知りたくなかった
「お前の父親、俺の父親はがんにかかった。」
それだけだった。たった、一言の言葉。それだけなのに、黒いモヤが出たみたいに目の前が見えなくなった。“兄弟”は続けて言った。
「父親は、会いたいが合わせる顔がないと、言っていた。何があったかまでは聞いていない。一つ聞いたのは、父親になれなかった、愛せなかったと聞いた。俺には何があったか知らないし、踏み込んではいけないと思う。父親とお前の問題だ。俺は干渉したくない。」
僕は、揺らいでしまった。
会いに行こうかと、
だけど、このままではいけない。こちらにはこちらの問題もある。いくら謝られようと許せるはずがない。深い傷だと思いたくない。捨てられたことに傷ついているわけではない。傷ついてるわけないはずなのに...
今必要とされているのは、多分だが、後ろめたい気持ちで死にたくないからだ。そんなの許してやるもんか!
「やっぱり会いにいけない。お前は、僕がされたことを知らないし、知ろうとしなくていい。いい父親像を見て葬式をしてほしい。まだ、死ぬとわかったものではないけれど、いずれそうなると思う。お前は知らないままがいいと僕は思う。だから、会いに行くとするならば条件がいくつか必要とする。」
僕は、一息ついてまた話始める。
「その条件が揃っても、会いに行くとは限らない。僕は、僕の意見を主張する権利があるはずだ。やりたいようにする。僕は、傷ついていないんだよ、残念ながら。あの人のいうようにはさせない。父親だと思いたくない。だから伝えて欲しい。会いにはいけないと」
申し訳ないけれど、兄弟には、これ以上傷ついて欲しくない。だから、これ以上近づけさせない。僕とあの人の問題であり、僕だけの問題でもある。僕の人生を狂わせることはさせない。日常に戻りたい。
これからは知らない振りはできないだろう。だけど、知らないふりして生きていこう。知りたくなかったが、仕方の無いことだ。




