第20話 『創造主と世界会議』
数日後。
世界各地へ、一通の招集状が届けられた。
差出人は――シオン・ド・ラ・ローザ。
内容は極めて簡潔だった。
『世界会議を開催します。』
『場所 観測者の間』
『日時は後日、正式に通達しますわ。』
『遅刻厳禁ですわ。』
そして、数日後。
三界の代表者へ正式な開催日時が通達された。
『なお、お茶菓子の持ち込みは歓迎いたします。』
その一文を読んだ瞬間――。
天界
三至高神は玉座から立ち上がった。
「急げ!」
「シオン様を待たせるな!」
「最高級のハーブティーを用意しろ!」
若い神が慌てて尋ねる。
「会議ですよね?」
三至高神。
「会議だ。」
「だが、お茶会でもある。」
若い神。
「結局どっちなんですか!?」
「両方だ!!」
天界は大騒ぎになった。
魔界
魔王ゼルガルは、執務室の闇の中でそれを受け取った。
窓も開いていないはずの空間に、影がすべるように入り込む。
次の瞬間、黒い伝書鳥が音もなく姿を現した。
――八咫烏。
だが、いつもの“伝令”とは明らかに違っていた。
その嘴に咥えられていたのは、ただの紙片ではない。
黒曜石のように硬質な封蝋で閉じられた、魔界評議の「召集符」。
封印の紋章が、薄く脈打つように光を放っている。
「……正式召集か」
ゼルガルは低く呟き、指先でそれを受け取る。
八咫烏は一度だけ首を振ると、音もなく影へ溶けるように消えた。
まるで“届ける役目だけが存在意義”であるかのように。
残された室内に、重い沈黙が落ちる。
「……礼服を持て」
その声は、先ほどよりも遥かに低く、そして重かった。
古参幹部。
「承知しました。」
「それと、魔界銘菓も用意いたします。」
ゼルガル。
「遠足ではない!」
別の古参幹部。
「ですが、お茶菓子歓迎と書いてあります。」
ゼルガル。
「……持って行け。」
古参幹部たち。
「ありがとうございます。」
「今回はルールルと呼ばれても耐えましょう。」
「だからゼルガルだ!!」
魔界にも久しぶりの笑い声が響いた。
人間界
王城。
国王は招集状を静かに読み終える。
「騎士団長。」
「宰相。」
「宮廷魔導師長。」
「出発の準備を。」
騎士団長。
「護衛はどういたします?」
国王は少しだけ笑った。
「不要だ。」
「護衛する相手がシオン様では意味がない。」
全員。
「確かに。」
人間界もまた、歴史的な一日へ向けて動き始めた。
そして数日後。
魔界地下最深部。
観測者の間。
天界。
魔界。
人間界。
三つの勢力の代表が、一つの円卓を囲んでいた。
神々は正装に身を包み、
魔王ゼルガルも漆黒の礼服を纏っている。
国王もまた、王としての正装で席に着いていた。
何千年。
いや、何万年もの歴史の中で。
神と魔王と人間が。
同じ席へ座る日など、一度もなかった。
その中心には。
いつものように優雅な笑みを浮かべるシオンがいた。
紅茶を一口飲み。
静かにカップを置く。
コトッ。
「皆様、お揃いですわね。」
その一言だけで、場の空気が引き締まる。
「それでは。」
「世界会議を始めますわ。」
全員が静かに頭を下げた。
「まず一つ。」
「今後、三界による戦争は禁止ですわ。」
誰一人として異論はない。
国王。
「人間界は誓います。」
ゼルガル。
「魔界もだ。」
三至高神。
「天界も従います。」
シオンは満足そうに頷いた。
「結構ですわ。」
「次に。」
「世界規模の異常が発生した場合。」
「三勢力は情報を共有し、この観測者の間へ集まりなさい。」
「争う前に話し合う。」
「困ったら相談する。」
「それでも解決できなければ。」
全員が息を呑む。
シオンは当然のように言った。
「私を呼びなさい。」
全員。
「結局そうなるんですかーーー!!」
シオンは首を傾げる。
「あら?」
「他に適任の方がおりまして?」
全員。
「いません!!」
観測者ですら、僅かに笑ったように見えた。
その時だった。
観測者は静かに円卓を見渡した。
神。
魔王。
人間。
争い続けてきた者たちが。
今は同じ紅茶を飲み。
同じ未来を語り合っている。
観測者は静かに目を閉じる。
『創造主よ。』
『貴方は予測不能な存在を望まれた。』
『ですが。』
『この光景だけは。』
『貴方ですら、予測できなかったでしょう。』
静かな沈黙が流れる。
シオンはゆっくり立ち上がった。
「本日の議題は以上ですわ。」
「次回からは、より具体的な世界運営について話し合います。」
「その前に。」
シオンは観測者へ視線を向けた。
「少し、お話がありますわね?」
観測者は静かに頷く。
『ああ。』
『シオン。』
『お前だけに伝えなければならないことがある。』
神々も。
悪魔も。
人間たちも。
誰も、その言葉の意味を知らなかった。
ただ一人。
シオンだけが静かに微笑んだ。
「ようやく……ですのね。」
世界会議は無事に幕を閉じた。
だが、それは。
新たな旅の始まりに過ぎなかった。
(第21話へつづく)




