同い年って、こんな感じ?
祭りの話を聞いてから、町の景色が少しだけ変わった。
いや、実際に変わっている。
広場には何本もの木材が運び込まれ、市場の端では大人たちが屋台らしきものを組み始めている。通りの上には紐が渡され、そこへ色のついた布が次々と結ばれていた。
祭りまで、あと数日らしい。
「結構ちゃんとやるんだな」
毎年やっているらしいけど、今までまともに見た記憶がない。
八歳の頃から何をしていたんだ、俺。
石鹸作ってたわ。
広場の端を歩いていると、何人かの子供が木箱を運んでいた。昨日見かけた遊んでいる連中とは違うが、年齢は俺と同じくらいに見える。
「そっちじゃないって!」
「こっちって言っただろ!」
「だから、そのこっちが分かんねえんだよ!」
楽しそうというより、普通に揉めている。
一人が木箱を抱えたまま右へ行こうとし、もう一人が左を指差していた。
俺は少し離れたところを通り過ぎようとした。
「おい、そこの!」
嫌な予感がした。
そのまま歩く。
「金髪のやつ!」
俺か。
振り返ると、木箱を持った少年がこっちを見ていた。
「ちょっと手伝ってくれ!」
「俺?」
「他に誰がいるんだよ」
いるだろ。
お前の隣に二人も。
◇ ◇ ◇
「これ、どこに持ってくの?」
「広場の向こう。井戸の近く」
「じゃあ何で揉めてたんだよ」
「こいつが西側って言ったんだよ」
「西側だろ!」
「井戸は南だって!」
「広場から見たら西だ!」
「どこから見てんだよ!」
「……俺、帰っていい?」
「駄目」
何でだよ。
結局、四人で木箱を運ぶことになった。
箱の中身は祭りで使う木の器だった。大して重くはないが、数があるので子供たちも手伝わされているらしい。
「お前、見ない顔だな」
隣を歩いていた少年が言った。
最初に俺を呼び止めたやつだ。
黒に近い茶色の髪を短く切っていて、俺より少し細い。服は地味だけど、ところどころ丁寧に繕われている。
「この町に住んでるよ」
「どこ?」
「北側」
「じゃあ市場あんまり来ない?」
「いや、結構来る」
「じゃあ何で知らないんだろ」
「俺に聞かれても」
むしろ俺も、お前を知らない。
「俺、トーマ」
「レイン」
「レイン?」
「何?」
トーマが俺の顔をじっと見る。
「どっかで聞いたことあるな」
「よくある名前なんじゃない?」
「そうかな」
適当に誤魔化した。
石鹸かカバンのどちらかで聞いた可能性がある。
まあ、わざわざ言うことでもない。
「何歳?」
「十三」
「同じじゃん」
「おお」
初めて会った同い年との会話がこれでいいのだろうか。
前世の記憶があるせいで、どうしても年上と話す方が楽だ。
「祭り、何やる?」
「何やるって?」
「遊ぶだろ?」
「……たぶん」
「何だよ、たぶんって」
トーマが笑った。
「友達と回らないの?」
「その予定はない」
「一人?」
「悪い?」
「別に。俺も途中から一人になるし」
「何で?」
「こいつらと回ると金なくなるから」
後ろの二人から「聞こえてるぞ!」と声が飛んできた。
トーマは気にせず続ける。
「去年なんか、こいつが投げ輪に全部使ったんだぞ」
「全部じゃねえ!」
「帰りに串焼き買えなかっただろ」
「それは……」
「全部じゃん」
俺は思わず笑った。
なんだ。
十三歳でも、金の使い方で後悔するのか。
ちょっと親近感が湧いた。
◇ ◇ ◇
木箱を井戸の近くまで運ぶと、大人が受け取ってくれた。
これで終わりらしい。
「助かった」
「俺、ほとんど何もしてないけど」
「一箱運んだだろ」
「それでいいの?」
「いいんじゃね?」
適当だな。
トーマたちは次の手伝いがあるらしく、広場へ戻っていく。
「じゃあな、レイン」
「うん」
「祭りで見かけたら声かけるわ」
「分かった」
そこで別れた。
あっさりしたものだった。
名前を聞いて、少し話して、一緒に箱を運んだだけ。
友達になったのかと聞かれたら、たぶんまだ違う。
でも、昨日まで町を歩いていても、同い年のやつと話すことなんてほとんどなかった。
「トーマか」
名前を覚えておくくらいはいいだろう。
◇ ◇ ◇
帰ろうとして、広場の反対側へ歩く。
途中、屋台の準備をしている店の前で足が止まった。
串焼き。
焼き菓子。
果物を使った飲み物。
小さな木細工。
祭り用なのか、普段は見ないものまで並べるらしい。
「……結構使いそうだな」
さっきのトーマの話を思い出す。
祭りで金を使いすぎて、帰りに串焼きすら買えなかったやつ。
笑っていたけど。
俺も普通にやりそうだ。
「先に使う額、決めとくか?」
財布に入っているだけ使えると思うから駄目なのだ。
祭り用に使っていい金を決めて、それだけ持っていく。
完璧じゃないか。
「俺、賢いな」
「何が?」
「うわっ」
いつの間にか、さっき別れたはずのトーマが後ろにいた。
「何でいるの?」
「忘れ物」
「びっくりした……」
「で、何が賢いんだ?」
「何でもない」
「一人で喋ってたぞ」
「聞かなかったことにして」
トーマは変な顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
「あ、そうだ」
「何?」
「祭り、一人なら一緒に回る?」
「え?」
「俺、昼くらいから暇になるから」
突然だった。
でも、断る理由もない。
「いいよ」
「じゃあ広場でな」
「時間は?」
「昼前くらい」
「適当だな」
「祭りなんてそんなもんだろ」
そう言って、トーマは走っていった。
俺はその背中を見送る。
「……一緒に回るのか」
祭り。
同い年。
遊ぶ。
少しずつ、十三歳らしくなってきた気がする。
まあ、中身は三十歳をとっくに過ぎてるんだけど。
そこは考えないことにしよう。




