第53話 子爵家のイジ
〈パーマー子爵当主アーノルド視点〉
パーマー家は王国北西側に領地を持つ貴族家であり、長年王国に仕える貴族家で魔王領に対する防波堤への食糧支援や資源確保の縁の下の力持ちのポジションをとっていた。
近年の魔王討伐を上げた勇者パーティーとの付き合いもあり、魔物の大軍勢が起きた際は勇者パーティーの援助もかり撃退することで評価されるほどの領地になった。そうして王国からは魔王討伐の支援協力に感謝され、パーマー家は将来的な陞爵の打診を受けていた…
だが話は変わった…勇者パーティーは褒美として貴の爵位をたまわった。魔導士セブンはイングランディーレ男爵という爵位を授かり、王国の方針をかき回し始めた。まず公爵令嬢との結婚による権力と人脈を手に入れ、王国魔法師団名誉顧問職への就任、将来的にユニヴァース公爵の地位を与えられるようになるという王家の方針が示された。
そもそもユニヴァース公爵の起こりは現王の弟のための爵位であったが領地はなく公務もそれほどないお飾りのようなものであったはずだった。そのうえで残念公爵令嬢の長年のやらかしがあり、周囲からは血筋だけの貴族というイメージがあった。だがセブン・イングランディーレとの繋がりができたことで王国への功績がプラスされ、男爵という爵位に対して安易に無視できない存在となってしまった。そうして将来的に公爵位という権威が示され、領地までもが与えられる流れになった。
ふざけた決定に憤慨したがこれに賛同したものがいた…隣領のビートブラック家である。よくもそんな恥知らずな真似ができるものだとバカにしていたが、北西の防波堤として名高い辺境伯ブルースカイ家が手を挙げ、目の前が真っ暗になった。王家との繋がりを強くしたい意味があったのだろうが将来的に子供を婚約させることを魔法契約で取り決めてしまったのだ。そうなると我が家を始め隣領の貴族は慌て始める。自領に対してその強権が及ばないように画策する貴族が増え、運悪く我が家は王家の目に止まってしまう。それでも決定ではないとその当時は思っていた。家格もあり、仮にユニヴァース家を引き継ぐことになろうと簡単に自領がとられることはないだろうと……
だが現実は甘くはなかった…
ビートブラック家との婚約が決まると次々と魔法協会を通して新しい論文を発表していく。それに伴い新しい魔法陣や魔道具の開発、魔力残滓の回収・循環の画期的方法の発見などの功績をあげ、年を明けて子爵に陞爵してしまった。なぜこれほどの人間が平民に生まれ、こちらの世界を乱してくるのか…
そして王の拝謁に同時に呼ばれた理由も悟った…
一気の陞爵は他家に良く思われないため、段階をおいて功績とともに陞爵される。その際に同じ爵位の婚約者を家格が合うように見繕ってゆく。都合のいいそんざいであったパーマー家は王命に従わざるえない状況に陥ったのであった。
なぜこのような屈辱を受けねばならないのか…たしかに我らの手だけでかつての事件を乗り越えることは難しかったかもしれない…だが限度というものがあるだろう…これまで王国に仕えていたというのにこの仕打ち、感情の処理が追い付かない…そうしてこの天才は我らの故郷も何もかも奪っていくのだ…
諦めよう…
何も持ちえなかった私が悪いのだ…この世界は所詮強者だけに優しい世界なのだ…弱者は常に理不尽に屈し続けるのだ…
嫁と娘は大興奮だった…
当然だ…!!
彼女らは勇者パーティーの大・大・大ファンなのだ…
領都の屋敷に戻ると大興奮で侍従やメイドも含め大絶叫だった。くそっ!親父も死ぬほど喜んでやがる…!!全員が助けられたことがあるってどんな偶然だよ!
この話を聞いたとき絶対に自領の誰にも伝わらないようにしたはずなのに、どこからか情報を仕入れてきて屋敷全体ノリノリ!その勢いで詰められる私…ひどくない?これ私のせいか?
そうした事情もありノリノリで王都への準備をする妻と娘…メイドも1.5倍のスピードで動いてるし…
「いいかい、失礼のないようにするんだよ…同じ爵位とはいえ向こうはいずれ公爵になる方だからね…」
「当たり前でしょ!嫌われるようなことするわけないじゃない、パパじゃあるまいし!」
「レキシー!しっかり取り繕いなさい、お父様かお父上と呼びなさい!…セブン様の前で失敗なんてできないわよ…!!」
「任せて!お母様!しっかりやり切って見せるわ!なんて言ってもセブン様の義娘になるんですから!!」
「お願いね!こんなお近づきになるチャンス他にはないわ!結婚が成立したら領地に来てくれるのよね?もう婚約成立したらでいいのに!!!」
…ああ、貴族としてあるまじきだと思うのだが…
そんな考えを巡らせていると執事に慰められた…うん、私たちだけハブられてるんだよね
魔物の大軍勢が起きた時、王都に行っていたからね…悔しいです!!
そんな勢いのまま王都に来ていた…イングランディーレ家の屋敷を訪ねる際にもめにもめることになった。
誰が付き添うか問題である!!!
多数の侍従・メイド・騎士が手を挙げた…タウンハウスの方に居残るメンバーも必要だから…
主に残れじゃねぇわ!クビにするぞ!今言った奴!!
挨拶をしに行くのにこのままでは別の意味にとられる可能性がある!!それだけは全力で避けねば…もう少し減らせって!全員仕事がありますじゃない!細分化しすぎだ!どんだけ行きたいんだ!ちょっ…!ダメだって…うわぁぁ!もういい!!!先ぶれ出せ!全員準備しなさい!
結局誰もかれもが屋敷にいれてもらうこととなった。許していただきありがとうございます。え?末の方がいらっしゃれない?いえいえ問題ありません!こちらの方が不敬でございましょう。お気遣いありがとうございます。すみません、こんないいものをいただいてしまって…
そちらの方がジーン殿でございますか…聡明な素晴らしい方ですね。なんとも恐れ多い…娘では釣り合わないかもしれません。はっはは…ちょっ!痛いツネらないで娘よ!やめなさい!!あぁ緊張しているのね、少しトゲトゲしいな、気を付けてな…
挨拶のあとも楽しませていただいた。屋上庭園や巷で噂のコーヒー、さらに不思議なリズムを刻む魔道具など…異世界に来てしまったかと疑うほどに素晴らしかった…お茶菓子も非常においしい…そちらの子がお作りになられているのですか!本当に優秀な方が多いですな…ははは
ゆっくりしてくださいと出ていかれた…うん素晴らしいな本当に…娘はしっかりできているだろうか…それにしても私のお付きは執事だけか?あれだけついてきたいと言ってセブン殿にも会えるチャンスに…
推しに会うには恐れ多い?こんな詰めかけて失礼なことしてる時点で恐れ多いことしていることに気づけ!とんでもない考え方をしおって!!お、妻が帰ってきた…
「はぁ~すごすぎるわ、もう堪能しすぎて死にそうだわ」
「あぁ、あまり失礼なことするなよ」
「ええ、もうだいぶ落ち着いてきました。それにしてもヴィータローザ様も本当にお美しいわ!ノヴァリリス様も気品に溢れてやはり公爵家の血筋はすごいわね…レキシーはちゃんとできるかしら、心配だわ……」
「大丈夫さ、緊張していただけだろう、いずれボロは出してしまうだろうがジーン殿は器も広そうだ、そうそう浅慮なことをなさらないであろう」
「…そうね、きっと大丈夫よね」
最期に夕食をいただくことになり、食堂に向かった…そこにはすでに一人の子どもが座っていた…イングランディーレ家の方々とは同時に入っているので、挨拶できなかった末の子だろうか…うん、あれ意識が逸らされる…
挨拶痛み入るよ
そう返したあと挨拶を返し…紹介して…ん?大丈夫か?良かったのか…大丈夫そうか…
そのあとの食事中の会話も弾み問題なく関係構築もできただろう…あれ?本当に大丈夫か?娘は会話できているか?……うん問題なさそうだな…なんだろうかこの不安感は…
その後夕食を終え帰宅することになったが何か見落としている気がしてならなかった…何か忘れてしまった不安感…だが一応の顔見せは終わったのだ…タウンハウス内のイングランディーレロス感はぬぐえないがしばらくすれば勝手に復活するはず…潰れないようにしっかりやっていこうと思う…




