第16話 『聖騎士団と神々の地下遺跡』
シオン・ド・ラ・ローザが王都から姿を消して数日。
王都では、ある噂が急速に広まっていた。
「ローザ家のお嬢様が魔人に攫われたらしい」
「森で悪魔達と一緒にいるところを目撃されたそうだ」
「やはり魔界の陰謀か!」
噂は尾ひれが付き、ついには王城にまで届いていた。
王城・謁見の間。
聖騎士団長は国王の前で膝をつく。
「陛下」
「ローザ伯爵家のご令嬢、シオン・ド・ラ・ローザ様の捜索許可を」
国王は重々しく頷いた。
「許可する」
「必ず無事に連れ戻せ」
こうして。
聖騎士団百名による大規模捜索隊が結成された。
数日後。
魔界との国境付近。
「お嬢様を救出するぞ!」
「おおおおお!!」
騎士達の士気は高かった。
だが。
魔界へ入って数日後。
全員が困惑していた。
「団長」
「何だ」
「この看板なのですが」
【残業禁止】
【有給取得率向上月間】
【部下への暴言禁止】
「……」
「団長」
「何だ」
「こちらには」
【ホワイトな職場作りにご協力ください】
「……」
「本当に魔界か?」
誰も答えられなかった。
やがて。
一行は魔王城へ到着する。
巨大な城門。
その前には門番が立っていた。
「止まれ!」
騎士達が武器を構える。
だが。
門番は動かない。
「団長」
「何だ」
「石像です」
「……」
「魔王城の門番が石像だと?」
嫌な予感しかしなかった。
城内へ突入する。
誰もいない。
広間も。
廊下も。
訓練場も。
誰一人いない。
「罠か!?」
「団長!」
「何だ!」
「誰もいません!」
「それが怖いんだ!!」
そして。
玉座の間へ辿り着く。
そこには。
黄金像。
巨大過ぎて、シオンである事に誰も気が付かない。
そして、その裏側に崩れた壁。
怪しい。
さらに。
地下へ続く巨大な階段。
「地下だと……?」
騎士達は顔を見合わせる。
「行くぞ」
誰も反対しなかった。
数時間後。
地下へ続く石階段を降り続けていた騎士達は、途中の広間で信じられない光景を目にした。
「なっ……!?」
そこには。
豪華な神衣をまとった神々がいた。
「神々……だと!?」
騎士達が騒然となる。
神々も一瞬こちらを振り返った。
「人間!?」
「なぜここにいる!?」
「それはこちらの台詞です!」
騎士団長が叫ぶ。
「ここは魔界ではないのですか!?」
神々は顔を見合わせた。
そして。
一人の若い神が青ざめた顔で言う。
「そんなことはどうでもいい!」
「下へ降りれば分かる!」
「とにかく今は近付くな!」
そう言うなり。
若い神々は半泣きになりながら階段を駆け上がっていった。
「お、おい!」
「説明しろ!」
しかし神々は止まらない。
「無理無理無理!」
「もう我々の手には負えない!」
「三至高神様ーーー! 後はお願いしますーーー!」
あっという間に姿が見えなくなった。
騎士達は顔を見合わせる。
「団長……」
「嫌な予感しかしません」
「奇遇だな」
「私もだ」
そして。
騎士達は地下最深部へ到達した。
そこで見た光景に。
全員が固まった。
「な……」
「何だあれは……」
悪魔達がいる。
魔王がいる。
そして。
神々がいた。
「神々ァァァ!?」
聖騎士団全員の絶叫が遺跡に響き渡った。
神々も振り返る。
「人間!?」
「なぜ来た!?」
承認を受けていない聖騎士団、見えないベールで先には進めなかった。
「むしろ何故いるのですか!?」
「それは説明が難しい!」
「こちらもです!」
会話にならなかった。
その時。
騎士団長の視線が止まる。
そこにいたのは。
銀髪の少女。
シオン・ド・ラ・ローザ。
「シオン様!」
騎士団長は叫んだ。
「ご無事ですか!」
「助けに参りました!」
シオンは首を傾げる。
「誰をですの?」
「え?」
「私は普通に来ましたわ」
「え?」
「攫われてもおりませんし」
「え?」
神々。
「え?」
ゼルガル。
「え?」
全員。
「え?」
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
巨大な結晶が振動する。
空気が変わる。
全員の顔から血の気が引いた。
そして。
闇の奥から。
あの声が再び響いた。
『また増えた』
全員。
「しゃべったァァァァァ!!」
神々は泣いた。
悪魔達は悲鳴を上げた。
騎士達はベールの向こうで腰を抜かした。
だが。
シオンだけが動かなかった。
なぜか。
その声を聞くたびに。
胸の奥がざわつく。
懐かしい。
切ない。
そして。
どこか腹立たしい。
『ようやく近付いてきた』
『観測対象シオン』
シオンの扇子が止まる。
『待っていた』
『約三百京年ほど』
遺跡が静まり返った。
騎士団長。
「……団長職を辞めてもいいだろうか」
若い騎士。
「団長、気持ちは分かります」
神々。
「三百京年って何?」
ゼルガル。
「余が聞きたい」
シオンだけが。
黙ったまま闇の奥を見つめていた。
その声を。
どこかで聞いた気がしたからだった。
(第17話へつづく)




