お前、意外と細かいな
人が集まっていたのは、広場の端に作られた小さな競技場だった。
競技場といっても、地面を縄で囲っただけだ。その中に大きさの違う木箱がいくつか置かれていて、入口には参加者らしい人たちが並んでいる。
「何これ?」
「荷運び競争」
「祭りで?」
「毎年やってる」
リーネの祭り、思っていたより何でもありだな。
ルールは簡単だった。
置かれた荷物を決められた場所まで運び、全部運び終わるまでの速さを競う。荷物ごとに大きさも重さも違うらしく、ただ力が強ければ勝てるというものでもないらしい。
「出る?」
トーマが聞いてきた。
「俺たちが?」
「子供の部もあるぞ」
「聞いてから決めよう」
「慎重だな」
係の男に確認すると、参加するのに金はかからないらしい。
「出る」
「急に早いな」
「無料だから」
「お前、本当に貯金してるんだな」
そこは信じるんだ。
◇ ◇ ◇
子供の部は二人一組だった。
俺とトーマはそのまま組むことになり、順番を待ちながら前の組を見る。
一組目は、開始と同時に大きな箱へ向かった。
二人で持ち上げ、一気に運ぶ。
速い。
「俺たちもあれでいく?」
「いや」
トーマが即答した。
「何で?」
「あの箱、最初に持ったら疲れるだろ」
「でも一番時間かかりそうじゃない?」
「だから最後」
「最後?」
トーマが競技場の中を指差した。
「小さい箱二つは一人で持てそうだろ。最初にあれを一個ずつ運ぶ。その次に真ん中。最後に二人で大きいやつ」
「先に軽いの?」
「最初に重いの持って疲れたら、そのあと全部遅くなるじゃん」
「なるほど」
俺はもう一度、箱を見る。
確かに筋は通っている。
「お前、意外と細かいな」
「意外は余計だ」
「もっと何も考えずに突っ込むタイプかと思ってた」
「それお前じゃない?」
「何でだよ」
「輪投げ三回目やろうとしてた」
「やってない」
「財布まで出してた」
見られていた。
◇ ◇ ◇
俺たちの番が来た。
「始め!」
合図と同時に走る。
まず小さい箱。
俺とトーマが一個ずつ持ち、そのまま反対側まで運ぶ。
「次!」
「真ん中!」
二人で戻り、今度は少し大きな箱を持つ。
思ったより重い。
「これ一人でいける?」
「いける!」
「じゃあ俺もう一個!」
真ん中の箱も二つあった。
俺たちはそれぞれ抱えて走る。
「重っ!」
「言っただろ!」
「聞いてない!」
「今言った!」
それは遅い。
どうにか運び終え、最後の大きな箱へ向かう。
二人で左右を持つ。
「せーの!」
持ち上げる。
「うわ、重い!」
「走るぞ!」
「無理無理!」
「じゃあ早歩き!」
「それならいける!」
二人で箱を抱えたまま進む。
前が見えない。
「右!」
「どっちから見て!?」
「俺から!」
「分かるか!」
危うく縄の外へ出そうになりながら、どうにか最後の箱を置いた。
「終わり!」
係の男が声を上げる。
俺はその場に座り込んだ。
「疲れた……」
「最後遅かったな」
「お前が右とか言うからだろ」
「右は右だろ」
「向かい合ってたら逆になるんだよ」
「あ」
「あ、じゃない」
計画は細かいのに、肝心なところが抜けている。
ちょっと安心した。
完璧なやつだったら腹が立つところだった。
◇ ◇ ◇
結果は三位だった。
「微妙」
「いいだろ、三位」
「何組いた?」
「六組」
「真ん中じゃん」
「でも景品あるぞ」
三位の景品は、小さな焼き菓子が二つ。
一人一個。
「無料でこれなら勝ちだな」
俺が言うと、トーマがこっちを見る。
「何?」
「いや、すぐ金で考えるんだなと思って」
「考えてない」
「無料でこれなら勝ちって言ったじゃん」
「言葉のあや」
「ふーん」
こいつ、妙なところを拾う。
二人で焼き菓子を食べながら広場を離れた。
「でも、さっきの順番はよかったな」
「だろ?」
「最後の右以外」
「まだ言う?」
「そこが一番危なかった」
「次やるならちゃんと決めとく」
次。
トーマは普通にそう言った。
来年も一緒に出るつもりなのか、それとも別の競技でも見つけたらという意味なのか。
どっちでもいいか。
「トーマって、いつもああいうの考えるの?」
「ああいうの?」
「どれから運ぶとか」
「普通じゃない?」
「俺なら一番でかいのから行ってた」
「だろうな」
「何で分かるんだよ」
「レイン、最初に目立つやつ見るから」
「まだ二回しか会ってないよな?」
「分かりやすいんだよ」
失礼な。
でも、否定できないのが悔しい。
◇ ◇ ◇
祭りを歩いていると、トーマは意外といろいろ見ていた。
「あっちの焼き菓子、さっきの店より高い」
「本当だ」
「大きさ同じくらいなのにな」
「場所じゃない? こっちの方が広場の真ん中だし」
「それで高くする?」
「人多いから売れるとか」
「ふーん」
危ない。
商売の話になりそうだ。
今日は遊ぶだけ。
「まあいいや。買わないし」
「俺も」
そのまま通り過ぎる。
少し歩くと、今度はトーマが急に立ち止まった。
「待って」
「何?」
「俺、あとどれくらい使える?」
「知らないよ」
「さっき何に使ったっけ」
「串焼き、輪投げ、飲み物」
「焼き菓子は?」
「あれ景品」
「あ、そっか」
トーマが指を折りながら数える。
「……まだいける」
「お前も結構使ってるじゃん」
「祭りだからな」
「俺に説教したくせに」
「金なくなるまで使わなきゃいいんだよ」
それはそう。
俺たちは結局、帰りにもう一本ずつ串焼きを買った。
祭りで使った金は減った。
貯金は一切増えていない。
でも、まあ。
今日はそれでいい。
「来年は荷運び勝つぞ」
「まず右と左を覚えような」
「分かってるって」
「本当に?」
「じゃあ来年はレインが指示しろよ」
「いいよ」
何気なく答えてから、少しだけ笑った。
来年の話をする相手ができた。
それくらいなら、悪くない。




