第39話 悪魔
〈ジーン視点〉
イングランディーレ家の次男として生まれた。普通の貴族ではなく成り上がりであったため、即席貴族のようなまがい物扱いされるものでもある。だが父が成し遂げたことは魔王の討伐であり、その功績は計り知れない。
本来は騎士爵からのはずだが父は男爵を拝命し、公爵夫人を娶った…勇者の功績を形にするための措置であったが父と母にとってはベストな形であり他の勇者パーティーのメンバーも納得の上の褒美でもあったらしい。そんな偉大なる家に生まれ、将来的にも発展を望まれる貴族の一員がこのボク!ジーン・イングランディーレである。
小さいときから年の近い兄にずっと引っ付いてた…バート兄上は5歳の適性検査で火・水・雷・光・闇・無属性の6種の魔法適正の才能を見せ世にその存在を見せつけた。そんな兄を誇りに思ったし、このくらいの才能は持っているモノなんだというプレッシャーにもなった。
翌年自分の適性検査の順番が回ってきた…結果は水・雷・闇・無属性の4種類の適性が判明した。父や兄には及ばないと突き付けられた。それでも普通の貴族よりも適性属性も魔力総量も抜けているおかげで自尊心を保つことができた。さらに2つ下の妹が火・雷・無属性の3種類が判明したときには安心とともに訓練で人並以上に扱えるようになっていたことで自信がついた…
父や兄がすごすぎるだけで自分も世間的には才能がある部類だと納得していった…
そんなころに新しく弟ができた…できたというよりも現れたという方が正しいのだが急にディナーの席につき紹介され3歳とは思えない所作を見せられ、受け答えも自分ではできないような言葉を操つり、父から家庭教師をつけると宣告を受けていた…妙な言い回しで注意を受けるものの弟を特別扱いしているようにしか見えなかった…
衝撃だった…兄を見て努力を続け指針にして今までやってきた自分には考えられない才能だった…
弟の存在はボクら兄弟は聞かされておらず、察しのいい兄ですら呆然としていた…そんなボクらに母は弟との接触を禁じてきた…
妹同様からかって相手をしてやろうと考えていたが、全く関わることなくたまにすれ違うに留まっていた…仮に同じ場所にいる時でも弟は空気のように扱った…がそれに対して不快な態度を示すこともなく、その扱いが当然であるように受けいれる弟に怖さを感じた…
だがこの頃様子がおかしい…以前までなら止められているようなことでも許可が出る上に暴走し止められることなく事業を成功させていたのだ…聞いた話では自分勝手に屋敷を改造し前衛的だとかで世間に認められ、父の研究を勝手に完成させ、空の国に自力で行ったと思ったらコーヒーという嗜好品の流行を作り経営しだしたカフェを完全に軌道に乗せ、今までなかった家族との関係も構築し始めている。
これには腹立たしい以外の何物でもない!散々ボクら兄弟を遠ざけたクセに才能を見せ始めた途端手のひら返しの両親、さらに関係を構築しようとしていることに…
常に兄を立て家のために勉学に励み、魔法の訓練を積み重ねてきたのに…自分の存在を丸ごと否定された気持ちになった…
父や母が受け入れたのは理由がわからずとも理解はできる…ただ兄や妹が関係を築き始めてのは納得できない…意味がわからない…
今までも屋敷の中で弟に接している奴はいた…絶対に禁止されているわけじゃなかった…仲良くなりたかったのなら注意されても仲よくなりに行けばよかったんだ…今さら才能があるからと近寄っていくのは恥ずべき行為だと思う!
それらを認めた両親にはもちろん今まで関わろうともしなかった兄妹が進んで仲良くしようとしている態度は今までの生活を無視しているように感じられる。なんのために頑張ってきたのか…誰を目標にしてきたのかわからなくなっていた…
当然勉学にも訓練にも身が入らない…
がんばっても意味などない…特別を前には誰も見向きもしないのだ…所詮は次男家を継ぐことなどできない長男のスペアでしかない…兄はビートブラック家の令嬢を娶りビートブラック領を拝領することになるだろう…そのうえでイングランディーレの名を継承していく…すでに目指すべき将来は失ったのだと理解した…
弟はそれを分かっていたのだろう…受け継ぐものがないなら自分で築くしかないのだと…
思考力が違いすぎる…才能に挟まれた凡人はどう生きればいいのか…妹のように能天気に生きろとでもいうのか…
このまま家にいてはいけないと思った…何かを変えなければ…
ジーンは何かを考えるために屋敷の外に出た…常につくメイドのシリルも同行していた…
ごちゃごちゃ考え事をしているとおかしな場所が目に入った…不思議な壁でカゲロウのように揺れて見える…近づき触れようとすると実態がなかった…
焦ったメイドのシリルはジーンを引き寄せ壁と距離をとった…しかし二人の背後には壁があった…
いつの間にか景色が変わり自分たちの居場所を見失った二人は動転していた…
「なんだコレは?魔法か?」
「分かりませんが、何者かの意思はあるでしょう…敵意は薄いですが…!」
「おいどんは壁の悪魔〝赤壁ファルクス〟にごわす…」
「「!?」」
謎の声…四方から聞こえる完全に壁に囲まれているわけではないが何かしらの領域内にいるのは感じられた…
「おはんがマイクはんでごわすか?」
「マイクは弟の名だ…何の用だ…!」
「………」
「…間違えてしまづだ、さらばじゃ!」
景色は晴れた…
訳分からない存在だった…それがマイクを追っている…もしくは接触している?
考えられるのは最近の周りの変化…何かしらが起こっている…
マイクが何者かに成り代わっている?だが初めて目にした時から利口ではあった…たびたび会うたびに存在を薄くするようにしている…あれはずっとしている…今でも…だからマイクはそのままのはず…いや逆か?そこを利用している?
他はどうだ?なぜ接触を許されるようになったのか?両親は何かを隠している?兄は何かを察しているのか…?
訳のわからない存在が一番最初に思いつくのは魔王…そして壁の悪魔と名乗っていた謎の存在…近場にそういった存在がいる証拠のはず…
「まずは父上と話すしかないか…」
「すぐに戻りましょう…戻り次第旦那様にご報告してきます。」
「あぁ…ボクとも話してもらえるようにしてくれ…ここ最近のことをしっかり知る必要がある…」
「はい承りました…」
ジーンはまだ何も知らない…それを自覚した…不確定の情報に踊らされるべきではない…ジーンは真相に近づくのだった。
イングランディーレの人間はどいつもこいつも優秀でありそれを自覚できないほどの環境にいることに兄妹の内まだ誰も気づくことはできないのであった。むしろ暴走するマイクが一番危険なのである。
〈マイク視点〉
スプマンテからの急報があった…
壁の悪魔が王都に来たらしい…カベを移動して来るらしいのだが全然来ない…
現在マイクは屋上の堀りコタツに入って寝っ転がっていた…
連絡待ち…もうだいぶ寒いよね…連絡あっても出れる気しないわ…
「我が君!お待たせしました!そして緊急事態です!壁の悪魔であるファルクスのアホがジーン・イングランディーレに接触しました!」
「兄上か…もっと慎重に動きなよぉ~…なにか問題があるの?」
「どうやら魔導士セブンに報告するらしく帰宅後ジーン付きのメイドが報告に行ったらしいです」
「…まずいかな……先に接触しに行けないかな?ていうか外にいたの…直でくればいいのに…」
「急ぎましょう貴族街にはいるらしいです!」
「え?迎えに行かなきゃダメ…」
「申し訳ございません!我が君…対応していただかないと連絡ができずに終わってしまいます。どうか足を運んでいただければ幸いでございます…」
「………」
オレはコタツに隠れるのだった…
「わぁぁぁ!お願いします我が君!ほんの少しでいいんです!西の方に100メートルくらいで射程圏に入れるので!お願いします。」
「なんでさ…その近くに文章が書かれたものくらいはあるでしょ…」
「ですが手紙はここにあるのです…これを届けなければ、あなた様の復活も伝えられません!」
「え~~~諦めようぜ…伝えなくても伝わるよ…魔人のみんなを信じようZ!」
「ううぅぅ…そこをなんとか…わかりました…では重力魔法と操糸魔法でこちらの手紙を飛ばしていただきたい…」
「んあ…それならいいか…場所の指示は頼むよ…」
「お任せを我が君!では!!!」
マイクは魔法で手紙を飛ばし貴族街の西方面にいる壁の悪魔に拾わせた…
あっという間に終わった…無駄な会話だったな…
だが問題はその後…壁の悪魔が会いたいとごねたらしい…会いに来ればいいと思ったらスプマンテ曰くそんな簡単には会えないものらしい。
スプマンテが戻って早々壁の悪魔はすでに王都から去ったらしい…行動が早いな…
しかし魔王が消滅しちゃったのに復活したとか言っていいのかな?まぁまだどこかに生きてるだろ…がんばれ魔王!オレがこの世界にいるうちは復活しないことを望むぞ…!
そうしてのんびりしていると仕事から戻った父上に呼び出された…足取り重く執務室を訪ねると…ジーン兄上が部屋から出てきた…
「話は父上から聞いた…何か助けが必要なら声をかけろ…手伝ってやるぞ…」
そう言って自室に戻っていった…
ドアをノックし執務室に入る。
「…来たか……マイク……今から聞くことに正直に答えてくれ…
……悪魔とコンタクトをとっているのか?」
「悪魔ですか…それでしたら以前近くの山に虫取りに行ったときに…」
「まて!いつだ?夏か?2,3か月前だな…」
「えぇ、そこでデカいカブトムシに会いまして…そいつは甲殻魔人とか名乗ってたんですけど…アレクレス…かな……そいつが文字の悪魔に伝言があるとか言ってたと思います。」
「なにか受け取ったか?」
「いえ、何も…僕が仕掛けた罠にハマってたのでたぶんたいした魔人じゃないかなと思って見逃しましたね…」
「……そうか…今度からはしっかり報告しなさい…」
「はい…すみません……何か大事がありましたか?」
「壁の悪魔がマイクを探しているらしい…」
「…はぁ……」
「悪魔は確かにどこにでも出る…なぜか魔王領に仕える存在とされている…今回の問題はどこにもでも出やすい壁の悪魔が王都内の何処かにいる文字の悪魔にコンタクトを取りに来たのが問題なんだ…だがそこで名前が出たのはお前だマイク・・・」
(オレが知ってる話ではないな…悪魔は理を司るだけのこの世界における管理署ポジと思ってた…)
「本当になにも知らないんだな…?」
マイクは腹をくくって正直話すことにした…操糸魔法を使い糸電話を創作してセブンにつなぐ
「いえ知ってますね…」
「!?」
「文字の悪魔スプマンテはオレが飼っています…」
「……はぁ?」
「スプマンテは文字がある場所にはたいていいます。おそらくこの部屋にも無断で入ってます…なのでこの会話も聞いてると思います」
「……」
「そのうえで話しますがスプマンテはオレを魔王だと思ってます…芝居で誤魔化してるんですけど、結構バレなくてそのうえ便利なんでいろいろ利用してます」
「これなら聞かれないのか?」
「はい…前もって確認してます。ラヴェとの会話でもたまに使ってますね…そのうえで今日スプマンテから誰かへの手紙を壁の悪魔が受け取りに来たみたいです」
「それで?どうなったんだ?」
「手紙の配送を手伝いました…スプマンテの監視下の外に出た瞬間消える細工をしておきました…」
「な…内容は?なにが書かれていたんだ?」
「詳しくはわからないですけど…魔王が復活したことは書いてたみたいですよ…」
セブンはついに顔に手を当てうつむいた…
まずかったかな…でも疑われてたし仕方ないよね…とりあえず全部じゃないけど知っといてもらうか…
「いつからだ…いつから関わっていた?」
「春くらいですかね?急に僕の人工知能魔法の本に住みつきましてね…いろんな知識を記しておいたので検索するのに便利なんですよ…勝手に文献も漁ってきてくれるので助かるんですよ」
「待て人工知能魔法とはなんだ…文献を漁ってるということはこの部屋にも入り込んだりしているのか?」
「えっと…人工知能魔法っていうのは…あの~管理魔法と記憶魔法を組み合わせて言語を理解して学習、人間のように試行し思考していくもの…ですかね?優秀なゴーレムみたいなイメージですね…あとはスプマンテがどこの文献を呼んでいるかは知らないです…はい…」
「……」
眉間を抑えて頭を悩ます父セブン…
「そうやっていろいろ成功させてきたってことか?」
「…そうですね、アイデアはオレが出すんですけど、足りない知識なんかを補完はさせましたね…スプマンテの厄介な点は記憶が弱かった点なんですけど人工知能魔法には記憶魔法が強力にかかってるのでだいぶ克服しているんですけど、しっかりレポートしてもらわないと忘れてるときあるんですよね…そこだけ何とかしてほしいんですよね…」
「映像魔法の時は?」
「あれはそもそも存在を消す光学迷彩魔法を考えた時の副産物で映像魔法にするつもりがなかったというか成り行きというか…うん、はい…」
「光学迷彩?…そうか、発想はマイクか…これからどうするつもりだ?」
スプマンテのことだろう…さてどうしたものか…
「そうですね…バレなそうなのでこのままでも良いかと…」
「悪魔に忠義はないぞ…あるのは自身にとって有意義な存在かどうかだけ…理の進化にしか興味はない、そして都合のいい魔王領を拠点にしている…あそこは魔改造の温床だからな…」
「生まれる場所と育つ場所、合理的ですね…味方に引き込みやすいですけど、将来は怖いですね…
……わかりました、封印とかできますか?」
「…できないな…悪魔を捕らえた記録はない…封印の方法は調べよう…察せられないようにしてくれ…」
「ではしばらくは様子見で準備でき次第でお願いします…」
こうして父との話し合いを終えた…この日に決まったスプマンテの処分が決まり、なんとなく封印の方法に関しても手伝わされそうな雰囲気を残し執務室を出た…




