明日も、暇?
トーマが帰ったあと、俺は木片を箱にまとめて部屋の隅へ置いた。
結局、何回やったのかは覚えていない。勝敗も途中から数えていなかったけど、たぶん俺の方が負けている。
まあ、次に勝てばいい。
次がいつなのかは知らないけど。
◇ ◇ ◇
翌朝。
特に予定はなかった。
石鹸はセラさんとハンスさんのところで回っている。カバンもダリオさんが作っているし、ベルクさんが次にエルダへ行くまでは、俺がやることもない。
マヨネーズもミラの店で作れるようになった。
少し前なら、こんな日は無理やり何か仕事を探していた気がする。
でも今日は、そこまで焦っていない。
「さて」
朝飯を食べ終えて、自分の部屋に戻る。
何をしよう。
昨日使った木片でも一人で積んでみるか。
「……一人でやってもな」
抜くのも俺。
倒すのも俺。
勝つのも俺で、負けるのも俺。
虚しい。
外でも歩こうかと考えていたところで、家の扉を叩く音がした。
「レインー!」
聞き覚えのある声だ。
俺が扉を開けると、トーマが立っていた。
「おはよう」
「おはよう。どうしたの?」
「今日、暇?」
「暇」
「早いな」
「事実だから」
トーマが少し笑う。
「じゃあ明日も暇?」
「何で明日の話?」
「ちょっと付き合ってほしい」
「どこに?」
「川」
「川?」
昨日、普段何をして遊んでいるのか聞いたときにも出てきた場所だ。
「何するの?」
「行けば分かる」
「それ一番不安なやつなんだけど」
「別に危ないことしないって」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんって言った」
嫌な予感しかしない。
◇ ◇ ◇
トーマが言うには、町の南側を流れている川へ、明日何人かで行くらしい。
泳ぐほど深い場所ではなく、子供たちがよく遊びに行く場所だという。石を投げたり、小魚を探したり、暑い日なら浅いところに入ったりするらしい。
「何人くらい?」
「俺入れて四人。レイン来たら五人」
「知らない人いる?」
「全員知らないと思う」
「じゃあ俺だけ完全に知らない人じゃん」
「俺いるだろ」
「一人だけじゃん」
「祭りのときも俺のこと知らなかっただろ」
「それはそうだけど」
同い年の集団に途中から入る。
前世なら大したことでもない。
……いや。
前世でもちょっと嫌だったかもしれない。
「嫌なら別にいいけど」
「行くよ」
「お、珍しく早い」
「何が?」
「レイン、もっと考えるかと思った」
「遊びに行くくらいで考えないよ」
「カバンは三日考えるのに?」
「それは金がかかるから」
「やっぱりそこなんだ」
トーマが笑った。
こいつ、最近そこを突けば俺が反応するって覚えてないか?
「で、今日は?」
「今日は?」
「今日も暇なんだろ?」
「暇だけど」
「じゃあ昨日のやつやろうぜ」
「木のやつ?」
「うん」
なるほど。
それで朝から来たのか。
「いいよ。今度は勝つから」
「昨日もずっと言ってたな」
「昨日とは違う」
「何が?」
「寝たから」
「それで強くなるの?」
「なる」
「じゃあやろう」
◇ ◇ ◇
木片を積み上げる。
昨日より少し早く組めるようになった。
トーマが最初の一本を抜く。
次に俺。
またトーマ。
何度か繰り返しても、まだ崩れない。
「昨日より上手くなってない?」
「俺が?」
「二人とも」
「じゃあもっと難しくしようぜ」
「どうやって?」
「一番下から抜く」
「それ絶対倒れるだろ」
「だから面白いんじゃん」
「じゃあトーマからね」
「何でだよ!」
「言い出した人から」
「そんな決まりないだろ」
「今作った」
「昨日俺が言ったやつじゃん!」
結局、トーマが挑戦した。
木片が少し動く。
「お、いける」
「待って、そっち押さえるなよ」
「押さえてない」
「今触った!」
「触ってないって!」
「喋るな!」
「自分も喋ってるじゃん」
ガラガラッ。
「あー!」
「ほら!」
「レインのせいだろ!」
「俺、一回も触ってないから!」
昨日とほとんど同じだった。
それなのに、普通に面白い。
しばらく遊んでいると、トーマが崩れた木片を拾いながら言った。
「これ、明日持っていこうぜ」
「川に?」
「他のやつにもやらせたい」
「外でできるかな」
「平らなとこ探せばいいだろ」
「じゃあ持っていく」
俺は頷いた。
昨日、父さんに作ってもらったばかりの遊び。
それを今度は、トーマ以外の同い年にも見せることになる。
売るつもりはない。
何かを始めるつもりもない。
ただ、みんなで遊ぶだけだ。
……たぶん。
最近、この言葉を使うと少し不安になる。




