僕の知らない話
✄---------------------------------------- キ リ ト リ ------------------------------------------✄
「おはよう」
この挨拶から始まる普通の家。
俺には、ちゃんと父親がいて、母親がいて、それなりの学力の私立高校に行っている。
友達も少ないかもしれないがいいやつばかり。それなりの生活。いいほうだとも思う。
そんな家庭で育っている。
父親は、大手企業の会社のいいとこにいるらしくたまに部下の人らしき人と帰ってきては飲み会をしたり、相談を受けたり、俺にも小さい時はあまり忙しかったのか接する時間は少なかったが、時間があれば水族館や遊園地に連れていってくれたり、一緒にゲームしたり少ない時間でも大事にしてくれていて、今もそれは変わらない。
母親は、昔こそ父親と同じ会社に務めていたが今は小さな喫茶店の店員をしている。
だからか俺より遅く出勤し、俺より早く帰ってくるから共働きとはいえそんなに寂しい思い出は特にない。
たまに、喫茶店に新たに出すお菓子を作ってみては食べさせてくれた。それが俺の小さな楽しみだった。
器用な人だから、誕生日ケーキは母親が作ったものが殆どで、売り物と間違えるほど美味しいし見栄えもよかった。
それは、ついこないだまでの話。
父親が倒れたのだ。
そこまで若くはないが、老けているわけでもなかった。
だからこそ、安心していたのかもしれない。
病名はがんだった。
進行は早く、もう医者には手遅れと匙を投げられ気休めにと抗がん剤治療をしている。父親には、手遅れと言われたことを言う勇気がなく、言わなかったが本人は気づいているようだった。
弱っていく父親を見るのは辛かったが、少しでも元気になって欲しくてできるだけ週末には病院に通った。母親は仕事を辞め、看病についた。
そこそこ裕福な家庭だったから、学費などには悩まず、治療も専念でき、生活費なども保険で降りてきて金銭面で困ることはなかった。
余命が少なくなり、父親はいきなり言い出した。
「お前には言ってなかったが、兄弟がいる」と...
愛していたはずが、愛ではなくなっていたと...
父親になれなかった、途中で捨ててしまった、会いたいが会う顔がないと...
俺は、そうして兄弟を探すことにした。