第13話 のんきにラーメン
≪ヴィータローザ視点≫
屋敷の北側から恐ろしい気配が放たれた。
屋敷全体に不安が立ち込めた。ヴィータローザは魔法の才能に恵まれており、属性魔法を2種類使うことができ、通常の人より強いと思っていたが、いともたやすくその自信を喪失させる圧がそこにはあった。
動けない…いやな汗が背中を流れる。
理由はおそらく一つ、末の息子に顕現した魔王因子がこの原因なのだろう…まずは近くで淑女教育を受けているノヴァを保護、バートラムとジーンには護衛がついているので焦らず合流、そしてセブンとも…
そうして屋敷を動き、あの子以外との家族で集まりセブンからは避難するように指示を受ける。
でも私は逃げたくなかった。あの子がいなくなるならケジメが必要だと思う。いままで散々勝手に振舞ってきたツケがこれなら最後まで責任を取らなきゃいけない。セブンに止められたが引くことはできず、あの子の部屋に向かった。
バートラムに、ジーンに、ノヴァにも何も伝えていない。それどころか遠ざけるように育ててきた。この子たちには関係ない。魔王の意思にあの子の想いが入り込んでも被害に繋がらないように!関わらせないように!いずれあの子が罪悪感に苛まれないように振舞って来たのだ。
全て言い訳でしかない。あの子のことを考えてるフリで全く向き合わなかった。怖かった。恐ろしいほどの魔力をもった純粋な子、セブンに遠ざけられたことをいいことに全く相手をしなかった。あの子のことを考えるたびにあの子について子供たちに聞かれるたびに日に日にわからなくなっていった。歪んでしまっただろうか、愛されないことに不安に思っていないだろうか、私が母でごめんね、何もできなくてごめんね…
失いたいわけじゃない!何ができるかわからないけどそばで見届けなければならないと思った。
黒いモヤが扉の隙間からただ漏れてくる。圧がすごい…セブンが結界を張ってくれてようやく中に入れた…
すでにラヴェルとアーロンが中にいて対処しようとしていた。そして副団長さんも来てくれた。使用人の中にも何人かいる腕の立つ者もきた…
セブンやアーロンの顔色は良くない。かつて魔王と対峙したことを思い出しているのだろう。無理もないこれだけの圧の中抗うのも苦しい。その元を断たんとしないだけ優秀な人間が集まってくれた。
また一人駆け込んできた。彼も勇者パーティーの一人だったクリス・ソー・ヴァリアント、現大司教として教会本部で働く偉大なかたである。
「ついに現れたか!?どうなっている?セブン!」
「まだだ!だが今まさに乗っ取ろうとしている!」
「これは!!?もしや抵抗しているのか?」
どうやら私だけ気づけていなかったらしい。戦っているのだ、この子は…!
自分に宿命づけられた運命と!魔王と!
目を背けるわけにはいかない!私も戦わないと…!
緊迫した時間は続いたが、前触れもなく黒いモヤが晴れた…
どっち?帰ってきたのよね…お願い!どうか戻ってきて!私に彼と向き合う資格を頂戴!
「…ふぁぁぁ~……んっ?……」
辺りを見回し、特に何を思うわけもなくゆっくり眠りについた。
かわいい寝顔…思えばこの子の寝顔を初めて見たかもしれない。ずっと避けてきた。暴走するかもしれない。そんな考えでこの子の成長を見てこなかったんだ。なんて愚かだったんだ。この子は一人で戦っていたのに…
最初にラヴェルが反応していた。安堵しきったように地べたに座り込んでしまった。それを支えるアーロン…
全員が徐々に緊張を解いていった。
「がはははっ!中々豪胆だな!何事もなかったように二度寝をかますなど!まるで勇者の振舞いではないかっ!」
「貴様が無理をさせたからだろっ!ブルース!何を笑ってるんだ!」
「がはははっ!これで小僧も無事、この国も世界も今後魔王の脅威に怯える心配も減るではないか!」
マイクに近づき手をかざすクリス様は何かを確認すると…
「そうですね、非常に喜ばしいことです。では解散としましょう。子供が寝ているそばで口喧嘩など迷惑でしょう」
どうやら本当に問題が無くなったらしい。自然と近寄り頭をなでていた。
あぁこの子の未来が幸せでありますように…!
ヴィータローザを縛っていた制約魔法が抜けるように消えていった…
≪マイク視点≫
どうやら寝すぎたみたいもう太陽が高い位置まで上がっている。
「問題ありませんか?」
朝ごはんを運んでくれたラヴェルは何か心配するように尋ねる
「…問題ないよ、何かあった?」
「いえ、気づいてないのであれば大丈夫です」
そういうとスッと退出していった。夢の中の話と認識と世界の転換点と思っていた者の違いである。
自分の中で起こったことが外で脅威とされてたことを知らないまま、厨房に向かうと昼の下処理、お茶会用のお菓子作り、皿洗いに分かれていた。
皿洗いをしているトムを捕まえて厨房の端を借りて作業を始める。
「ちょちょちょ…!なんですか?いきなり!…あれマイク様寝込んでるんじゃ?今皿洗い中なんですけど…」
「ん?ラヴェが言ったの?皿洗いはオレが魔法でやっとくから、こっち手伝って!」
空間収納から食材を出しトレーに並べ、大鍋に水を入れてありのまま豚骨を突っ込んでいく。
「え?豪快っすね…何を作られるんですか?」
「らめ~~~~んだっ!」
「らめーん?あぁラーメンですか?以前もやりましたけど、こんな感じでしたっけ?」
「まずはスープからちゃんと作るぞ!まずは血抜きからな!茹で上がったら捨てるから」
「え?もったいなくないっすか?」
「ええねんええねん…髄液を使いたいだけやねん!しっかり下処理するでぇ~」
時間をかけてスープを作る間に麺を作る二人はまず勘で材料を用意する。
強力粉を一応こしてボウルに投入、水分量がわからないのと塩も必要かなと思いつつ加えていく。なんかパンになりそう…
まとまり過ぎたのでまな板に挟ませて四角に整える。トムに指摘されて重曹を投入、硬さが少しは出るはず…一旦寝かすか…ね~むれ~ね~むれ~
パスタマシンがあるそうなので拝借、四角に成型するためにローラーのところでくるくるしてもらう。
ちょっと太めにカットしてもらいもんでちぢれさせていく。
ゆで卵も作り土魔法で作った浸かりやすい容器に麺つゆとともに保存して味付け卵に!
油に馴染ませる薬味的な要素としてニンニクをすりおろし、しょうがもすりおろし、背油をこしてラードも準備、トッピングとしてつる紫をあく抜きしてネギもゆでておく。
チャーシューもか…味付け卵と同じ時に作ればよかった、と思いつつまずは表面から肩ロースを焼いていく。余熱で休ませつつ麺つゆも絡ませていく。時間もあるのでチマチマ作業を進めていくぅ!
大鍋の豚骨を取り出し出汁を捨てる、骨を割り再度煮込む、野菜を入れあくを除き調整…昆布を途中で投入してうま味も上げていく!
その間にトムは他の作業をしていた。
のんきに厨房で一日またぎで完成させる…麺を茹で器を作って持っていく…食べたそうにしてた料理人にも振舞ってあげた…
周りの料理人もクサいと思いつつ言い出せなかったのだろう。段々良い匂いになり安心してた。ゲテモノ作られてると思われていたのか…
トムを連れ出し屋上庭園へ、カウンターっぽいものを造形魔法で作り、並んで実食!!
バカ美味かった!!あああ~~素晴らしい、足りないっちゃあ足りないけど、トムに研究させればもっと美味しくなるでしょ…がんばれトム!
トムは想像以上に喜んでテンションを上げていた。麺はもっと高められるとことや他の具材や味付けも考えたいと言っていた。うん、頑張ってくれ!
最終的にアーロンも来て食いすぎて帰れなくなったらしい。仕方ないので置いて帰った。
「どうか安らかに眠れ!」
「お前もな…」という声が聞こえたがオレに向けられた気がしなかった…




