからゼルガルだ。」


その瞬間。



若手神は手元の資料をめくる。


「やはり約一か月のタイムラグがあります!」



一か月前のゼルガル。


「ぶぇっくしょん!!」



神々。


「これかーーーっ!!」


「なるほど!」


「シオン様は、今頃もっと先へ進まれているのか!」


ゼルガルは静かにスクリーンを見つめる。


「どうか……ご無事で。」



(第24話へつづく)

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