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第17話 『宇宙崩壊まで残り七十二時間』


魔界地下最深部。


観測者の間。


そこには神々、悪魔、人間たちが勢揃いしていた。



そして。


空間に浮かぶ古代映像を見て。


全員が固まっていた。


騎士団長が一歩踏み出そうとした、その瞬間。


ピタッ。

見えない壁に阻まれた。


「なっ!?」



若い騎士たちも次々と弾き返される。



神々。


「当然だ」

「ここは観測者の間」

「神々ですら許可なく入れぬ」

騎士団長は剣を納め、静かに頭を下げた。


「……失礼した」


その時。


観測者がゆっくり口を開く。

『承認』


ゴォォォ……


透明な結界が音もなく消える。


『人間代表』

『入室を許可する』


騎士団長。


「……よろしいのですか?」


『これより先は』

『世界そのものの問題だ』

『神も』

『悪魔も』

『人間も』

『等しく当事者である』



そして観測者が続けて口を開く。



『特異点封印計画』


『最終段階へ移行』


映像の中の少女は静かに告げる。


『封印失敗時』


『宇宙初期化プロトコルを実行』



全員。


「……え?」


騎士団長が恐る恐る口を開く。


「宇宙初期化……とは?」



観測者は淡々と答えた。


『全てが消える』



全員。


「軽っ!!」


『宇宙』


『生命』


『時間』


『歴史』


『全て』



全員。


「重かったァァァ!!」


さらに映像は続く。


『接触まで』


『残り七十二時間』


『境界は、すでに接触を開始している』


『接触が完了した瞬間』


『二つの宇宙は融合を始め』


『双方とも崩壊する』



神々。


「ま、待て!」


「片方じゃないのか!?」



観測者。


『両方だ』


『ただし』


『どちらか一方が接触を回避できれば』


『双方とも存続する』



『観測上の成功確率』


『〇・〇〇〇〇〇1%』



全員。


「低っ!!」


地下迷宮は一瞬で大混乱に陥った。



神々。


「どうする!?」


「何か方法は!?」


「ない!!」


「終わったァァァ!!」



悪魔たち。


「創業者様を呼べぇぇぇ!!」



騎士団。


「いや、もう来てるだろ!?」


ゼルガルの顔色も真っ青だった。


「よ、余はまだ若いぞ!?」



古参幹部。


「魔族基準では若造ですな」




「今それ言う!?」



ゼルガルは半ばやけくそで叫んだ。


「どうせ世界が終わるなら最後だ!!」


「晩餐だ!!」


「三日三晩、飲み明かすのだァァーー!!」



古参幹部たち。


「魔王様、まだ七十二時間あります」


「三日三晩ぴったりですな」


「計算だけは完璧だ……」




「うるさーーーい!!」



その様子を。


シオンは少し離れた場所で静かに眺めていた。


そして小さくため息をつく。


「騒がしい方々ですこと」



地下迷宮が大混乱に陥る中。


シオンは静かに右手を上げた。


「少々」


全員。


「はいっ!!」


「椅子がありませんわ」


全員。


「…………え?」



「優雅なお茶会に立ったままなど論外です」


「まずは椅子」


「テーブル」


「紅茶」


「焼き菓子」


「季節の果物もお願いしますわ」



神々。


「い、今ですか!?」


「宇宙が終わるんですよ!?」



シオンは涼しい顔で微笑んだ。


「だからですわ」


「落ち着いて考えるには、まず環境を整えることが大切ですの」



三至高神。


「急げぇぇぇーー!!」


「最高級の椅子を運べ!」


「いや、王座を持って来い!」


「違う! お茶会用だ!」


若い神々は泣きながら地下を駆け回る。


悪魔たちも慌てて豪華な丸テーブルを運び込み、


騎士たちは何故かテーブルクロスを丁寧に敷き始めた。


数分後。


地下迷宮のど真ん中に。


場違いなほど豪華なお茶会セットが完成した。


シオンは優雅に腰掛ける。


「まぁ」


「最初からこうしてくだされば宜しかったのに」



シオンが紅茶を飲みながら、

「ようやくですの?」



観測者。


『何がだ』



シオン。


「お茶会は人数が多いほど楽しいですもの」



神々。


「お茶会じゃなーーい!!」



ゼルガル。


「余の玉座より豪華ではないか……」



古参幹部。


「創業者様ですから」



神々。


「納得するなーー!!」



神々。


「騒ぐだろ!!」


「宇宙が終わるんだぞ!!」



シオン。


「そうですの?」



全員。


「『そうですの?』じゃない!!」



観測者は静かにシオンを見つめた。



『シオン』


「はい」


『久しいな』



シオンは優雅に首を傾げる。



「申し訳ありませんが」


「どちら様ですの?」



全員。


「言ったァァァーー!!」



観測者ですら一瞬沈黙した。



『……そうか』


『覚えていないか』



「ええ」



『それも仕方ない』


観測者は静かに最深部を見つめる。


その視線の先には。


巨大な黒い扉。



ゴゴゴゴゴ……



宇宙そのものが軋むような低い振動。


『あの扉の向こう』


『もう一つの宇宙が存在する』



騎士団長。


「つまり……」


『今回の異常の原因は』


『その向こう側だ』



静寂が流れる。


その中で。


シオンだけがゆっくりと歩き始めた。



コツ。


コツ。


コツ。



ヒールの音だけが地下空間に響く。



神々。


「おい……」


「何をする気だ?」



シオンは巨大な黒い扉の前で立ち止まる。


何も言わず。


じっと見つめる。



観測者。


『何を見ている』



シオン。


「原因ですわ」



全員。


「分かるの!?」


シオンは扉へ白く細い指先を伸ばした。



コン。



軽く叩く。



コン。



もう一度。



コン。



三度目。



そして。


シオンは不思議そうに首を傾げた。



「あら?」



その一言だけで。


観測者の瞳が初めて揺れた。



『……まさか』



シオンは扇子をパチンと閉じる。



「なるほど」



「そういうことでしたのね」



宇宙崩壊まで。


残り七十二時間。


誰もが絶望する中。


ただ一人だけ。


シオン様だけが、その原因を見抜いていた。



(第18話へつづく)

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