第2話 ドスローライフ
前世の話をしよう。
東京の豊かな家に生まれ、順調に暮らしていた。
何不自由なく育ち大学を卒業し無事製薬会社の営業に就職、いろんな病院に行っては薬を紹介して買ってもらう、説明できないものは買えないよと一蹴され、薬の勉強をする日々…、興味のないことを頑張ることが死ぬほど苦手なオレは心が折れた。もう難しい横文字なんて覚えられないぜ…
無理無理…そう割りきってからはよく営業テキトーにしながら病院でもらえる弁当を楽しんでた。行ってることは行ってるんだぜ!ただ真面目に営業してないだけで…、仲良くなったお医者さんに最低限の納品を頼んで売り上げ成績にしておいた。
私生活では彼女もいていい感じで同棲、結婚は視野に入れて過ごしてたんだ。趣味に付き合ってくれる子で楽しさを勝手に見つけてくれる付き合いやすい子であり、自分のしたいことも遠慮なく言ってくれるお互いムリなく一緒にいれる関係だった。
だが、オレはあっけなく死んだ。交通事故だった。高速道路で煽り運転しあってる車に巻き込まれて最期にトラックに押しつぶされた。新手の〝トラック異世界飛ばされ〟だった。
ただただ順調に過ごしすぎてなにも達成できず平凡で幸せな生活だった。何も起きない人生だった。
いや、起きたのか最後に…
この世界に来たことは生まれて幾日か経った頃。思考はできず記憶もあいまい、何もかもゆっくりな世界だった。このころにメイドのラヴェが世話をしてくれた。何も制御できないので迷惑かけまくったことは覚えている。乳母みたいな人もいたはず。
このドスローな世界で親が見に来たことはほぼなかったはず…兄が2人いるらしいのはなんとなく聞こえてきたが、まだオレの存在を知らなかったらしい。姉は何度か覗きに来ていたが、早々に飽きてこなくなった。話しかけられることもなく、ラヴェの言葉で言語を学んだり、魔法を認知してからは、ばれないように練習していた。魔法が使えることは最高にうれしかった。
魔法はこの世界では適性検査をしてから使えるようになるという概念があるらしいが2年目から使えてしまっているのでオレは特別なのではと大興奮した。これが異世界チート…と舞い上がっていた
ゆっくりゆっくり時間をかけ体が馴染んでいき、活動範囲も増え、ラヴェの世話を必要としなくなっていったころ、従者の雑談が耳に入るようになった。
両親に愛されない子、兄たちの視界にすら入っていない不気味な子、存在を隠されてる謎の子
どうやら望まれた存在ではないらしいと悟った。面倒を見てくれるのはラヴェくらい、動けるようになってからは料理人の下っ端としてこき使われているトムと庭師のアーロンにいろいろと学んだ。
なんの気まぐれなのか3歳ごろに夕食に呼ばれた。兄姉に認知されたが大したコンタクトもなく時間は過ぎ、父にテーブルマナーがおろそかという理由で家庭教師のコミュ症先生を付けられた…作法なんて習っていないなりに上手くやったはずだったのに…母も兄姉も何も言わないのな…
その流れでつけられた家庭教師であるコミュ症先生はかなりやる気があって3歳児にとんでもない勉強量を押し付けてきやがって、腹が立ったので勉強をバックレたら、とち狂って暴力を振るってきた。それにやり返したところを父とたまたま付き添っていた王国騎士団副団長ブルースに目撃される。
父に失態を見られたためコミュ障先生は陰険野郎に成り下がり、副団長は暇を見つけてはひっそりとがっつり会いに来ていた。いや、連行だな。誘拐に近い…
副団長は訓練場に連れて行っては見習いたちとともに鍛錬をさせ、ボコボコにして帰らせるというルーティーンを確立させ、まず逃げるところからスタートすることが恒例となった。
屋敷内でも目立ちつつあったのでそんなオレを蔑むように見る者もたくさんいた。兄姉と目が合っても声をかけられることはなくスルーされ、お付きの方たちは可哀そうな同情な視線を送ってきた。
オレ可哀そうと思いつつもこの長い2~4歳児でこの環境に慣れていった。そんな中での5歳になる直前のタイミングでの魔法の適性検査が行われた。世間的にわりとすごい能力だと分かったので隠ぺいする。今のままひっそり生きるために…誰にも邪魔されず自由でのんびりできるように…何が起こってもすぐ対応できるように静かにひっそり爪を研ぐ…
その考え方が問題ごとを引き寄せてしまい、勝手に対応し勝手に解決させてしまうことにこの時のオレが気づくことはないのだった。
…続く!




