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18.森人とふたつの姫隊

広間の封鎖を終え、ゴッチ砦に帰還したエイプリル隊は、休む暇を惜しんでラ・フィエールに向かった。

ジョットレイをゴッチに残し、キューガン伯爵軍を迎える役を振っている。キューガン軍にはフローラとトマシーノの娘、ジョットレイの婚約者アントニアが参戦する。

アントニアには隊を指揮するほどの才はなかったが、魔晶石鉱山の元カンデラ公邸に住んでいたころのエイプリルに願って、侍女団を率いる訓練を受けた。

ケイトリンが皇太子妃となった後は、竜騎兵団の姫騎士として仕える。ジョットレイがアントニアと結婚できるのはいつになるかと楽しみにして、みんな内々で賭けているに違いない。


「エイプリル、無事な顔を見せてくれてわたくしは本当に・・・」

「ミリアム、筆頭侍女でしょう、泣くなんて」

「だめです、わたくしも年を取りましたわ」

「同じ年でしょ、ばかね」

「ええ、ええ、もうばかでよろしいですわ」

「そんなことで大丈夫なの? フレデリカが出るのよ?」

「いえ、もう駄目です。熱を出して寝込みます。

わたくしはただの軟弱な王都貴族です。フィリップス殿下をあざ笑ったのに、わたくしとて同じです」

「そうね、みんな同じよ。誰でも怖い、子どもについては特にね。

ミリアム、わたくしたちが17歳だった時のことを思い出しましょうよ、ね。

あなたは王宮の小広間で王子殿下に言ったではありませんか“殿下、意味が分かりません”でしたよ。誰も言えないことでした」

ミリアムの顔が緩む。


「そうでしたわね、誰もが一度言ってやりたかったのに、あまりにも不敬で誰も言えなかったのよね、懐かしいわ」

「そうよね、あれはよかったわよ、本当に。

その王子殿下もお子の王女殿下をお連れになってミッテル砦を占拠しておられます。その王子殿下の宰相の娘が自分の姫隊を率いて父を助けに行くのです、背を押しておやりなさい、ね、ミリアム」

ミリアムはエイプリルに縋り付いて涙を戦衣に染み込ませながらしばらくじっとしていたが、やがて気を取り直して顔を上げた。

「エイプリル、わたくしは行けません。フレデリカをよろしく頼むとも言えません。

ただここで信じて待ちます。必ず、かならずもう一度会えますよね、お願いです」


「ミリアム、ばかね、次はフレデリックとフレデリカのところまであなたを護衛して行くわよ、約束するわ」

「エイプリル」

「ミッテルに王宮儀礼を叩き込むのよ、きっとアウラステラ王女殿下と気が合うわよ」

「そうね、エイプリル、わたくし頑張って歩きますわ」

「馬車を用意するわよ、とりあえず馬車の通れる道を造るところからね」

うふふ、と、ミリアムから半泣きの笑いが漏れた。



「ファブ、森人と連絡は取れましたか」

「マイレディ、迎えの方が来ておられます」

「ありがとう、こちらにご案内して」

「はい」


森人は、古い血筋の一族で、この大陸の山脈を移動しながら、数千年に渡り森を護ってきた。エイプリルが愛した狼犬、シューネとグリンデも森人からファビアン・キャメロンを通じて贈られたひと番(つがい)である。今はその孫がエイプリル隊に所属している。

親子だけの小さなグループで移動し、気が合うグループに出会うとしばらくの間一緒に子育てをするが、子どもが自立するともとの夫婦ふたりに戻る。幼馴染の友や老いた親を探してまた小さなグループを作ることもある。背が高く、美しい肢体をしている人々で、木こりや狩人の絶対的な信頼と尊敬を受けている。

非常に体が強く、複合魔法に長けている。夫婦になる条件の一番重要なものは、魔法の相性が良くふたりで複数の複合魔法が使えることだ。


フィエール領とガリエルの境になっている大山脈にも森人がいる。

非常に珍しいことだが、森人の若い夫婦が事故でロズウェル河を流され、リバーアン砦で救助されたことがあった。河に落ちた時に妻を庇った夫は、救助された時すでに亡くなっていた。

森から離れたところで連れ合いの死に臨んだ森人は、回復しようという気力がなく、そのまま夫の後を追うかと思われた。

めったに出会うことのない森人の美しさに心を奪われた当時のリバーアン砦指揮官キャメロン卿は、フィエール城のお館さまに願って、過去にこちらに来た森人について調べてもらい、年月をかけて誠意だけで森人を妻に得た。

ファビアン・キャメロンは、その森人の孫にあたる。


「森人のお方、このような場所までおいでいただき、お礼の言葉もありません。

わたくしは、フィエールの娘、今の名はエイプリル・フィエール・ド・カンディステラと申します。

この度はミッテルへの道をご案内いただけることになり、感謝いたします」

森人は、静かに頷いた。

「わが一族の夫婦を助けていただいた。我らはかの夫婦を失ったと思うておった。

だが、こうして孫にあたるものを育んでくれたのだ、こちらの礼を受け取ってもらいたい」


「もったいないことです、本当にありがたく思っております。シューネとグリンデのことも、感謝に耐えません」

「いや、大切にしてもらったようだ。今は?」

「はい、生まれた子のうち、2頭を残し、後は森にお返ししました。ご存じかと思いますが、2頭に新たに番をいただき、今は12頭をお預かりするまでになっております。

そのうちの、リヒトと祖母の名を受け継いだシューネが今回ご一緒に」


「うむ、カンディステラ卿、シュリもよく育ててくれている。

ソリーの森に帰りたいという望みもかなえよう。私が引き受ける」

エルとファビアンの長男、ソリーは、これを一種の先祖返りと呼んでもいいのだろうか、森人とともに森に暮らしたいという。魔力は大きく、武術にも優れているが、性格的に戦闘に向いていない。ファビアンが森人に願って、受け入れ先を探してもらっていた。


「ミッテル戦が落ち着きましたら、ソリーの両親の役目を解きます。ふたりは森のほとりで庵(いおり)を結びたいと申しております」

「よかろう。子を思う心は誰も同じである。受け入れる」

「ありがとうございます」

森人は、エルとファビアンに微笑みを向け、ふたりは腰を落とし胸に手を当てて感謝の意を伝えた。



「さて、共に道を行く者は」

「はい、わたくしが責任者です。

わたくしの夫エリス、乳姉妹エルザとその夫となった森人の方の孫にあたるファビアン・キャメロン、乳兄弟のマイケル・ラドクリフ」

4人が順番に礼をした。

「そうか」


「はい、この4人がわたくしのチームです。

次に、わたくしの後を継ぐチームをご紹介します。このチームのリーダーの父がミッテルで宰相をしておりますので、その補助をさせるために連れてまいります。

フレデリカ、宰相フレデリック・マールの長女です。

フレイ、エルザ・キャメロンの姪です。

オイゲン、フレデリカ・マールの従兄です。

クーパー、騎士です。

ミカエル、わたくしの次男です」

5人は、丁寧に礼をした。

「しっかりついてくるがよい」

「はい」


「ミッテルのために、兵500を率いてまいります。ほとんどがミッテルと周辺地域から移民してきた者で、そのままミッテルに残ります」

「よかろう」

「なにとぞよろしくお願いいたします」


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