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第8話 〈あるメイド視点〉イングランディーレ家の歪み

 私はある屋敷でメイド長をしている者です。本日はお嬢さまが嫁入りするイングランディーレ家に付き添いとしてお邪魔しております。メイド長が屋敷にいなくていいのかですか…問題ありません!メイド長といっても一番年上なだけです。みんな自分の仕事はしっかりやってくれます。


 イングランディーレ男爵家は新興貴族でありながら、当主のセブン様が元勇者パーティーであり、その戦力は一国に相当するといわれるほどの家でもあります。


 なぜそんな家と私が仕える家が婚姻関係になるのかというと、勇者パーティー時代の付き合いにあると言われています。しかも次期男爵家の当主に成られるであろう方との婚約ということでかなり主人たちは意気込んでるみたいです。


 そんなことを気にするそぶりもないお嬢さまは伯爵家での仕事を引き上げ、意気揚々ととしています。礼儀の方は大丈夫でしょうか。10歳となる年ですが、末の娘ということでかなり甘やかされ育った方であり、世の中を割と舐めている気質がありました。伯爵家で働いたことでだいぶ大人になられたようでしたが、今までの姿ではいささか不安です。


 見違えました。これほど素晴らしい方に育っていたとは…迎えてくださるイングランディーレ家の皆々様もたいへん優雅であらせられます。たしか奥様は元公爵令嬢であられた方と聞いております。そんな方が今の身分に納得されていないのでは、この婚約に反対なのでは?と思っておりましたが杞憂に終わりそうです。


 婚約相手であられるバートラム・イングランディーレ様もたいへん素晴らしき方でございました。エスコートの仕方もさることながら、品があり優しい目でお話されており、この婚約に前向きな姿を見せてくださっておられます。どうかこの姿がこの先も続いてくださることを願うばかりです。


 あぁ!お嬢さまが庭に魅入られてしまいました!!あれほどあからさまな姿をさらしてはならないと注意しましたのに…庭師の方と話し込んでおられます。バートラム様は優しく見守ってくれているけれど、マズイのでは…


 ん?あちらの方はどなたでしょうか。影に隠れてしまいましたが質のいい服を着ていたのは間違いありません。男の子…次男のジーン様ではありませんでした。…いや分かりません、見間違いの可能性もありますからね。気を引き締めましょう。ハイ!お茶会ですね、着替えましょう!さぁさぁさぁ!


 お茶会は無難に済みました。奥様も妹君も聡明で美しくもはや男爵レベルに収まらない輝きを感じたほどです。え?お手洗いですか、あぁそんなに食べすぎるから…調子に乗るものではございませんよ


 屋敷の中を迷っていたら先ほど見た感じの子と遭遇しました。どちらの方なのでしょうか、服が伸び来てしまいダラッとした着崩した姿、平民の格好であれば悪くないかもしれませんが、フォーマルなアイテムではちぐはぐさが目立ってしまいます。


 庭師の弟子の方と決めつけてしまっています。大丈夫でしょうか。


「平気平気…柑橘系の匂いもしました。この屋敷に確実に温室がありますわ、隠しておられるようですのでこれ以上追求しないように気を付けなければ…」


 そういう意味ではありません!…が気にしすぎてはいけません。お茶会が終わり、客室に戻り夕食まで休憩時間をいただけました。一息付けました。振り返って問題はありましたが何とかなりそうですし、この家にも受け入れてもらえそうですね…


 そして夕食の時間となり食堂に向かうとなんと先ほどの男の子がいるではありませんか。


 マイク・イングランディーレ様…イングランディーレ男爵家の三男でいらっしゃる方、そんな情報はなかったはず…


 見たところ家族仲がよくなさそうなのでしょうか。挨拶をしましたが存在を忘れそうになるほど希薄です。お嬢さまも視界にいるはずなのに何度か驚いてしまっているみたいです。会話に全く入ってきませんし、誰も話題を振りません。お嬢さまが気を遣おうとした瞬間に奥方様か妹君が割って入っているように感じられます。


 なんなのでしょうか、この家族は…マイク様以外の家族として出来上がり誰もが視界に入れない。それどころかマイク様までそれを受け入れているような歪な環境…


 しばらくして席をお外しになられました。メイドの仕事としては失格ですが、あの方を追ってみなければと思い、まずはお付きのメイドの方を捕まえて話を聞こうと思いましたが…もういない!?


 慌てて廊下に出ても影も形も見えない幽霊みたいな存在…


 怖い、なんなのでしょうかこの家は…これは報告しなければならないことだ…しかし関わることに恐怖を感じてしまう。何とか回避する方法はないでしょうか。


 一時的な方法しか思いつきません。後々面倒になることしか…


 仕方ありませんが、お嬢さんに相談したのち、旦那様に報告しましょう。


 お嬢さまとともにお部屋に戻り、この家の現状についての話し合いをしました。防音をしっかりしたうえでマイク様という存在に関わるのかどうかを


「現状では空気を読んで合わせるしかありません。コンタクトを取れればそれに越したことはありませんが、このまま不安を持ったままではバートラム様との仲まで壊れかねません。

 なぜ本日のご夕飯に出席されたかはわかりませんが、私に隠すことではないというのは確かなのでしょう!ですので最低限接触できるのかどうかを確かめる必要があります」


「では私は情報収集をしてみたいと思います。マイク様のお付きの方の顔は覚えていますので、見かけたら声をかけてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、よろしくお願いするわ。何とか明日帰るまでに何か成果を持ち帰りましょう、この先の安泰のために…!」

「はい、承知しました!」




 その後洗い場やメイド控室などでマイク様の噂を聞いた。


 両親に愛されない子、兄たちの視界にすら入っていない不気味な子、存在を隠されてる謎の子


 この屋敷でも不可思議な存在らしく、現れるのは午前中に庭園か午後に王都訓練場、不定期に厨房や厩などで見かけられてはいるらしい。そこにいる人間と会話をしているのは見たことがあるのだが、全員口をそろえて内緒と答えるらしい。この屋敷の主人に聞ける訳もなく、ここまでになった。




 翌日、現れるであろう庭園には庭師しかおらず、視野を広くまっていたが現れじまいだった。


 バートラム様にお嬢さまが伺ったところ、機嫌を悪くするだけで答えてももらえなかった。

 奥様も妹君も同様だった。なんなら妹君も理由を知りたそうにしていた。



 なぜこれほどまでに邪険にされているのか?最近のことで考えるなら、適性検査でしょうか…

 それがよくない結果に終わったとか?

 う~~~ん、考えてもわからない問題ですね…


 お嬢さまは一縷の希望としてマイク様との面談を申し出た。これに奥様はかなり動揺した。しかし、色々と覚悟を決めたのか見送りに連れてくると言をもらえた。


 時間制限付きにはなったがチャンスはもらえた。がんばれ!お嬢さま!!

 なんとかこの得体のしれない存在について解き明かしてください!


 マイク様は奥様に連れられる形でエントランスに出てこられた。

 お嬢さまは回りくどくも直接的な懸念を口にした。が答えはあたりさわりない答えに感じられ、何かとんでもない壁を感じられた。


 ここまでのようだ…


 大きな不安になりえないだろう。そう思うしかできない。そう願うしかない。

 人はあの環境で育つと距離感をあれほど遠くから始めるのだろうか。全くもって歩み寄りというものを感じなかった。


 今後、彼の存在は気にしていかなければならないだろう。

 お嬢さまが嫁ぐとき、どのように育っているか、色々と想定して対応する必要がありそうだ。


 お嬢さんが幸せに暮らせるように祈るばかりです。

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