友達の友達って、友達?
翌朝。
俺は父さんに作ってもらった木片を袋に詰め、家を出る準備をしていた。全部入れるとそれなりに重いけど、五人で遊ぶなら持っていく価値はある。
「今日は川だったか?」
父さんが袋を覗き込む。
「うん。トーマたちと」
「気をつけろよ。深いところには入るな」
「泳ぎに行くわけじゃないよ」
「分かってる。念のためだ」
十三歳になっても、こういう確認はされる。
前世の感覚だと少し変な気分だけど、今の俺は父さんから見れば普通に息子だ。むしろ何も言われない方がおかしい。
「昼は?」
「途中で買ってく」
「ならいい。夕方までには帰ってこいよ」
「分かってる」
木片の入った袋を肩に掛け、家を出た。
◇ ◇ ◇
南門の近くまで行くと、トーマが三人の少年と一緒に待っていた。
「お、来た」
「おはよう」
「そいつがレイン?」
いきなり聞いてきたのは、トーマより少し背の高い少年だった。
日に焼けた顔に短い茶色の髪。服装も少し汚れていて、いかにも外で動き回っていそうな感じがする。
「そう。レイン」
「自分で紹介させろよ」
「じゃあ自分で言えよ」
「もう言われたじゃん」
出鼻をくじかれた。
「俺、ニコ」
背の高い少年が自分を指差す。
「こっちがルカ。で、そっちがエミル」
「よろしく」
「よろしく」
三人とも俺たちと同じ十三歳らしい。
ルカは少し小柄で、エミルは逆にがっしりしている。三人ともトーマとは前から付き合いがあるらしく、俺だけが新入りだ。
「トーマから聞いたぞ」
ニコが言った。
「何を?」
「変な遊び作ったんだろ?」
「変なって言うなよ」
「木を積んで抜くだけって聞いた」
「合ってるけど、言い方が悪い」
「面白いの?」
「やれば分かる」
昨日の俺と同じことを言っている。
ちょっとだけ父さんの気持ちが分かった。
◇ ◇ ◇
川までは歩いてそれほどかからなかった。
町から離れるにつれて建物が減り、代わりに草と木が増えていく。川幅はそこそこあるけど、トーマたちがいつも来る場所は流れも緩く、岸の近くならかなり浅いらしい。
俺たちは川沿いの適当な場所に腰を下ろした。
「で、何するの?」
「別に決めてない」
トーマが答える。
「決めてないの?」
「川来るのに予定いる?」
「いや、いらないけど」
そういうものらしい。
ニコとエミルは平たい石を見つけて水面を跳ねさせ始めた。ルカはその横で座り込み、持ってきたパンを早くも食べている。
「もう食うの?」
「朝ちょっとしか食ってない」
「昼の分じゃないの?」
「また買えばいい」
ニコが振り返る。
「こいついつもこれだから、帰るころ金なくなってんだよ」
「俺の金だろ」
「祭りのときも使い切ってたじゃん」
「祭りは使うために持ってくんだろ」
なんだか聞き覚えのある理屈だ。
俺が黙っていると、トーマがこっちを見る。
「レインと気が合うんじゃない?」
「何で俺を見るの?」
「昔なら同じこと言いそう」
「昔っていつ?」
「知らないけど」
こいつ、適当になってきたな。
◇ ◇ ◇
しばらく川辺で過ごしてから、俺たちも持ってきた昼飯を広げた。
俺は途中で買ったパンと干し肉。トーマも似たようなものだ。ニコは家から持ってきたらしく、エミルは大きめのパンを一人で食べている。
ルカだけは、さっき食べたせいで何もない。
「腹減った」
「だから言ったじゃん」
「少しちょうだい」
「嫌だよ」
「トーマ」
「嫌だ」
「レイン」
「初対面で人の昼飯狙うなよ」
「もう初対面じゃないだろ」
「まだ会って半日も経ってないからね?」
でも結局、干し肉を少しだけ分けた。
「レインいいやつだな」
「次から自分で用意して」
「分かった」
「絶対分かってない」
五人で飯を食いながら、自然と家の話になった。
ニコの家は町の外に畑を持っていて、忙しい時期は朝から手伝わされるらしい。エミルの父親は荷運びの仕事をしていて、エミル自身も最近は軽い荷物なら一緒に運ぶことがあるという。
ルカの家は仕立て屋だった。
「じゃあ服作れるの?」
「俺は無理」
「手伝ってないの?」
「糸とか布運んだりはする。あと掃除」
「俺と変わんないな」
トーマが言う。
「宿でも荷物運んでるもんね」
「皿も運ぶぞ」
「自慢になる?」
「ならない」
みんな、何かしら家の仕事を手伝っている。
俺だけが特別というわけではない。
この世界では十三歳にもなれば、それくらいは普通なのかもしれない。
「レインは?」
エミルに聞かれた。
「俺?」
「家具屋なんだろ?」
「父さんがね」
「手伝ってる?」
「家具はほとんど作れないよ」
「じゃあ何してんの?」
答えに困る。
石鹸。
カバン。
マヨネーズ。
自分で作らなくなったものまで含めれば、説明が長い。
「いろいろ」
「トーマもそれ言ってたぞ」
ニコが笑う。
「何て?」
「聞けば分かるって」
「それ説明してないじゃん」
「俺もよく分かってない」
トーマまで言う。
「友達だよね?」
「たぶん」
「そこは即答してよ」
全員が笑った。
友達の友達と会うのは少し面倒そうだと思っていたけど、今のところ悪くない。
◇ ◇ ◇
「ニコはずっと畑やるの?」
トーマが何気なく聞いた。
「たぶん。兄貴いるから全部継ぐとかじゃないけど、他にやりたいこともないし」
「エミルは?」
「俺は親父と同じでもいいかな。荷運びなら仕事なくならないだろ」
「ルカは?」
「仕立ては嫌いじゃない。でも針仕事ずっとやるのは嫌」
「じゃあ何するんだよ」
「それが分かんない」
ルカがパンの欠片を指先で転がしながら答える。
「十三で決まってる方がおかしくない?」
「トーマは宿だろ?」
「まあ、たぶん」
「レインは?」
今度は四人の視線が俺に集まった。
「俺?」
「お前だけ聞いてない」
「俺は……」
金を稼ぐ。
貯金する。
いつか仕事をやめて、のんびり暮らす。
目標自体は変わっていない。
でも、それをそのまま言ったらどうなるだろう。
「金貯めて、いつかのんびり暮らしたい」
結局、そのまま言った。
「爺さんみたい」
ニコが即答した。
「十三歳の夢じゃないだろ」
エミルまで続く。
「うるさいな。大事だよ、貯金」
「何でそんな先の心配してんの?」
「いろいろあったんだよ」
「十三年で?」
「……あったの」
危ない。
そこは掘るな。
トーマだけは笑いながらパンを食べている。
「レイン、本当に金の話好きだよな」
「好きなわけじゃない。大事なだけ」
「同じじゃない?」
「違う」
たぶん。
◇ ◇ ◇
昼飯を食べ終えると、トーマが俺の持ってきた袋を指差した。
「そろそろやろうぜ」
「木のやつ?」
「それ」
平らな場所を探し、布を敷く。
その上に木片を三本ずつ、向きを変えながら積んでいくと、三人が覗き込んできた。
「本当にこれだけ?」
ニコが言う。
「やる前はみんなそう言うんだよ」
「簡単そう」
「エミルも絶対言うと思った」
「だって抜くだけだろ?」
「じゃあやってみれば?」
五人で順番に一本ずつ抜いていく。
最初のうちは余裕だった。
でも、隙間が増えるにつれて、さっきまで適当に座っていた全員が少しずつ前のめりになっていく。
「そこやめた方がいい」
「こっちなら動くぞ」
「いや、下見ろ。傾いてる」
「喋るなって」
「ニコ、手震えてる」
「震えてねえよ」
木片が少しずつ抜けていく。
塔が揺れる。
全員が黙った。
「……いける」
ニコが小さく呟く。
あと少し。
木片が抜けた。
「おお!」
「ほら!」
「次ルカな」
「待って。これもう無理じゃない?」
「まだいける」
「お前がやれよ」
「順番だから」
結局、最初に倒したのはルカだった。
「無理だろこれ!」
「もう一回」
「次はニコからな」
「何で?」
「さっき成功したから」
「それ理由になってる?」
さっきまで家の仕事や将来の話をしていたのに、始めてしまえば全員本気だった。
別に、十三歳だから急に大人になるわけでもないらしい。
それくらいがちょうどいいのかもしれない。
◇ ◇ ◇
帰るころには、五人ともそれなりに疲れていた。
町へ向かって歩きながら、ニコとルカはさっきの勝負についてまだ言い合っている。
「次いつやる?」
エミルが聞いた。
「俺に聞くの?」
「レインのだろ、それ」
「父さんに作ってもらったやつだけど」
「じゃあまた持ってきてよ」
「いいよ」
俺が答えると、ルカが振り返った。
「またトーマに聞いとく」
「何で俺?」
「レインと一番会うだろ」
「まあ、そうだけど」
そんな会話をしながら歩く。
祭りの日まで、俺に同い年の友達はほとんどいなかった。
今は四人と一緒に町へ帰っている。
友達の友達が、そのまま自分の友達になるのかはよく分からない。
でも、次に会ったときに自己紹介はいらない。
それなら今は、それくらいでいい。




