14.カンデラ公夫妻とのディナー
王妃とカンデラ公とのお茶会の後、10日ほどして姉ローズからディナーへの招待が来た。離宮でなく、王都内のカンデラ邸へ招かれており、夜はそのまま泊まっていくようにという案内が、姉の流麗な筆跡でしたためられていた。
「久しぶりに妹と親しく語り合う時間を楽しみにしております」という“お優しいお招き”を読んだエイプリルの背筋が少し寒くなったのは内緒にしておいたほうがいいだろうか。姉が優しいということは、怒っているということなのだ。怒りの対象は、「まさかわたくしではないでしょうね」、とエイプリルはトリハダの立った二の腕をそっと撫でさすった。
ローズは大規模攻撃魔法の熟練した使い手だ。ウイレムの直弟子でもある。本気で怒ったら屋敷が吹っ飛ぶだろう。
招かれた日、午後遅めに王家から贈られた軽馬車が竜騎士団から回されてきた。
竜騎士団の別動隊で王宮作法を習いながら訓練を積んでいるエイプリルの3人の護衛騎士がついてきている。軽馬車からラドクリフが降り、まずエルを乗せて手綱を渡す。つぎにエイプリルの手を取って馬車に乗せ、従卒が引いてきた自分の馬に乗った。
コーエンが馬車を先導してカンデラ公別邸までゆっくりと導いていく。
「ようこそ、姫」
カンデラ公自らに迎えられ、エイプリルの背筋はさらに寒くなったが、ディナーは無事に終わった。
場所を居間に移し、カンデラ公が「久しぶりに姉妹でゆっくりなさいね」とふたりを残して引き下がる。
その場に残ったのは、ローズと腹心のロナ、エイプリルとエルの4人となった。ロナとエルは、親戚関係にあり、ロナは母メリーアンの里方からローズのために選ばれた選りすぐりの侍女だ。
「エイプリル、学園でミリアム・カッサンドラの侍女の服装をしていた女を覚えていますね」
「はい、あれは誰だったのですか?」
「逃げられました」
「え?あれほどわかりやすい服装だったのに?」
「ええ、すぐに手配されたようでしたが、どこに紛れ込んだのだか」
「門衛の管理はどなたが?」
「直接には王宮衛兵隊です」
「一番上の責任者は、確か」
「ええ。王宮衛兵隊長のゴドフェルド伯爵家。
さらに上は、王宮警備責任者サマビル侯爵家」
「サマビル侯爵家は、たしか、元老院議長サマビル前侯爵の娘婿、ローラン・ル・サマビルさまが当主でしたでしょうか」
「エイプリル、それだけじゃないのよ。
サマビル侯爵夫人は、第三王子の乳母を務められたのです」
「もしかして、エステルさまの?」
「そう。エステルは、第三王子の乳姉妹よ」
「姉上、エステルさまはご病弱で婚約者を辞退なさったと聞きました」
「ええ、表面上はね、そうなっています。
ですが、そうではありません。王子の乳母になるということは、その家からは王子妃を出すことはできないということなのです」
「家訓のことですね。
婚約した姫と王子は婚姻式の日取りが決まるまではお互いに会ってはならない」
「そう、それです。
乳兄妹なのです。兄妹同然ですからね。幼いときから遊び相手ですもの」
「それってそんなに問題になることなのでしょうか。
幼馴染同士で気が合うとか、小さいころお嫁さんになってあげるわとか、お嫁においでとか、遊びでよくありますよね」
「そうね、エイプリル。
だから、こう考えてみてはどうかしら。
王家はサマビル侯爵家の血筋を王家に入れたくない。だから侯爵夫人を乳母にした、とね」




