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第18話 『だから素人は困りますの』

魔界地下最深部。


観測者の間。


全員の視線がシオンへ集中していた。


「あらあら」


シオンは巨大な黒い扉を見上げる。


「なるほど」



神々。


「何が分かったんだ!?」


「言って下さい!」


「頼みますから言って下さいませ!」



ゼルガル。


「余はもう胃が痛い!」



騎士団長。


「私は昨日から胃が痛い!が、しかし!」


部下へ振り返った。


「伝令!」

「はっ!」


「王都へ向かえ!」

「国王陛下へ現状を報告せよ!」


若い騎士が焦った表情で答える。


「しかし、ここから王都までは三日……!」



騎士団長は静かに頷く。


「分かっている。」


「そのために、魔界の森から王都まで、偵察隊を各地へ潜ませてある。」



若い騎士の目が見開かれる。


「では……!」


「早馬を乗り継げ。」


「一頭が力尽きる前に次の馬へ。」


「昼夜を問わず走り続けろ!」


「魔界には魔獣は居ても、敵はおらん!」


「一刻でも早く陛下へ届けるのだ!」


「はっ!!」


若い騎士3名は敬礼すると、階段を駆け上がっていった。


神々が感心したように呟く。


「人間も、なかなか抜かりないな。」


騎士団長は静かに答える。


「国を守るのが、我らの務めです。」



その様子を見ていたシオンは、ティーカップを置きながら微笑んだ。


「ご苦労なことですわ。」


「ですが、その方々が王都へ着く頃には──」



全員が一斉に振り向く。


「もう終わっていますわ。」



全員。


「どっちの意味だぁぁぁーーー!!」



シオンは優雅に微笑んだ。


「もちろん、問題の方ですわ。」


シオンは呆れたようにため息をついた。



「ですから」


「騒がしいですわね」



全員。


「騒ぐわ!!」



シオンは扇子で扉を指した。


「原因なら分かりましたわ」



観測者の瞳が細くなる。


『本当か』



シオン。


「ええ」



観測者。


『私ですら三百京年見つけられなかった』



シオン。


「でしょうね」




『……』



神々。


「言ったーー!!」



シオンは悪びれもなく続ける。



「設計ミスですもの」



全員。


「は?」


「設計ミス?」


「宇宙だぞ?」


「そんな馬鹿な話があるか!」



シオンは巨大な扉へ近付く。


そして。


ある一点を指差した。


「ここですわ」



全員。


「どこ?」


「見えん!」


「全く分からん!」



シオン。


「3ミリ」



全員。


「は?」


「3ミリ?」


「何が?」



シオン。


「結界の位相が3ミリずれていますの」




沈黙。




観測者。


『……3ミリ」



シオン。


「ええ」



観測者。


『それだけか』



シオン。


「それだけですわ。結界からすれば、たかが3ミリ。

ですが、宇宙規模ともなれば、その3ミリのズレが、とてつもなく大きな誤差へと広がりますの。

──その結果が、これですの。お分かり?」



神々。


「三百京年だぞ!?」



ゼルガル。


「余の先祖の先祖の先祖の先祖より前だぞ!?」



シオン。


「見れば分かりますわ」



全員。


「分からねぇよ!!」



観測者は初めて動揺していた。


『私は三百京年』


『計算し続けた』


『観測し続けた』


『調査し続けた』



シオン。


「ご苦労様ですわ」



観測者。


『それだけか』



シオン。


「それだけですわ」



神々。


「ひどい」



観測者ですら少し傷付いていた。



だが。


問題はそこではない。



神々。


「直せるのか?」




観測者。


『成功率は〇・〇〇〇〇〇1%』




神々。


「うわああああ!!」


再び発狂。



シオン。


「うるさいですわね」


パチン。


扇子が閉じる。


全員が静かになった。


シオンは扉の前へ立つ。




観測者。


『何をする』



シオン。


「直しますの」



観測者。


『どうやって』




シオン。


「押すだけですわ」




全員。


「は?」


「押す?」


「宇宙を?」


「手で?」




シオン。


「ええ」



全員。


「ええじゃないの!!」




シオンは白く細い手を扉へ添えた。




その瞬間。



ゴォォォォォォ……



空間そのものが震え始めた。



観測者の目が見開かれる。



神々が悲鳴を上げる。



ゼルガルが後ろへ飛び退く。



騎士団長が祈り始める。

(誰にだよ)



シオン。


「んー……」


ぐっ。



まるで重たい家具を少し動かすような気軽さで。



押した。


ゴ ゴ ゴ!!!


宇宙が悲鳴を上げる。


巨大な扉が僅かに動いた。



観測者。


『動いた』




神々。


「動いたァァァ!!」


神々が一斉に叫ぶ。


巨大な黒い扉が、ほんのわずかに震えた。



シオンは扇子を閉じたまま、小さく頷く。


「やっぱり」


「3ミリですわね」



全員。


「分かるの!?」



シオンは呆れたように肩をすくめる。


「結界の歪みから逆算すれば、この程度押し戻せば丁度3ミリ」


「つまり、プラスマイナスゼロですわ」



神々。


「逆算って何だァァァ!!」



ゼルガル。


「余には1ミリも分からん!!」



シオンは扉へ両手を添える。


「では」


「戻しますわ」


そして。


もう一度。


ぐっ。




ピタッ。




その瞬間。



全ての振動が止まった。


静寂。


あまりにも突然の静寂。




観測者。


『接触反応』


『消失』



神々。


「え?」




『崩壊確率』



『〇%』




全員。


「え?」



『宇宙安定化』



『完了』



沈黙。



誰も理解できなかった。




シオンはドレスについた見えない埃を払う。


パパッ。


「終わりましたわ」




全員。


「終わったァァァァァ!?」



観測者だけが。


静かにシオンを見つめていた。


『やはり』


『お前だったか』



シオン。


「?」




観測者。


『ようやく会えた』




その言葉に。


初めてシオンの表情が変わった。


「……あなた」


「まさか」


-


三百京年待ち続けた存在。


そして。


シオンですら忘れていた記憶。



物語はついに。


宇宙最古の秘密へと辿り着こうとしていた。



(第19話へつづく)

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