第10話:元を断つのが先決ですわ ──そして伝説の「フフッ」
「──【概念崩壊】! ……あら?」
世界ツアーの最初の遠征先、西の魔導帝国。
シオン様が放った消滅魔法が直撃し、魔獣の身体の半分が消し飛んだ──はずだった。
しかし、次の瞬間──驚くべきことが起きましたわ。
魔獣の傷口からドス黒いプログラムコードがバチバチと噴き出し、一瞬で肉体が再生したばかりか、その巨体がさらに一回り大きく、禍々しく膨れ上がったのです。
「グオォォォォン!!!」
「シ、シオン様のチート魔法を喰らって、さらに強くなっていくだと……!?」
下っ端の神々が悲鳴を上げます。
──チッ、これだからバグった世界は面倒ですわ。
宇宙を席巻していた頃の完全な肉体とは違い、天界のシステムエラーによる強制送還の負荷のせいで、かよわい乙女の形をした今の私では、かつての100分の1ほどの出力しか出せなかったのですわね。
荷物持ちをさせられていた三至高神たちが、腰を抜かしてガタガタと震え出す。
シオン様は美しい眉をひそめ、お気に入りの扇子をパチンと閉じた。
【全知の賢者コード】を持つ彼女の瞳には、世界の裏側のデータがすべて見えている。
「……なるほど。そういうことですのね」
シオン様の冷たい視線が、地上ではなく「天界の空」へと向けられた。
「神々様。あなた方、まさか地上に現れた魔獣を消すことばかりに気を取られて、大元のアカシックレコードに刺さった『流星の欠片』の修正を、まだやっておられませんわね?」
「えっ!? い、いや、それは……あの、アカシックレコードの深淵は我々では恐れ多くて触れないというか、プログラムが難解すぎて無理でして……!」
「ハァ……(本日一番深い溜息)。地上のハエをどれだけ叩いたところで、本サーバーのバグから無限にアップデートデータが送られてきているのですわよ? 本当に、学習能力というものがないのですのね」
シオン様は完全に呆れ果てると、ヘタレ神たちの襟元をガシッとまとめて掴み上げた。
「こうしてはいられませんわ。元を断つのが先決です。天界へ戻りますわよ!」
「ひえっ!? 瞬間移動──ぶへぇぁっ!?」
シオン様が指先を鳴らした瞬間、帝国の大地から天界の最深部『サーバー室』へと、空間が力技でへし折られた。
ドォォォォン!!!
「ただいま戻りましたわ、お留守番の無能な方々」
天界のコントロールセンターの扉が蹴り破られ、シオン様が優雅に(しかし凄まじい威圧感と共に)降臨した。
画面の前でなぁなぁと震えていた若手神たちが、「シ、シオン様ァァ!?」と悲鳴を上げる。
シオン様は神々をゴミのように放り出すと、世界の根幹システム『アカシックレコード』のメインモニターへと大股で歩み寄り、そのハッキング画面を凝視した。
「さて、どこに不純物が挟まって──……あら?」
流星の欠片がどこにバグを引き起こしているのか、超高速でコードを解析していたシオン様の動きが、ピタッと止まった。
画面には、流星の欠片が混入したことで、システムエラーを起こしたアカシックレコードの『最終権限コード』が、これでもかと真っ赤に点滅している。
そこから、シオン様はすべてを理解した。
──そして。
「……フフッ」
静まり返るサーバー室に、シオン様の低い笑い声が響く。
「フフフ……オホホホ!」
ドレスの胸元を押さえ、お腹を抱えるようにして、シオン様は見たこともないほど高らかに、豪快に笑い始めた。
「オッホッホッホ! まぁ! なんて傑作ですの!! 神々様、今すぐそこへ直れ(跪け)ですわ!」
「ひ、ひえぇぇっ!? シオン様が突然、高笑いし出したぞ!」「壊れちゃった!? 恐怖で壊れちゃったの!?」
神々が涙目で震え上がる中、シオン様は涙を拭いながら、勝ち誇った笑みでアカシックレコードの画面をバンバンと叩いた。
「わかってしまいましたわ! この流星の欠片が引き起こしたバグのせいで、天界の全権限、およびアカシックレコードの【システム管理者権限】が、完全に私の魂へと一極集中して(ロックされて)しまっていますわ!!」
「な……何だってぇぇぇーーー!?」
「つまり! この世界のシステムは今、私にしか触れられませんし、私が『消えなさい』と思えば、あの魔獣どころか、あなた方神々の存在データ(命)すら、私が指先一つで一瞬にして完全消去できるということですのよ! オッホッホ! まさか自分たちで持ち出した私のチート能力のせいで、天界の全主権を私に明け渡すことになるとは、因果応報が過ぎますわ!」
「天界、完全終了ーーーーー!!!」
神々は一斉に白目を剥き、今度こそ泡を吹いて床に大爆死した。
なぁなぁで過ごしていた神々の立場は、これにて完全に「絶滅寸前の奴隷」へと転落。
世界の全権限を合法的にぶんどったシオン様の、真の「天界絶対掌握無双」が、ここから高笑いと共に幕を開けるのでした!
「……かと言って、特定のバグだけを狙い撃ちにして消去するような、そんな面倒で複雑なプログラムは組みませんわ!」
私はフンと鼻を鳴らし、優雅に扇子で顔を仰ぎました。
「──まぁ、逆に『天界』や『魔界』を世界システムごと丸ごと消滅させて、最初から作り直す(リブートする)のなら、私の力(物理パンチ)で一瞬なんですけれどね?」
サラリと言い放たれたその恐ろしすぎる一言に、その場にいた全員の顔から、一瞬で血の気が引いていくのでした。
(第11話へつづく)




