13.王妃との午後のお茶
その日のお茶には、フィリップスのエスコートはなかった。エイプリルを迎えに来たのはカンデラ公で、公はそのままお茶の席に残った。
お茶の産地を当てるという貴族らしい遊びを楽しみ、カンデラ公が正解を出したところで、王妃が「こんなにも楽しいのは久しぶりね、せっかくですから軽くお食事にしましょう」と言った。
準備はすぐに整い、軽食が運び込まれた。何か長い話があるらしい雰囲気になった。
「エイプリル、学寮の生活はいかが?」
「はい、姫君方に親しくしていただき、大変楽しく過ごしております」
「鍛錬も続けているのよね」
「午前中晴れていますと、竜騎士団の訓練場で乗馬訓練をいたしております」
「メリーも、ローズもそうでしたね、カンデラ公」
「そうですね、義姉上」
「ところでエイプリル、学寮は今どんな風なの?メリーの頃はまだ伯爵家までの子女しか受け入れていませんでしたが」
「ローズの時は、子爵家、男爵家は全員通学だったよ」
「はい、通学の学生が多いと馬車が込み合いまして、学園の正門警備が混乱するということだったと思います。今では、講義を受ける期間がひとりずつ別に定められていて、その期間は学寮から通うことになっておりますかと」
「そう。学生の入れ替わりは多いのね?」
「そうではないでしょうか」
「同じ寮棟に受け入れているのかしら」
「はい、わたくしたちは2階でございます。子爵家、男爵家の方々は、3階を使っておいでです」
「え?同じ階ではない?」
「エイプリル、ちょっと大切なことなのだけど、いいかな。
君、2階にいるのよね、3階に行ったことある?」
エイプリルは、不思議そうに義兄を見て、
「いえ、一度も」
と、答えた。
「そう、まちがいないね」
「はい、2階と3階は直接行き来できません。2階には正面の大階段を上がりますが、3階は学寮の両端に新しく設けられました脇入り口から、階段室を上がると聞いております」
「メリーとローズからは、1階から4階まで侍女や小間使いが使う階段があると聞いたけど」
「はい、わたくしもそれは聞いておりました。姉の頃には侍女が多くて、3階と4階に小部屋をたくさん作ってその階段で行き来していたとか。
入寮して、最初にエルとともにその階段を探しましたが」
「まあ、さすがは戦姫と呼ばれる姫ね」
「いえ、エルが、警備の都合上確認が必要と言いますので」
「それでどうだったの、エイプリル?」
「階段の3階のドア部分は、レンガと漆喰で塗りつぶしてありました」
「え?」
「はあ、なるほど。君たちの侍女と小間使いは4階に部屋を与えられ、4階と2階を行き来する。それに、1階の厨房から2階の姫君たちに食事を運ぶ。
でも、3階に用はない。3階の住人にはメイドしかいないし、食事は1階の食事室で取るから運ぶ必要がない、ということだね」
「わたくしもそう考えました。わたくしたちは朝食を各自の部屋で、ティータイムはたいがい学友とともにどなたかの部屋で共にしますので」
「そうだったね」
「つまり、2階から3階に行こうとすれば、まず1階正面玄関から学寮を出て、脇入り口から階段棟を3階まで上がるしかないのね」
「さようにございます」
「エイプリル、もうひとついいかしら。
あなた、アリエス・ロシュフェールという男爵令嬢を知っている?」
「ロシュフェール男爵令嬢、ですか?
わたくし、王都でまだ1年も暮らしておりませんので、知り合いと言いましても」
「学園で講義を受けている方なのです」
「申し訳ありません、わたくし、人を覚えるのは比較的得意だと思うのですが、お話をする機会がほとんどありませんので、お名前の方がわかりません。
エリー、わたくし、レディ・ロシュフェールとお会いしたことあるかしら?」
「マイレディ、ロシュフェール男爵令嬢と同じ講義室になったことは一度もおありではありません」
「お話したことがありますか?」
「いえ、ございません」
「陛下、エルはこう申しております」
「そう」
王妃とカンデラ公は珍しくため息を漏らした。




