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16.開戦

大山脈の低いところを越え、吹き鳴らされる角笛の音とともに派手に歩兵が降りてきた。歩兵の後ろから支援の矢が浴びせられる。フィエール側は盾を立て回してはいるが、ウォールを展開しているので盾は見せるためだ。直立したまま歩兵が接近するのを待つ。

最初は落とし穴。丸太や岩を防衛柵にしているように見えるが、そこに登って飛び降りようとすると深さ5mほどの落とし穴が見える。フェイク(偽装)が掛かっていて、直近まで見分けることができない。後ろから来る兵に押されて、次々と落下する。程よく溜まったところで、上から蔓で編んだネットを掛け、魔晶具で結界魔法を展開して確保、兵の数を減らす。

次は防衛ラインを少し後ろに下げて、盾の間から雨のように矢を降らせる。ブローで後押しするから、結構遠くまで届く。向かい風になるガリエル側の矢の勢いが衰える。


前方で押し合いを続けるうちに、山越えで弩弓が運ばれてきて手際よく設置された。よくもこの山道を、と、フィエール側はのんびりしたものだ。陣の真ん中で力強いディフェンスが打ち上げられ、それをウイレムにがっちり仕込まれた魔法使いが半球状に展開させてドームを形成する。移民してきた双子の絶妙なコンビ技だ。


最前線の端の方、落とし穴の延長が尽きるあたりから回り込んだガリエル兵と、盾の前に進出した騎士の近接戦になる。騎士は、小手の甲側に穴を空け、そこに睡眠の魔晶石を仕込んでいる。必ずしも致命傷を与えなくても、相手の体に魔晶石で触れれば昏倒させることができる。傷ついたり転倒したりした兵には従卒が魔晶石を押し当てて行動不能にする。

ガリエル側も、時間稼ぎの陽動のつもりだから、それほど強く押しては来ない。


最前線に並ぶ騎士の前に倒れた敵兵が折り重なってくると、足元を確保するために後ろに下がることになり、じりじりと陣が狭くなる。物量というのは、単純に力だ。数で押されるというのは恐ろしい。


鐘が鳴って指示が出、前衛を緩めて、敵兵を誘い込む。

誘い込まれた敵兵には、立て回された盾の間から長槍が襲い掛かる。ここでも睡眠魔法が大活躍する。睡眠は中位魔法で、直接相手に触れるのなら問題ないが、魔晶石から打ち出すのには方向と強さをコントロールしなくてはならない。

使い手は少なく、マリエもここに出ていた。マリエの前をソリーが護り、ケイトリンが震えを押さえて気丈に状況を読んでいる。

「左、来ます」

「もうひとり」

マリエは最初のひとりを槍に任せ、続いてくる者にスリープを撃った。命中。

「ウォール!」

ケイトリンが突然叫んで、魔晶石から防御魔法を展開する。

「ケイトリン、叫ばない。黙って魔力を注ぎなさい、他の指示を聞き落とす」

「はい、おかあさま」

「ウォール解除、攻撃できない」

「はい」


最初の軽い当たり合いが終わり、一時戦闘が収まる。

戦っているのが生身の人間同士だから、戦闘は長時間続かず、波状に繰り返される。後衛から従卒が出て、前線で昏倒している敵兵を荷車で運んで下げる。眠っている者は目を覚ましたら戦力になってしまう。後方で拘束しておとなしくしていてもらうことになっている。


顔色を悪くして本陣に下がってきた娘に、ジャルダンが声を掛ける。目の前で槍を受けて血しぶきとともに倒れる兵を見てきたのだ、無理もない。

「帰るか、送らせるぞ」

「そうしたいのは山々ですが、できません」

「いや、帰っていいんだぞ」

「冗談ではありません、送ってくれる兵は戦力です!わたくしも戦力です。抜ければ戦力が減ります!」

はぁ、とジャルダンはため息をついて、せいぜい吐かないでいてくれよ、心の中だけで思った。


ロゼットが待ち受けていて、しっかりとケイトリンを抱き寄せた。

「次は母についてわたくしが出ます、ケイ、帰ってきたら慰めてください」

「ええ、ロゼ、ええ」

ケイトリンは涙ぐみながらロゼットの肩に顔を押し付けた。


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