第15話 『特異点の残響』
「知りませんわ」
それが、手紙を読み終えたシオンの第一声だった。
「はい?」
黒い伝書鳥(八咫烏)が首を傾げる。
「ですから知りませんの」
「そんな遺跡も」
「そんな声も」
シオンは紅茶を一口飲んだ。
「魔界は昔、私が徹底的に改革しましたけれど」
「地下にそんな施設を造った覚えはありませんわ」
伝書鳥(八咫烏)が固まる。
「創業者様でも……?」
「ええ」
シオンは珍しく真顔だった。
「ですので」
「少々気になりますわね」
数時間後 魔界
「創業者様がお戻りになられたぞ!」
「第二次魔界改革だァァ!」
「有給取得率を隠せーー!」
「逃げても無駄ですわよ?」
悪魔達が一斉に震え上がった。
魔王ゼルガルは頭を抱える。
「毎回思うのだが……」
「何故みんな余より創業者様を恐れるのだ……」
古参幹部達。
「若いな」
「若い」
「まだ人生経験が足りぬ」
「魔族だぞ!?」
「だからだ」
ゼルガルは泣きたくなった。
遺跡入口
創業者像の裏側。
崩壊した壁の奥。
巨大な石階段が地下へ続いている。
シオンは一歩踏み出した。
その瞬間。
ビーーーーッ!!
突然、天井付近に巨大な魔法陣が展開した。
「なっ!?」
空間が裂ける。
そして。
ドゴォォォォン!!
神々の軍勢がまとめて落下してきた。
「ぎゃああああ!!」
「腰がァァァ!!」
「誰だ転送座標を設定したのは!!
三至高神。
「私だ」
全員。
「お前かーーー!!」
シオン。
「何をしに来ましたの?」
神々。
「護衛です!」
シオン。
「邪魔ですわ」
神々。
「ですよね〜!」
即答だった。
だが若手神が震えながら報告する。
「シオン様!」
「この空間……おかしいです!」
「アカシックレコードに存在しません!」
全員。
「は?」
「記録が……無い?」
「そんな場所があるのか?」
若手神。
「ありません!」
「だからおかしいんです!!」
シオンの眉が僅かに動く。
それはつまり。
神々すら知らない場所。
アカシックレコードすら把握していない空間。
最深部
数時間後。
一行は巨大な門の前へ到達した。
高さ数十メートル。
黒金色の金属。
誰も見たことのない材質。
誰も読めない文字。
「古代魔族文字ではない」
「神代文字でもない」
「何だこれは……」
その時。
シオンだけが目を細めた。
「あら?」
全員。
「読めるのですか!?」
「ええ」
シオン。
『観測施設・第零管理区画』
『特異点監視保管庫』
その瞬間。
ゴォォォォォ……
巨大な門が振動した。
青白い光が走る。
そして。
機械的な声が響いた。(若い男性の声)
【個体認証開始】
全員が凍り付く。
【観測者コード確認】
【シオン】
シオン。
「は?」
【認証成功】
【観測者シオン】
【最終アクセスより九十九万九千九百九十九年経過】
シオン。
「は?」
神々。
「は?」
ルールル、いや ゼルガル。
「は?」
【第二認証】
【ゼルガル】
ゼルガル。
「は?」
【認証成功】
ゼルガル。
「は?」
【第三認証】
【魔界代理管理者】
神々。
「は?」
【認証成功】
神々。
「はぁぁぁぁ!?」
全員がパニックになった。
誰も知らない。
誰も覚えていない。
なのに認証された。
開門
ガゴォォォォォォォン!!
巨大な門が開く。
中には広大な空間。
中央に浮かぶ巨大な結晶。
そして。
無数の映像記録装置。
そのうちの一つが勝手に起動した。
ザザッ……
ザザザッ……
古い映像が映し出される。
最初は後ろ姿だった。
一人の少女。
銀色の長髪。
フリル付きのドレス。
見覚えがありすぎる。
シオン。
「……」
映像の少女が口を開く。
『観測記録を開始します』
シオンと全く同じ声だった。
ゼルガル。
「創業者様……」
「違いますわ」
神々。
「でも同じ顔です」
「違いますわ!」
映像は続く。
『特異点封印計画』
『最終段階へ移行』
全員。
「特異点?」
『封印失敗時』
『宇宙初期化プロトコルを実行』
全員。
「え?」
『成功確率』
『〇・〇〇〇〇〇…1%』
全員。
「低っ!!」
映像の少女がゆっくり振り返る。
そこには。
今のシオンと寸分違わぬ顔。
だが。
その瞳だけが違った。
まるで星空そのものを閉じ込めたような、
果てしなく古い瞳。
少女は静かに告げる。
『もしこの記録を見ているなら』
『封印は失敗した』
『そして"あれ"は目覚め始めている』
空間が静まり返る。
次の瞬間。
遺跡全体を揺るがす轟音が響いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
結晶の奥。
誰もいないはずの暗闇から。
二つの巨大な光る瞳が、
ゆっくりと開いた。
『ようやく……』
『見つけた』
シオンの笑顔が完全に消える。
「……これは」
生まれて初めて。
シオン・ド・ラ・ローザが、
本気で嫌な予感を覚えた瞬間だった。
(第16話へつづく)




